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第1章
ミランダ
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「あんたも災難だったねえ。良いとこのお嬢さんだったんだろう?まさかこんな事に巻き込まれるなんてね。でもあんたはまだマシな方さ。シークベルト家の奴隷なら、生活に困ることはないし命の危険もない。リンド様はああ見えて慈悲深いお方だよ」
屋敷の一室で女中にゴシゴシと石鹸をつけたブラシで洗われながら、カリーナは初めて公爵の名前を聞いた。
「リンド……リンド・シークベルト様というのですね。公爵様は」
「なんだい、お名前も知らないでここに来たのかい。そうさ。シークベルト家はこのバルサミア国で一位二位を争う貴族さ。リンド様のお母様は元々王女様だったお方。国王御一家とも繋がりがあるってことさ」
思ったよりもすごい家に来てしまったらしい。
でもどんな家に引き取られようと奴隷は奴隷。
このままでは自分に明るい未来はないのだと心に刻む。
「他の貴族や商人のところにもらわれた娘達は、乱暴されたりこき使われたりして短命だとも聞くよ。リンド様は決してそんなことしないから安心しな」
なるほど、血も涙もないと思っていたが、そこまでではないのか。
それにしてもあの大広間での態度はいただけない。
「そうだ、あんたの名前を聞いてなかったね、あたしはミランダ。このお屋敷で長年女中をしているんだ。新しく入った奴隷達の世話係をしているよ」
そう言ったミランダは大柄な赤毛の女性で話しやすく、母の様な優しさを感じた。
「カリーナ。カリーナ・アルシェと申します。元はアルハンブラの侯爵一家の生まれです。父と母は戦争で亡くなってしまいましたので、天涯孤独の身です……よろしくお願い致します」
「そうかい……やっぱり生粋のお嬢さんだったんだねぇ。元気を出しな、よろしくねカリーナ。さてと、まずは身だしなみからだね。」
ゴシゴシと洗われたおかげで黒ずんでいた皮膚が明るさを取り戻した。
パサパサだった髪も、なんとか見れるレベルまで改善された。
カリーナの腰まである長い黒髪をミランダは後ろで三つ編みにした後、まとめてピンで留める。
「なんだい、あんたかなりの器量良しじゃないか」
洗い終えたカリーナの姿を見て、ミランダが惚れ惚れしたようにそう告げた。
実際カリーナは幼い頃よりその容姿を褒められて育ってきた。
今でもきちんと身なりを整えればかなりの美しさになるだろう。
「いずれどこかのお貴族様の元へ貰われていくかもしれないねぇ……おっと、喋りすぎたかい? それはともかく、この服……というのかわからないが、あまりに汚すぎるから捨てていいかね。公爵家で働く以上、奴隷といえども清潔感が大切だよ」
ミランダは眉間に皺を寄せながら、今まで私が着ていた薄汚れた白布をポイと投げ捨てた。
その代わりに真っ白な袖付きのワンピースを着せてもらう。
侯爵令嬢だった時に比べれば雲泥の差だが、サラリとしていて先程のものとは比べ物にならないほど着心地がいい。
チラリと横目で鏡を見ると、先ほどとは別人のように清潔感に溢れた姿があった。
(これが公爵家での私の姿……)
「さあ、これで出来上がりだ。部屋は二人部屋だよ。同じような年頃の娘同士で暮らすことになっている。新しく入ったばかりでは何かと嫌な思いをするかもしれないが、我慢しておくれ。あんたは歳のわりにしっかりしている子だし、じきに慣れるさ。屋敷のルールや仕事の内容は同じ部屋の子から教えてもらいな。それじゃ、あたしはこれでね」
ミランダはトントンとカリーナの肩を叩きながら早口でそう言った後、カリーナを部屋へ送り届けて立ち去った。
正直最後までミランダが付き添ってくれるものだと思っていたので若干の心細さはあるが、仕方ない。
カリーナは恐る恐る部屋のドアをノックしたのだった。
屋敷の一室で女中にゴシゴシと石鹸をつけたブラシで洗われながら、カリーナは初めて公爵の名前を聞いた。
「リンド……リンド・シークベルト様というのですね。公爵様は」
「なんだい、お名前も知らないでここに来たのかい。そうさ。シークベルト家はこのバルサミア国で一位二位を争う貴族さ。リンド様のお母様は元々王女様だったお方。国王御一家とも繋がりがあるってことさ」
思ったよりもすごい家に来てしまったらしい。
でもどんな家に引き取られようと奴隷は奴隷。
このままでは自分に明るい未来はないのだと心に刻む。
「他の貴族や商人のところにもらわれた娘達は、乱暴されたりこき使われたりして短命だとも聞くよ。リンド様は決してそんなことしないから安心しな」
なるほど、血も涙もないと思っていたが、そこまでではないのか。
それにしてもあの大広間での態度はいただけない。
「そうだ、あんたの名前を聞いてなかったね、あたしはミランダ。このお屋敷で長年女中をしているんだ。新しく入った奴隷達の世話係をしているよ」
そう言ったミランダは大柄な赤毛の女性で話しやすく、母の様な優しさを感じた。
「カリーナ。カリーナ・アルシェと申します。元はアルハンブラの侯爵一家の生まれです。父と母は戦争で亡くなってしまいましたので、天涯孤独の身です……よろしくお願い致します」
「そうかい……やっぱり生粋のお嬢さんだったんだねぇ。元気を出しな、よろしくねカリーナ。さてと、まずは身だしなみからだね。」
ゴシゴシと洗われたおかげで黒ずんでいた皮膚が明るさを取り戻した。
パサパサだった髪も、なんとか見れるレベルまで改善された。
カリーナの腰まである長い黒髪をミランダは後ろで三つ編みにした後、まとめてピンで留める。
「なんだい、あんたかなりの器量良しじゃないか」
洗い終えたカリーナの姿を見て、ミランダが惚れ惚れしたようにそう告げた。
実際カリーナは幼い頃よりその容姿を褒められて育ってきた。
今でもきちんと身なりを整えればかなりの美しさになるだろう。
「いずれどこかのお貴族様の元へ貰われていくかもしれないねぇ……おっと、喋りすぎたかい? それはともかく、この服……というのかわからないが、あまりに汚すぎるから捨てていいかね。公爵家で働く以上、奴隷といえども清潔感が大切だよ」
ミランダは眉間に皺を寄せながら、今まで私が着ていた薄汚れた白布をポイと投げ捨てた。
その代わりに真っ白な袖付きのワンピースを着せてもらう。
侯爵令嬢だった時に比べれば雲泥の差だが、サラリとしていて先程のものとは比べ物にならないほど着心地がいい。
チラリと横目で鏡を見ると、先ほどとは別人のように清潔感に溢れた姿があった。
(これが公爵家での私の姿……)
「さあ、これで出来上がりだ。部屋は二人部屋だよ。同じような年頃の娘同士で暮らすことになっている。新しく入ったばかりでは何かと嫌な思いをするかもしれないが、我慢しておくれ。あんたは歳のわりにしっかりしている子だし、じきに慣れるさ。屋敷のルールや仕事の内容は同じ部屋の子から教えてもらいな。それじゃ、あたしはこれでね」
ミランダはトントンとカリーナの肩を叩きながら早口でそう言った後、カリーナを部屋へ送り届けて立ち去った。
正直最後までミランダが付き添ってくれるものだと思っていたので若干の心細さはあるが、仕方ない。
カリーナは恐る恐る部屋のドアをノックしたのだった。
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