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第3章最弱魔王は修学旅行で頑張るそうです

第68話 修学旅行までの時間

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 スタレマン学園恒例フットサル大会が終わりに約1ヶ月の時が流れた。季節はすっかりと暑くなり変わっていた。

「アチィ・・・!」

 サタンは城の前で、大きなカバンを一つ横に置きながらメルが出てくるのを待っていた。カバンの中には修学旅行で必要となるであろう物を少々入れ、ほとんどの部分は空にしていた。

 不意にサタンから出た汗が頬を伝い、地面に小さな音を立てながら流れ落ちた。

 フットサル大会から約1ヶ月か・・・早いな・・・結局、あの日は――


 ◇


 ミノリ・コーエの試合終了の声と共に無事幕を閉じたフットサル大会。スタレマン学園の生徒は帰宅する者や、試合の片付けをする者、クラスの友達であろう者達と楽しく話している者達がいた。

 サタン達3組は、ゴウカとモカは二人でモカの親の元へと帰っていった。イサムは一人でさっさとどこかへ帰ってしまった。
 サタンとメルは二人でアズラとラエルがいる観客席辺りへと戻った。

「サタンさん!」

 アズラとラエルの元へと戻るとアズラは強くサタンの手を握った。そして――、

「やりましたね! とてもカッコ良かったです!」

 腕をぶんぶんと振り上げ、精一杯サタンに熱い思いを伝えた。

「あ、アズラ・・・少し、声が大きい! これだと俺の名前が誰かにバレる!」

 サタンは手を振り上げられながら興奮しているアズラに声を抑えるように言う。

「そ、そうでしたね・・・すいません、興奮してしまって・・・」

 サタンに言われたアズラはようやく気づいたのか、手を振り上げるのを止めて、声を抑えた。恥ずかしそうに頭に手を置くアズラの姿がサタンにはめっぽう可愛く見えた。

「では、改めて・・・」

 そして、アズラはサタンに言われたように声を抑えてもう一度――、

「優賞おめでとうございます!」

 勝利を称えた。

「本当にカッコ良かったです・・・! 見に来れて幸せです!これからも私を誘ってくれてありがとうございました、サタンさん!」
「あ、ああ・・・!」

 まるで自分の事に喜んでくれるアズラの姿を見て、サタンの疲れなどは一気に吹き飛んだ。

 こんなに喜んでくれた・・・アズラを誘って本当に良かった・・・!

「アズラの方こそ見に来てくれてありがとうな!」

 サタンは今日だけでもたくさんアズラに感謝しないといけない事が増えた。お弁当を作ってくれた事、スライムが現れた時も一人にはしないと傍にいてくれた。そして、何より――、

 俺が諦めそうになった時、元気に励ましてくれた・・・! そして、俺を信じて、勝利を自分の事のように喜んでくれた・・・!

 だからこそ、サタンはアズラに感謝を伝えないといけなかった。しかし、今は試合を見に来てくれた事に先ず感謝し伝えた。


「メルゥ! 優賞おめでとう!」

 サタンとアズラを隣にしてラエルはメルを強く抱きしめた。ラエルの胸にメルの顔が埋まる。

「く、苦しいよ、お母さん・・・」

 ラエルの胸から顔を出し、息を吸うメル。

「けど、見に来てくれてありがとう! やっと、学校での私の事を見せることが出来て嬉しい・・・」
「メル・・・」

 メルとラエルは事情があり、バラバラに離れて暮らしていた。それ故、ラエルが母親としてメルの学校でどう過ごしているか等を見ることが出来なかった。

(――って、思っているでしょうね・・・だけどね、メル。私はいつもこっそりメルの事を見に行っていたのよ・・・)

 ラエルは母親としてメルの事を毎日影から――一瞬でもいいから、一目だけでいいから、と見に行っていたのだ。勿論、学校に親が共に参加出来るイベント等も変装して見に行った。
 そして、その度、一人でいるメルの姿を見て胸を痛めた。しかし、こんなに近くにいるのに何も出来ない。何も出来ない自分に腹が立つ。だから、せめて一目だけでも親として見守るために毎日見ていたのだ。
 しかし、その事をラエルがメルに話す事は決してない。

(だから――ここは・・・――)

「うん・・・カッコ良かったよ、メル。よく頑張ったね! 誰が何と言おうと今日のMVPはメルだって胸をはって言うからね!」

 精一杯メルを愛し、可愛がる。それが、ラエルの選んだ選択。

「お母さん・・・!」

 ラエルはもう一度強くメルを抱きしめた――。


 サタンとアズラ、メルとラエル。それぞれの伝えたい事を伝え終わるとアズラは筒状のお弁当箱を入れているカバンに手を入れ、何かを取り出した。

「皆で記念に写真を撮りましょう!」

 取り出したのはサタンにも見覚えのあるカメラだった。

「良いですね! 是非、撮りましょう!」

 メルはすぐにアズラに同意した。ラエルも頷いて――、

「そう言えば、私達四人で写真を撮った事なかったわね。それに、メルと一緒に写る写真なんて久しぶりで嬉しいわ」

 アズラに賛同した。
 サタンにとって写真は余り興味がなかったが、美女三人によって話が決まっていき断れる雰囲気ではなくなった。

 まぁ、可愛いアズラの提案だしな・・・!

 いや、結局サタンもなかなかの乗り気だったのである。

「はい、では、並んでください!」

 アズラはそこら辺にいた女性に写真を撮ってもらう事を頼み皆に呼び掛けた。

「では、撮りますよ~はい、チーズ!」

 アズラに頼まれた女性は心置きなく受けいれ、写真を撮った。

「うん・・・バッチリ撮れましたよ~」

 女性は綺麗に撮れた写真を見て、アズラにカメラを渡した。

「ありがとうございます!」

 アズラは女性からカメラを受け取りお礼を言った。女性は軽く頭を下げてその場を去って行った。

「うん・・・本当にしっかりと撮れています!」

 アズラは今撮れた写真を見ながら呟いた。すると、そこへメルもやって来てカメラをアズラの隣から覗いた。

「本当によく撮れていますね! あの方は写真を撮る天才なんでしょうか?」

 そこには、左からアズラ、サタン、メル、ラエルの四人が並んでいる姿が綺麗に写っていた。

「これを、お城に帰ったらきちんと現像して大事にしないと・・・」

 アズラは撮れたての写真をサタンとラエルにも見てもらってから大事にカバンにしまった。因みに、写真はサタンにもラエルにも好評だった――。


「では、そろそろ帰りましょう」

 写真を撮ってもらい、しばらくしてアズラが言った。日も落ち始め、辺りはオレンジ色に染まり出している。

「そうだな」

 サタン達はオレンジ色に染まっていく中、魔界にある城に帰り出した。今日はアズラがいる。だから、スタレマン学園を出て、辺りに誰もいない所まで行き、アズラのワープで魔界まで帰る。

「はぁ~・・・」

 人間界の辺りに誰もいない所まで歩いている時、アズラが大きな息を吐いた。

「どうしたんだ?」

 仲良く手を繋いで歩くメルとラエルを後ろから見ながら、隣で辛辣そうにしているアズラに聞いた。

「いえ、もう少ししたらサタンさんと離れないといけなくなると思うと・・・今から胸が痛いです・・・」
「離れる? 何でだ?」

 サタンにアズラと離れる気など一才ない。だから、アズラに言われた事が理解出来なかった。

「修学旅行ってご存じですか?」

 アズラに聞かれ、フットサル大会で優賞した褒美でも言われたが、分からなかったサタンは首を横に振って答えた。

「いや、俺が知っているのは旅行だけだ」
「修学旅行というのはですね、学校にいる人皆でお泊まりに行く事なんですよ・・・だから、修学旅行に行っている間、サタンさんと離ればなれになると思うと・・・」

 なるほどな・・・それでアズラは悲しそうにしているのか――

 サタンは修学旅行など大したことではないと思っていた。しかし、アズラに説明してもらうと予想以上に大したことだった。

 てっきり修学旅行なんてすぐに帰れると思ってた・・・けど、帰れないのか・・・だけど、まぁ――

「安心してくれ。俺が帰るのはアズラがいてくれるあの城だけだ」

 サタンが帰る場所などこの世界で一つしかない。魔界にある城だけ。

「サタンさん・・・」
「まぁ、俺がいない間はアズラもゆっくりしていてくれ。たまにはアズラも休憩しないといけないからな」

 サタンはアズラに単純に休んでほしくて言ったが――、

「私の心配は嬉しいですけど・・・そう言うわけではないんですよね・・・」

 アズラはサタンに聞こえないように小さく呟いた。そして、一度ため息をついた。

「まぁ、サタンさんに会える日を楽しみにして待ってます」

 少々辛そうに笑って答えた。

「それに、今から言っていてもしょうがないだろ。まだ、1ヶ月近くも先の話だろ?」

 そう、別に今すぐ行くわけでない。まだまだ、時間がある。それなのに、今からアズラがこんなんだと実際に行く日はどうなっているのか。サタンは心配になった。

「まぁ、そうなんですけどぉ~」

 尚もアズラは苦虫を擂り潰したように答えた。

「お~い、サタン~アズラ~。着きましたよ~」

 そうこうしている内に先に辺りに誰もいない所に着いたメルが二人に向かって手を振って呼び掛けてくる。

「さ、帰ろう、アズラ」

 サタンがアズラに手を差し出すとアズラは少々照れたように「はい」と答えてメルとラエルの所まで行った。

 そして、アズラの展開したワープで魔界へと戻った――。


 ◇


 あの日で既にあんな状況だったが、アズラのやつ、今日は大丈夫か?

 未だに、城の前に立ち、出てくるメルを待ちながらサタンが思った。

 フットサル大会の次の日からはアズラは悲しそうな顔もせずにサタンと接していた。

 そのお陰でサタンもあまり気にせずメルとの修業や魔柱72柱の悪魔についての勉強、魔力の特訓などに支障なく取りかかれた。

 そして、いよいよ修学旅行へと行く日がやってきたのだ――。

 ――って、あれ? なんか俺、魔界を救うために頑張らないといけないはずなのにあまり、何もしてなくないか? してるのは修業とか、勉強とか、特訓だらけで他に何もしてない・・・

 サタンは魔界をアズラと一緒に救うためにこの世界でもう一度生きさせてもらっている。
 それなのに、今までにしたことはメルとラエルさんと家族になったり、ゴウカとモカを救ったり、フットサルをしたり――と、直接魔界に関わる事はしていない。

 修学旅行から帰ってたら人間界の王――ガドレアルがいる、王城ドアベルガルへ乗り込むか――少しは俺も強くなれたはずだ・・・勿論、約束しているメルと一緒に・・・!

 サタンがそんな事を考えていると、城のドアが開き中から――、

「お待たせしました~」

 と、修学旅行に持っていくカバンを手にしたメルが出てきた。その後ろから、見送りのためアズラとラエルが出てくる。ラエルの腕にはアオニャンが抱かれている。

「やっと来たか・・・」

 ようやく出てきたメルをじっと見つめながら呟いたサタン。

「遅くなってすいません・・・色々と準備をしていましてね」
「準備・・・?」

 サタンは出てきたメルの姿に異変を感じた。普段は白銀の長髪に何も手入れをしていない。のに、今日は珍しく白銀の長髪をゴムでまとめ、左肩にかけ落としている。普段の小さな勇者より少しばかり大人に見え、不覚にもサタンは可愛いと思ってしまった。

 いや、普段からも可愛いのは可愛いが、今日は普段より強いな・・・見慣れないのは見慣れいなが・・・!

「どうしました?」

 自然とメルを見つめていたサタンはキョトンとしたメルに聞かれて焦る。

「い、いや、髪・・・普段より大人っぽくて、可愛いな・・・って・・・」

 サタンが答えるとメルは顔を真っ赤にした。

「っ! い、いえ、せっかくの修学旅行ですからいつもと違う髪型でですね! 帰ったら戻しますが、サタンがこのままがいいと言うなら子のままでいますよ・・・」
「え? いや、俺からしたら別にいつもの髪型も十分可愛いと思うからどっちでもいいぞ?」

 メルに聞かれたサタンが率直な事を答えると、メルはますます顔を赤くしていた。

 そんな二人にムッとしたアズラが――、

「サ・タ・ンさ~ん、旅行中、誰かれ構わずにそんな事を言ってはいけませんよ! もし、言っていたら私は拗ねちゃいます!」

 少し、怒った様子で会話に割り込んだ。その可愛いやり取りを見ていたラエルは微笑んでいた。

「あ、ああ・・・と言うか、俺はあの学園で大分嫌われているから大丈夫だぞ?」

 サタンはゴウカと戦った時にずるい事をたくさんした。その結果、大分白い目で見られているはずだ。

(サタンさんは気づいていないんですね・・・あの、フットサル大会でのカッコ良さを・・・あんなカッコ良さを見せられてしまったらたくさんの女の人から声をかけられるはずです。私なら絶対に声をかけています! まぁ、声をかけられないことが幸いですが、誰にも興味をもたれないというのも何かと複雑ですね・・・)

 サタンの無自覚さが心配だったアズラは――、

「くれぐれも気をつけて下さいね!」

 強く、強く念を込めて言った――。


「さて、ではそろそろスタレマン学園へ向かいましょう」

 レイク島《とう》へ行くためには先ず、スタレマン学園へと集合して、そこから皆でレイク島へ向かうのだ。

「そうだな」

 いよいよ、魔界へ来てから初めてアズラと会えなくなるようになる時がやってきた。

 本当にアズラと離ればなれになるんだな・・・

 サタンはそう思うと急に寂しくなってくる。それは、アズラも同じ思いだった。だからこそ――。

「サタンさん! 元気で怪我などせずに帰って来て下さいね! この魔王城の事は私に任せて下さい!」

 アズラはサタンの手を強く握って言った。

「ああ――って、ん? 魔王城?」

 魔王城――聞きなれない言葉にサタンは問いかけた。

「はい! いつまでもサタンさんのお城の事を城と呼ぶのはお城にとっても可哀相なので勝手に私が名付けましたがどうでしょう?」

 どうやらいつまでも城の事を城と呼ぶのは可哀相という事で魔王城と名をアズラが考えたようだ。

「魔王城・・・うん、いい名だな」

 サタンはしばらく考えて答えた。これほど魔王の城に相応しい名はないと思った。

「じゃあ、アズラも休みつつ魔王城の事を頼むな。ちゃんと俺が帰ってこれるように」
「はい!」

 サタンに言われてアズラはサタンの手を強く握ったまましっかりと返事した――。


「名一杯、楽しんできてね、メル!」
「うん!」
「風邪とか引かないように夜はちゃんと温かくして寝るのよ! 分かった?」
「分かってるよ!」
「でも・・・――」

 ラエルはどうやらメルが心配でしょうがないらしい。

「それよりも、お土産とか旅行話とか楽しみにしててね!」

 メルにはラエルが自分の事を心配でしょうがないという事が分かった。だから、安心してもらうためにラエルに抱きついた。

「メル・・・うん・・・楽しみにしてるね!」

 ラエルはメルに抱きつかれ、安心して答えた――。


 そして――、

「じゃ、行ってくる」
「行ってきます!」

 サタンとメルは修学旅行に持っていくカバンを手に持ちながら、アズラが展開してくれたワープに入った。

「行ってらっしゃいです!」
「二人とも楽しんで来てね!」

 アズラとラエルはサタンとメルに手を振って見送った。やがて、ワープは白く激しく輝き出し、一瞬にしてサタンとメルを魔界の地から消した――。


 魔界の地から一瞬にして消えたサタンとメルは一瞬にして人間界の地へ着いた。そして――、

「学園へ向かうか」
「ええ」

 サタンとメルはスタレマン学園へと向かった――。

「ああ、そうだ。城の名前、魔王城に決まったからな」

 スタレマン学園へと向かっている途中、メルに城の名前が決まった事を伝えたサタン。

「え? まだ決まっていなかったんですか!? てっきり、決まっていると思っていましたよ」
「どんな風に?」
「魔王城です! 私が初めてサタンと会った時も魔王城に向かおうと思って向かいましたからね」

 どうやら、魔王城という名は結構知れ渡っているのかもしれない。

「そうか・・・これからも引き続き魔王城って呼んでくれ」
「分かりました!」

 そうこうしている打ちにスタレマン学園が見えてきた。

 いよいよ修学旅行か――ん? 確か、何か考えていた事が――そうだ! この修学旅行が終わったら王城ドアベルガルへ行くんだった!

 サタンは魔王城を離れる前に考えていた事を思い出した。

 まぁ、でもメルに話すのは帰ってからでいいか――今は、修学旅行を楽しませてやりたいし、余計な事で楽しみを邪魔したくないしな・・・!

 サタンは王城ドアベルガルへ行くことを今はまだメルに話さなかった。そして、サタンとメルの二人はスタレマン学園へと入った――。
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