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第3章最弱魔王は修学旅行で頑張るそうです

第70話 魔王の色々な初体験②

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「これが飛行機・・・!」

 フー空港でバスを降り、そこから二本の翼がある大きな機体――飛行機に初めて乗ったサタンは空中を飛んでいることに感動していた。

 正直、自分でも変身《マキシム》したら空を飛べるけど、これはまた自分で空を飛ぶのとは違って良い!

 窓の外へと視線を向ける。飛行機の下にあるたくさんの雲。

 ただ、空へ飛ぶ時に耳が痛くなるのをどうにかしてほしいな・・・自分ではそんな事が起こらないからな・・・

 サタンは未だに痛む耳に指を突っ込みながら思った。そして、自分以外の皆はどうなっているのかが気になり辺りに視線を配った。

「寝てる・・・」

 皆は寝ていた。静かに眠りについていた。隣にいたメルも鼻ちょうちんを作って眠り込んでいる。ゴウカもモカもイサムもダエフも皆静かだ。

 俺も寝るか・・・

 サタンも寝ようと思い、目を瞑った。そして、次に目が覚めた時は既にもうウー空港に着いてメルに起こされた時だった――。


 サタン達はレイク島《とう》に到着するために最後に乗るもの――海を渡ることが出来る船に乗っていた。

 飛行機が着いたウー空港を出て、すぐの所にあった港。そこからレイク島に着くことが出来る船。もちろん、サタンは船にも乗った事などない。

 初めて乗る船・・・海の上を走るってどんな事なんだろう・・・?

 こんな、幼い子どもが抱くような事を思いながら船に乗ったサタン。そして、実際に海の上を走ると――、

 船、スゲェ・・・本当に海の上を走ってる・・・それに、吹いてくる向かい風が気持ちいい・・・!

 感動した。

「ん~~・・・風が気持ちいいですね~」

 隣にいたメルがうんと腕を伸ばしながら気持ち良さそうに話しかけてきた。風に揺れるメルの白銀の髪を見て不意にサタンはドキッとしてしまう。

「そうだな・・・」

「もう、そろそろ着くようですよ! 楽しみです!」

 メルはサタンの隣で楽しみを隠せないという様子ではしゃぎ出す。

 それからしばらくして――。

「見えました!」

 レイク島がついに船の上から見えた。メルが言うのと同時の辺りにいた生徒達は口々に歓喜の声を漏らす。

 あれがレイク島・・・!

 あまり声には出さなかったがサタンも実際にレイク島を見ると体がウズウズとして止まらなかった。

「いよいよだね~」

 メルの隣にモカがレイク島を見ながら一人で現れた。

「ゴウカはどうしたんですか?」

 さっきまでモカはゴウカといた。しかし、今やって来たのは一人。ゴウカの姿が見当たらない。

「ちょっと酔っちゃったみたいで、今横になってるんだ~」

 どうやらゴウカは船酔い・・・とやらになったらしい。サタンには船酔いが何なのかは分からなかった。

「それは、心配ですね」

「まぁ、島に着いたら大丈夫だよ~気分も良くなってると思うよ~」

 ゴウカを心配するメルを他所にモカはゴウカの事をそれほど心配していないふうに見えた。

 そうこうしている内に、サタン達を乗せた船はレイク島の港へと到着した――。


 ◇


「ここが、レイク島《とう》・・・」

 レイク島に到着したり船から降りたサタンは下を向きながらレイク島の土地を足で踏みしめていた。

 レイク島は島全体が大きい。周りは海に囲まれていて、いわゆる孤島となっている。しかし、島全体が大きい割には大きなホテルが一つあるだけで、他には何もなかった。

 サタンは適当とは言え、自分で選んでしまった事に少し罪悪感を覚えたが、それは黙っていることにした。


「では、荷物をホテルに置いたら再びここに集合してください。今日は、それから、向かいにあるジディ島《とう》へ勉強しに行きます!」

 船から降りたサタンと他のスタレマン学園の生徒達は港の近くにある浜辺で今日の説明を聞いていた。

 修学旅行は二泊三日。今日は、勉強をし、明日は遊ぶという予定となっているらしい。

 説明を聞き終えたサタン達はホテルに向かって手に自分の荷物を持って歩き始めた。
 浜辺からホテルまでの距離は近く、歩いてすぐだった。

「では、また後で会いましょう」

 ホテルに着くメルとモカ、サタンとゴウカとイサムという二組に分かれた。3組であるサタン達はホテルの三階に泊まるのだが、男子と女子で三階へ登る階段が分かれている。

「ああ」

 そして、二組に分かれたサタン達はそれぞれの部屋に向かって登った。


「そう言えばもう気分は大丈夫なのか? ゴウカ」

 部屋に荷物を置いたサタンは先程まで船酔いというのをしていたゴウカに聞いた。

「うん! さっきまで横になってからね~もう大丈夫!」

 サタンに聞かれたゴウカは元気になったという風に腕を回して見せた。

「船は酔いやすいからな」

 ベッドに座っていたイサムが腕を回しているゴウカに言った。

「イサムは本を読んでいたけど酔わなかったの?」

 ゴウカはイサムが船で本を読んでいた事を見ていた。なのに酔っていない。どうやら不満そうだ。

「俺は別に乗り物酔いとかしないからな・・・」

「ふ~ん・・・羨ましいよ・・・」

 当然の如く答えるイサムにゴウカは少しばかりの妬みを含んだ声で返事した。

「とりあえず、そろそろ浜辺に行くか?」

 サタンはゴウカとイサムに向かって聞いた。

 遅くなったら、メルに文句でも言われそうだしな・・・

「そうだね」

「行くか」

 ゴウカとイサムが答え、三人は部屋を出て浜辺へと向かった――。


 サタン、ゴウカ、イサムの三人が浜辺に着くと既にもうメルとモカがいた。

「お~い~こっちだよ~」

 三人の姿に気がついたモカが手を振って呼ぶ。

 メルとモカの元へと行ったサタンとゴウカ。イサムだけは少し離れた所の木陰に座った。

「もう来てたんだね」

 ゴウカはモカに話しかける。

「うん。メルと二人だし早かったよ。ね? メル」

「はい。さっさと荷物を置いて早く着ていたんです」

 メルとモカは顔を見合わせて声を合わせた。

「それより、もう大丈夫? 気分は良くなったの? ゴウカ」

 モカは酔っていたゴウカを心配して聞いた。

 あれで心配してたのか――

 と、サタンはモカの事を見ながら思った。

「うん! もう大丈夫だよ。心配かけてゴメンね」

「良かった~」

 そのまま、ゴウカとモカは二人で話始めた。

「サンタ達の部屋はどうなっていましたか?」 

 二人で話始めたゴウカとモカを放ってメルはサタンの隣に歩いて来た。

「大きなベッドが三個あっただけだ。後は、部屋の窓から外が見れた」

 サタン達の部屋はサタンが答えた通りだった。それぞれ、自分用の大きなベッドが置かれているだけだった。

「なんだ・・・私とモカの部屋と一緒じゃないですか~」

「そうなのか?」

「はい。私達の部屋も大きなベッドが私とモカの分、置かれているだけで、後は、部屋の窓から外が見れるだけでしたよ」

 どうやら部屋の造りはどの部屋も同じらしい。
 と、サタンとメルがそんな事を話しているとだんだんと他の生徒達も浜辺に集まりだし、やがて、教師の一人が前に出て立った。

「皆さん、きちんと集合しましたね? それでは、これよりジディ島へ向かいます! もう一度船に乗って下さい」

 こうして、サタン達はもう一度船に乗り、レイク島から少し離れた島――ジディ島へと向かった――。


 ◇


 ジディ島《とう》へは、本当に船ですぐに着いた。元々、レイク島《とう》が海で囲まれているため、レイク島からも場所によってはジディ島を見ることが出来る程だ。

 そして、ジディ島には大きな、とてつもない縦にも横にも上にも大きな研究所がある。その、研究所を出入り口へと続く道を除いてたくさんの草や木が生い茂っている。正しく、孤島の研究所らしき感じを放っている。

 サタン達は船から降りた後、それぞれのクラスにまとめられ、集合させられていた。

 と、そこへ、一人の中年くらいの男が爽やかな笑顔を浮かべながら歩いて来る。

「スタレマン学園の皆様、こんにちは! ダディ研究所へようこそ、おいで下さいました。私はここ――ダディ研究所の最高研究者――オンドラマナでございます!」

 やって来たのはダディ研究所の最高研究者であるオンドラマナだった。オンドラマナはスタレマン学園の生徒達を一回り見渡すと軽く頭を下げて一礼をした。
 そして、顔を上げると再び爽やかな笑顔を浮かべながらここで行われる事について説明を始めた。

「今日は一日、ここ――ダディ研究所で能力について少しでも理解を深めていただけたらと思います!」

 ここでは、改めて能力についての勉強が待っていた。

 能力か・・・俺が魔王だって事がバレないようにしないと・・・ヨハネ曰くは魔力を人間が簡単に見ることは出来ないと言っていたが、実際、あれからは俺も少しは強くなった・・・はずだ・・・だからこそ、魔力が見えるようになっているかも知れないからな・・・気をつけよう・・・!

 サタンは魔王。そして、魔界の者の能力は魔能力。魔力を使う事が出来る。しかし、それは、いつか魔王だということが知られてしまうかもしれないという危険でもあるのだ。だからこそ、サタンはダディ研究所へ入る前に気を引きしめる。

「私も少しでも皆様に能力について理解を深めていただけるよう精一杯説明刺せていただくので頑張ってついてきてください! では、こちらへどうぞ」

 そう言うと、オンドラマナは先頭に立ち、スタレマン学園の皆を先導しダディ研究所の中へと連れて行った――。


「デケェーーーー!」

 誰かがそう言っていた。ダディ研究所の中は誰かがそう言っていた通り、大きく、広く、幾つもの通路があり、部屋がある。そして、たくさんの白い服を着た研究員がなにかしらの研究をしていた。

「では、私は準備があるのでここで失礼します」

 研究所の中、入って少しした所でオンドラマナは一度、立ち止まった。そして、一人の男の研究員に向かって呼びかけ、こちらへ来るように、と申した。男の研究員はオンドラマナに呼ばれ歩いて来る。

「ここからはこのガフェタが案内します。ガフェタの指示に従って来てください」

 オンドラマナは皆の前でガフェタと呼ばれる研究員を紹介した。ガフェタはサタンよりも少し年上の見た目をしている。それでいて顔は研究のしすぎなのかやつれているように見える。

 そして、オンドラマナはガフェタに――、

「後は頼んだぞ」

 と、肩に手を置いてどこかへ行ってしまった。ガフェタはどこかへ行くオンドラマナに小さく「はい」と返事をし頭を軽く下げる。

 そして、ガフェタは頭を上げ――、

「どうぞこちらへ」

 と、スタレマン学園の皆をどこかの部屋へと案内した。

 ガフェタに続いて、ぞろぞろと歩いていると――、

「っ・・・・・・!?」

 な、なんだ――!? なにかあの奥から感じるものが・・・

 サタンだけが別の通路から漂ってくるを歩いていて感じとった。サタンは歩いている通路とは別の――その何かが漂ってきた通路を見つめ立ち止まっていた。すると――、

「どうかしましまたか?」

 と、サタンを呼びにメルが来た。サタンはメルに呼ばれ一瞬視線を反らした。

「いや・・・あそこから――」

 そして、サタンが感じた方向を指差した。しかし・・・・・・――、

「――・・・・・・!?」

 既にそこからは何も感じなくなっていた。

 サタンが不思議に思い止まっていると――、

「? 早く行きましょう? 置いていかれますよ?」

 メルは不思議そうにしているサタンを不思議に思いながら言った。

「・・・あ、ああ・・・・・・」

 メルに言われてサタンは何かを感じた通路を後にし、皆の列に戻った。


 ◇


 サタン達がガフェタに連れて来られたのは丸い円の形をしている大きな部屋。その部屋の形に沿うように椅子が丸くなるようにと並べられている。

 部屋に着いたサタン達はその椅子に座らされオンドラマナが出てくるのを待たされていた。サタンは一番端の椅子に座り、さっきの何かが気になって仕方がなかった。

「さっきからどうしたんですか?」

 と、隣から声が聞こえてきた。声の主はメル。メルは未だに悩んでいるサタンが気になってしまう。

「いや・・・」

「もしかして、トイレに行きたいんですか? だったら、早くした方がいいですよ。もう少しで始まりそうですからね」

 トイレ・・・そうか・・・! その手があった・・・!

 サタンはメルに言われて何かを思いついた。そして――、

「メル・・・ありがとな・・・」 

 メルに礼を言うと急いで椅子から立ち、駆け出そうとした。そのサタンの様子に驚くメル。

「ど、どこへ行くんですか!?」

 駆け出そうとするサタンの腕を掴むメル。

「トイレだよ。トイレ!」

 サタンはトイレに行こうとしたのだ。しかし、それは表面。きちんと裏面の理由がある。

「ああ・・・トイレですか・・・でしたら早く――って、聞いてるんですか?」

 サタンはメルの言葉も聞かずに走り出した。そして――、

「大丈夫! すぐ戻る!」

 メルに叫びながら消えていった。

「ちょ、ちょっと――」

 呼び止めようと椅子から立ったメルだが、周りから起こったまばらな拍手によって後ろを振り返った。オンドラマナが前に出て、話を始めようとしたのだ。二つの機械とモニターらしきものを持って。

 オンドラマナの登場にメルは仕方なく座り直した。

(サタン早く帰ってくるんですよ・・・――)

 メルは心の中でサタンに呼びかけ、オンドラマナの話を聞き始めた。


 その頃、サタンは連れて行かれた部屋を出て、さっきの何かを感じた通路へと向かっていた。

 トイレなんて嘘だ! 早くさっきの通路の奥に・・・!

 メルに言った事は嘘。トイレなんて全くの虚言。

「着いた・・・ここだ――!」

 部屋を出て少しでその通路には着いた。そして――、

 やっぱり、感じとれる・・・俺に似たものが・・・!

 その通路の奥からは何かが感じとれた。サタンと同じようなもの。不気味にも感じられる。

 サタンは唾をゴクリと飲み込み、その通路の奥に向かって歩き出す。ゆっくりと慎重に。

 そうして、たどり着いた通路の奥は一つの部屋になっていた。サタンは恐る恐るその部屋のドアの取っ手へと手を伸ば――、

「っ・・・・・・!」

 そうとしていた腕を、とっさに横から伸びてきた手に掴まれた。
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