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第3章最弱魔王は修学旅行で頑張るそうです
第87話 サタンVSベルゼブブ
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対峙する現在の魔界の魔王と過去の魔界の悪魔。張り詰めた空気に、より一層の緊張がほとばしる。
動けない・・・――いや、簡単に動いてはいけない気がする・・・
じりじりと緊張だけが張り詰めていく中、ベルゼブブが先に動く。
首を左に一回、右に一回動かす。動かす度に静かな空間に骨が鳴る、ゴキッ・・・ゴキッ・・・という音が響き渡る。そして――
「う~~~ん~~~っとぉ~~~」
両腕をおもいきり上げ、気持ち良さそうに体を伸ばす。この張り詰めた空気の中でベルゼブブは何も感じていない――
――いや、余裕があると言った方がいいのだろう。強者故の余裕。そこから生まれてくる優越感。現に、サタンと対峙するものの、ベルゼブブは一度もサタンのことを敵として認識した様子がなかった。
ベルゼブブは最後に数回、軽くその場で跳ねると治った体の状態が分かったのか、サタンへと話しかける。
「あ~っと、お前誰?」
「・・・・・・俺は、魔王だ・・・」
悪魔に魔王だということを隠しても意味がない。サタンはゆっくりと答える。この答えに対し、どうでてくるか分からない。
頼むから・・・魔王に免じて改心してくれ・・・メルもいない、アズラしかいない状態でお前に勝てる未来《ビジョン》なんて見えてないんだよ!
サタンは願う。戦いたくない。先程言った、速攻で倒す――など、到底出来るはずがないのだ。最弱魔王には――。
「魔、王・・・魔力を少量しか感じないお前みたいなのが!?」
ベルゼブブは多少は驚いたのか、目をピクリと動かせ僅かな反応を見せる。しかし、信じている様子はない。
「冗談は止めてくれよ。魔王ってのはもっと魔力がある者のことを言うんだ。ヨハネ様のようにな」
ベルゼブブも前代魔王であるヨハネのことは認めていたのか、敬うように言う。しかし――
「――けど、ヨハネの奴はダメな魔王だ。人間と天使にヘコヘコ頭ばっか下げやがって、一向に魔界を強くしようとしない。あれは弱き者だ」
さっきの敬いはなんだったのか。ベルゼブブのヨハネへの敬いは既に無く、ヨハネを侮辱する。
「っ、よ、ヨハネ様は弱くなんてありません!」
「ん~~? ん~~? ん~~!? よく見たらアズラちゃんじゃ~ん」
ヨハネを侮辱され、怒ったアズラはサタンの後ろから、言う。しかし、ベルゼブブはそんなことよりも懐かしいアズラの姿を思い出す。
「――で、ヨハネのなにが弱くないって? 生れた時から、魔王に仕えていたアズラちゃん」
生まれた時から魔王に仕えていた・・・?
ベルゼブブの言った言葉にサタンの耳は反応する。言っていることが本当なのか、嘘なのかは分からない。サタンはアズラのことを余り多くは知らないからだ。
「ヨハネ様は最後の一人になっても諦めず、魔界を守ろうとしたんです!」
「最後の一人? 結局、裏切られて一人になったんじゃねぇか。情けない魔王だ」
「違います! ヨハネ様は――ヨハネ様は、人間界と天界から攻められ、皆が亡くなって一人になったんです。それでも、決して人間界と天界を攻めず、魔界をどうにかしようとしていたんです!」
「それは、弱かったからだろ。攻めなかったのは力のない者がすることだ。ただ、攻められ、反撃もしないで何を守れるんだ。奴は力はあっても弱くて情けない――意地もなにもない魔王なんだよ」
「違います!! ヨハネ様の意志がサタンさんを魔王とし、今も魔界を存在させているんです! ヨハネ様は弱くも情けなくもありません!」
一体、アズラとヨハネの間には何があったというのだろう。到底、想像出来るものでない。最後の二人から独りになったアズラ。
そのアズラがたまに見せる強気でここまで言ってるんだ。今の魔王の俺が黙っててどうする!
「そうだ・・・お前が言うように俺には魔力も少ししかない。――けど、今の魔王は俺だ。時間もないしそこを通してもらう!」
ペントも追うためにもこれ以上の時間を使いたくない。簡単に通れるとは思ってもいない。
だが、やるしかない!
「なら、俺は少ない魔力しか感じないがお前を喰おう。まだ完全に魔力が戻ったわけではないからな。少なくてもあるだけましだろうしな。そして、俺が魔王となろう」
「魔王は俺だ!」
サタンはベルゼブブに向かって駆け出す。剣もなければ銃もない。あるのは己の力だけ。
少ない魔力とメルと特訓した日々。――そして、ヨハネからの魔柱72柱の知識だけだ!
「ウオオオオオオ――魔王パンチ!」
サタンは右手に魔力を込める。右手を纏う闇色の魔力。ベルゼブブの顔目掛けて振り抜く。
ベルゼブブは動かず、避ける気配もなくサタンの攻撃を受けた。拳が正面からめり込み、綺麗な音がする。
全力の魔王パンチが思いの外、決まった。サタンは拳をさらに奥にめり込ませるために力を入れて押す。
「ダメです、サタンさん! 離れて――」
アズラが危険を知らせるため叫ぶ。サタンは言われるがまま、離れようとするが遅かった。めり込ませたはずの拳がベルゼブブの顔力に押され始める。そして、拳を離そうとするため引こうとした腕を掴まれた。
「あ~あ、これが魔王の力、か・・・」
ガッカリと声を小さくする。これが、現の魔界の王の力。昔の魔界とは本当に変わってしまったようだ。
「く・・・離せっ・・・!」
サタンは腕を引き離そうと上下に振り、じたばたと動かせる。しかし、離せることなく微動だにしない。
「悪魔の力、見せてやるよ」
掴んでいたサタンの腕を離すベルゼブブ。突然のことに、勢いよく腕を動かしていたサタンは反動から体をよろけさせる。と、そこへ――
「ぐぁ・・・」
ベルゼブブの重い一撃がサタンの腹部へとめり込んだ。膝から崩れ落ちるサタン。
「か~ら~の~」
さらに、追い撃ちをかけるようにベルゼブブは一回転し、勢いをつけてサタンを右足のかかとで蹴り飛ばす。
勢いをつけた脚力の威力は強力で、十数メートル離れた壁に蹴りつけられ、前向きに倒れる。
「がはっ――!」
血、それこそは出なかった。しかし、数本の骨が折れる音がした。体の中にある沢山の骨、その内の何本か折れる。
イテェェェェ! ――いや、骨が折れたから痛くはないのか・・・? って、そんなことよりも――
“勝てない”という言葉が頭をよぎった。ただ、殴られ蹴られた。それだけでこれだけの痛みと傷を負った。対して、ベルゼブブは痛みも傷も負っていない。
割りにあってないだろ!
サタンは倒れたまま体を幼虫のように這いずって動かす。手と足を動かすように頭に言い聞かせる。
良かった・・・なんとか手と足はまだ動く・・・
痛みに耐えながら掌をつき、根性で立ち上がる。
まだ、考える頭も残ってる・・・っ――!?
立ったのも束の間、目に前で悪魔が――ベルゼブブが飛んでいる。背中の四枚の羽で音もなく静かに飛ぶ。サタンはその姿に立ってから気づいた。
ベルゼブブから離れようとした瞬間、右頬を殴られる。そして、すかさずサタンの腹部へと拳をめり込ませるベルゼブブ。右肩、左肩――右足、左足――と、サタンの体隅々に連撃を撃ち込んでいく。
「サタンさんっ! もう止めて下さい!」
次から次へと新しい傷を負っていくサタンの姿を見てアズラは叫ぶ。しかし――
「あひゃひゃひゃ! 料理を食べる前には調理が必要だろ? 今調理中なんだから邪魔するな!」
ベルゼブブは止まることなくサタンを調理という表しで傷つけていく。
「・・・・・・っ、がぁっ――」
サタンは攻撃と攻撃の間に見つけた僅かな隙に、たった一回だけベルゼブブの体に足をつけて反動で後方へ離れる。
「お~まだ、それくらいの力は残ってたのか。美味しく頂くにはもう少し調理が必要だな」
ベルゼブブは余裕綽々の調子でサタンを見る。
「サタンさん!」
サタンの元へ駆け寄ろうとするアズラ。しかし――
「来るな!」
「っ・・・・・・!」
今まで怒鳴られたこともなく、体をすくませる。それでも、今までのアズラなら無視して行っていた。しかし、今回は本気なのだと感じ思いとどまる。
「はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・っ――」
ゴメンな、アズラ・・・怒鳴ったりして・・・でも、巻き込みたくないんだ。ベルゼブブを倒すには魔導砲を撃つしかない――!
「あ?」
サタンは魔導砲を撃つための、魔力を込める時間を稼ぐために魔柱72柱の悪魔――“多顔の悪魔・ダンタリオン”の魔能力を使い自分の姿の残像をベルゼブブの周りに放現させる。
「なんだ、これ?」
「いけ・・・」
残像は力もなく出来ることもない。しかし、時間を稼ぐためだけは出来る。ベルゼブブへ乗りかかる。
この間に・・・!
サタンはベルゼブブが残像の相手をしている内に、痛む腕を上げながら手を開き必要な魔力を込める。
「ち、邪魔くせぇ!」
初めは手で残像を消していたベルゼブブだが、その量の多さに嫌気がさし、右手に武器を召喚する。
「“魔銛《ません》・イリエタノア”!」
Uの字形にさらに一本の鋭い尖端。計三本の鋭い尖端を有している闇色の銛。その銛を軽やかに振り回し、サタンの残像を薙ぎ払い、消失させていく。魔銛を手にしたことにより一瞬にして全ての残像は消された。・・・・・・だが――
「もう終わりだぜぇ~」
「――いや、終わるのはお前だ・・・!」
「あ?」
向けられている両手の前に闇色の塊が見える。
「なんだ、それは・・・」
ベルゼブブの初めて見せた動揺にサタンは弱く口を緩ませる。
間に合った・・・――
「喰らえ――! 奥義――魔導砲!!」
込めるに込めた魔力の塊が勢いよくベルゼブブへと放出される。ゴウカを救うため、王城でロボット相手に使った時と比べて僅かに大きさと威力が成長している魔導砲。
「な、なにぃーーー!?」
喰らえば確実に無事では済まない威力。流石のベルゼブブでも恐怖を感じるだろう、そう思うサタン。しかし――
「――なんてな・・・」
ベルゼブブは恐怖など一切感じてなどいなかった。それどころか、恐怖を感じているかのような嘘の演技にまんまと騙されたサタンを嘲笑う。そして――
「フィナーレだ」
魔導砲が目前に迫ってきているにも関わらず、魔銛を回転するように上へと放り投げる。回りながら落ちてくる魔銛を掴む。そして尖端をサタンへと向け腕を後ろへと引く。
「串刺し――!」
ベルゼブブは魔導砲に向かって魔銛を投げる。ぶつかり合う魔導砲と魔銛。しかし、そのぶつかり合いは呆気なく終了する。
「んなっ!?」
魔銛が魔導砲をいくつもに裂きながら飛んでくる。当然サタンにその魔銛を交わす術もなければ壊す術もない。
「グフッ・・・!」
「サタンさーーん!」
魔銛はサタンの心臓を貫き、体を貫通していく。そして、そのまま飛び続け壁に突き刺さった。正しく、狩る者が狩られる者を突き刺したように。
口と体に出来た穴から血を吹き出しながら膝から崩れ落ちるサタン。
し、心臓がぁ・・・止まっ――
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・――と、静かに心臓が動きを止め、静止する。分かっていたことだがサタンは死んだ――。
「あ~あ、本当に弱いな……昔も今も……魔王は――!」
動けない・・・――いや、簡単に動いてはいけない気がする・・・
じりじりと緊張だけが張り詰めていく中、ベルゼブブが先に動く。
首を左に一回、右に一回動かす。動かす度に静かな空間に骨が鳴る、ゴキッ・・・ゴキッ・・・という音が響き渡る。そして――
「う~~~ん~~~っとぉ~~~」
両腕をおもいきり上げ、気持ち良さそうに体を伸ばす。この張り詰めた空気の中でベルゼブブは何も感じていない――
――いや、余裕があると言った方がいいのだろう。強者故の余裕。そこから生まれてくる優越感。現に、サタンと対峙するものの、ベルゼブブは一度もサタンのことを敵として認識した様子がなかった。
ベルゼブブは最後に数回、軽くその場で跳ねると治った体の状態が分かったのか、サタンへと話しかける。
「あ~っと、お前誰?」
「・・・・・・俺は、魔王だ・・・」
悪魔に魔王だということを隠しても意味がない。サタンはゆっくりと答える。この答えに対し、どうでてくるか分からない。
頼むから・・・魔王に免じて改心してくれ・・・メルもいない、アズラしかいない状態でお前に勝てる未来《ビジョン》なんて見えてないんだよ!
サタンは願う。戦いたくない。先程言った、速攻で倒す――など、到底出来るはずがないのだ。最弱魔王には――。
「魔、王・・・魔力を少量しか感じないお前みたいなのが!?」
ベルゼブブは多少は驚いたのか、目をピクリと動かせ僅かな反応を見せる。しかし、信じている様子はない。
「冗談は止めてくれよ。魔王ってのはもっと魔力がある者のことを言うんだ。ヨハネ様のようにな」
ベルゼブブも前代魔王であるヨハネのことは認めていたのか、敬うように言う。しかし――
「――けど、ヨハネの奴はダメな魔王だ。人間と天使にヘコヘコ頭ばっか下げやがって、一向に魔界を強くしようとしない。あれは弱き者だ」
さっきの敬いはなんだったのか。ベルゼブブのヨハネへの敬いは既に無く、ヨハネを侮辱する。
「っ、よ、ヨハネ様は弱くなんてありません!」
「ん~~? ん~~? ん~~!? よく見たらアズラちゃんじゃ~ん」
ヨハネを侮辱され、怒ったアズラはサタンの後ろから、言う。しかし、ベルゼブブはそんなことよりも懐かしいアズラの姿を思い出す。
「――で、ヨハネのなにが弱くないって? 生れた時から、魔王に仕えていたアズラちゃん」
生まれた時から魔王に仕えていた・・・?
ベルゼブブの言った言葉にサタンの耳は反応する。言っていることが本当なのか、嘘なのかは分からない。サタンはアズラのことを余り多くは知らないからだ。
「ヨハネ様は最後の一人になっても諦めず、魔界を守ろうとしたんです!」
「最後の一人? 結局、裏切られて一人になったんじゃねぇか。情けない魔王だ」
「違います! ヨハネ様は――ヨハネ様は、人間界と天界から攻められ、皆が亡くなって一人になったんです。それでも、決して人間界と天界を攻めず、魔界をどうにかしようとしていたんです!」
「それは、弱かったからだろ。攻めなかったのは力のない者がすることだ。ただ、攻められ、反撃もしないで何を守れるんだ。奴は力はあっても弱くて情けない――意地もなにもない魔王なんだよ」
「違います!! ヨハネ様の意志がサタンさんを魔王とし、今も魔界を存在させているんです! ヨハネ様は弱くも情けなくもありません!」
一体、アズラとヨハネの間には何があったというのだろう。到底、想像出来るものでない。最後の二人から独りになったアズラ。
そのアズラがたまに見せる強気でここまで言ってるんだ。今の魔王の俺が黙っててどうする!
「そうだ・・・お前が言うように俺には魔力も少ししかない。――けど、今の魔王は俺だ。時間もないしそこを通してもらう!」
ペントも追うためにもこれ以上の時間を使いたくない。簡単に通れるとは思ってもいない。
だが、やるしかない!
「なら、俺は少ない魔力しか感じないがお前を喰おう。まだ完全に魔力が戻ったわけではないからな。少なくてもあるだけましだろうしな。そして、俺が魔王となろう」
「魔王は俺だ!」
サタンはベルゼブブに向かって駆け出す。剣もなければ銃もない。あるのは己の力だけ。
少ない魔力とメルと特訓した日々。――そして、ヨハネからの魔柱72柱の知識だけだ!
「ウオオオオオオ――魔王パンチ!」
サタンは右手に魔力を込める。右手を纏う闇色の魔力。ベルゼブブの顔目掛けて振り抜く。
ベルゼブブは動かず、避ける気配もなくサタンの攻撃を受けた。拳が正面からめり込み、綺麗な音がする。
全力の魔王パンチが思いの外、決まった。サタンは拳をさらに奥にめり込ませるために力を入れて押す。
「ダメです、サタンさん! 離れて――」
アズラが危険を知らせるため叫ぶ。サタンは言われるがまま、離れようとするが遅かった。めり込ませたはずの拳がベルゼブブの顔力に押され始める。そして、拳を離そうとするため引こうとした腕を掴まれた。
「あ~あ、これが魔王の力、か・・・」
ガッカリと声を小さくする。これが、現の魔界の王の力。昔の魔界とは本当に変わってしまったようだ。
「く・・・離せっ・・・!」
サタンは腕を引き離そうと上下に振り、じたばたと動かせる。しかし、離せることなく微動だにしない。
「悪魔の力、見せてやるよ」
掴んでいたサタンの腕を離すベルゼブブ。突然のことに、勢いよく腕を動かしていたサタンは反動から体をよろけさせる。と、そこへ――
「ぐぁ・・・」
ベルゼブブの重い一撃がサタンの腹部へとめり込んだ。膝から崩れ落ちるサタン。
「か~ら~の~」
さらに、追い撃ちをかけるようにベルゼブブは一回転し、勢いをつけてサタンを右足のかかとで蹴り飛ばす。
勢いをつけた脚力の威力は強力で、十数メートル離れた壁に蹴りつけられ、前向きに倒れる。
「がはっ――!」
血、それこそは出なかった。しかし、数本の骨が折れる音がした。体の中にある沢山の骨、その内の何本か折れる。
イテェェェェ! ――いや、骨が折れたから痛くはないのか・・・? って、そんなことよりも――
“勝てない”という言葉が頭をよぎった。ただ、殴られ蹴られた。それだけでこれだけの痛みと傷を負った。対して、ベルゼブブは痛みも傷も負っていない。
割りにあってないだろ!
サタンは倒れたまま体を幼虫のように這いずって動かす。手と足を動かすように頭に言い聞かせる。
良かった・・・なんとか手と足はまだ動く・・・
痛みに耐えながら掌をつき、根性で立ち上がる。
まだ、考える頭も残ってる・・・っ――!?
立ったのも束の間、目に前で悪魔が――ベルゼブブが飛んでいる。背中の四枚の羽で音もなく静かに飛ぶ。サタンはその姿に立ってから気づいた。
ベルゼブブから離れようとした瞬間、右頬を殴られる。そして、すかさずサタンの腹部へと拳をめり込ませるベルゼブブ。右肩、左肩――右足、左足――と、サタンの体隅々に連撃を撃ち込んでいく。
「サタンさんっ! もう止めて下さい!」
次から次へと新しい傷を負っていくサタンの姿を見てアズラは叫ぶ。しかし――
「あひゃひゃひゃ! 料理を食べる前には調理が必要だろ? 今調理中なんだから邪魔するな!」
ベルゼブブは止まることなくサタンを調理という表しで傷つけていく。
「・・・・・・っ、がぁっ――」
サタンは攻撃と攻撃の間に見つけた僅かな隙に、たった一回だけベルゼブブの体に足をつけて反動で後方へ離れる。
「お~まだ、それくらいの力は残ってたのか。美味しく頂くにはもう少し調理が必要だな」
ベルゼブブは余裕綽々の調子でサタンを見る。
「サタンさん!」
サタンの元へ駆け寄ろうとするアズラ。しかし――
「来るな!」
「っ・・・・・・!」
今まで怒鳴られたこともなく、体をすくませる。それでも、今までのアズラなら無視して行っていた。しかし、今回は本気なのだと感じ思いとどまる。
「はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・っ――」
ゴメンな、アズラ・・・怒鳴ったりして・・・でも、巻き込みたくないんだ。ベルゼブブを倒すには魔導砲を撃つしかない――!
「あ?」
サタンは魔導砲を撃つための、魔力を込める時間を稼ぐために魔柱72柱の悪魔――“多顔の悪魔・ダンタリオン”の魔能力を使い自分の姿の残像をベルゼブブの周りに放現させる。
「なんだ、これ?」
「いけ・・・」
残像は力もなく出来ることもない。しかし、時間を稼ぐためだけは出来る。ベルゼブブへ乗りかかる。
この間に・・・!
サタンはベルゼブブが残像の相手をしている内に、痛む腕を上げながら手を開き必要な魔力を込める。
「ち、邪魔くせぇ!」
初めは手で残像を消していたベルゼブブだが、その量の多さに嫌気がさし、右手に武器を召喚する。
「“魔銛《ません》・イリエタノア”!」
Uの字形にさらに一本の鋭い尖端。計三本の鋭い尖端を有している闇色の銛。その銛を軽やかに振り回し、サタンの残像を薙ぎ払い、消失させていく。魔銛を手にしたことにより一瞬にして全ての残像は消された。・・・・・・だが――
「もう終わりだぜぇ~」
「――いや、終わるのはお前だ・・・!」
「あ?」
向けられている両手の前に闇色の塊が見える。
「なんだ、それは・・・」
ベルゼブブの初めて見せた動揺にサタンは弱く口を緩ませる。
間に合った・・・――
「喰らえ――! 奥義――魔導砲!!」
込めるに込めた魔力の塊が勢いよくベルゼブブへと放出される。ゴウカを救うため、王城でロボット相手に使った時と比べて僅かに大きさと威力が成長している魔導砲。
「な、なにぃーーー!?」
喰らえば確実に無事では済まない威力。流石のベルゼブブでも恐怖を感じるだろう、そう思うサタン。しかし――
「――なんてな・・・」
ベルゼブブは恐怖など一切感じてなどいなかった。それどころか、恐怖を感じているかのような嘘の演技にまんまと騙されたサタンを嘲笑う。そして――
「フィナーレだ」
魔導砲が目前に迫ってきているにも関わらず、魔銛を回転するように上へと放り投げる。回りながら落ちてくる魔銛を掴む。そして尖端をサタンへと向け腕を後ろへと引く。
「串刺し――!」
ベルゼブブは魔導砲に向かって魔銛を投げる。ぶつかり合う魔導砲と魔銛。しかし、そのぶつかり合いは呆気なく終了する。
「んなっ!?」
魔銛が魔導砲をいくつもに裂きながら飛んでくる。当然サタンにその魔銛を交わす術もなければ壊す術もない。
「グフッ・・・!」
「サタンさーーん!」
魔銛はサタンの心臓を貫き、体を貫通していく。そして、そのまま飛び続け壁に突き刺さった。正しく、狩る者が狩られる者を突き刺したように。
口と体に出来た穴から血を吹き出しながら膝から崩れ落ちるサタン。
し、心臓がぁ・・・止まっ――
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・――と、静かに心臓が動きを止め、静止する。分かっていたことだがサタンは死んだ――。
「あ~あ、本当に弱いな……昔も今も……魔王は――!」
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