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第2章最弱魔王はクラスメートのために頑張るそうです

第53話 救いの手②

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 ――これはまだ、私が奴隷だった頃の話・・・――


「おい、そこの商人」

 馬車に乗りながら声をかけるガドレアル。

「は・・・なんでございましょう?」

 商人はガドレアルに気づき頭をヘコヘコと下げながら寄り添う。

「その子はいくらだ?」

 ガドレアルは商人の元で売られていた少女に目をつけた。

「この子ですか? この子はですね――」

 ボロボロに着崩れた服を着て、髪はボサボサになり、顔は泥やほこりだらけ。手と足には手枷をはめられている少女。その少女の名はエフノール。この時の彼女は9歳。彼女の親は既に亡くなっており、彼女は奴隷として市場で売られていた。

 エフノールはガドレアルと商人が話しているのを何も思わずに見つめていた。と、ふと誰かが自分に視線を送っている事に気づき、馬車の方を見た。
 馬車の後ろに繋がれている、人が入る所でカーテンの間から顔を覗かせ自分の事を見つめている少女。
 自分とは似ても似つかない可愛い少女だった。黒髪の髪を短くしているのがよく似合っている一人の少女がニコニコしながら自分に向かって手を振っている。

(何・・・? 誰・・・?)

 エフノールは訝しみながらその少女を無視して再び何も考えずに前を向き直った。

 しばらくしてからもう一度だけチラッと少女の方に視線だけを送った。既にカーテンは閉められその少女はいなくなっていた。

(いない・・・)

 そんなことを考えていると商人が歩いてきて手と足の手枷を鍵を使って外した。

「行け。あのお方が今日からお前のご主人様だ。失礼のないようにするんだぞ」

 商人に言われ、黙ったまま頷いて返事をするエフノール。そのままガドレアルの元へと歩いて行く。

「今日から・・・しっかりと働かせていただきます・・・」

 ガドレアルはみすぼらしい少女――エフノールの手を黙ってとり、軽く持ち上げると馬車の人が入る中へ入れた。

 その中では先程、自分を見ていた少女が椅子に座りながら目をキラキラと輝かせ、足をバタバタとさせていた。

 そして、エフノールの姿を見るとその少女はますます顔を輝かせながら手を自分の方へ招いた。

「こっちこっち!」
「・・・・・・」

 エフノールは黙ったままその少女の元へ向かった。

「さ、座って!」

 そして、言われるがままに黙って少女の隣に座った。

「私の名前はレアル。あなたのお名前は?」
「・・・エフノール・・・」
「今日からよろしくね、エフノール!」

 エフノールは黙ったまま頷きもしないでいた。そんなエフノールを無視したまま、レアルはカーテンを開けて顔を覗かせ――、

「そろそろ城に着くわよ」

 王城を指差した。

 エフノールも顔を覗かせた。途端に目に飛び込んでくるとてつもない大きさの城。そのとてつもない大きさに圧倒されエフノールは息を飲み込んだ。


「すごい・・・」

 王城の中も凄かった。
 とても広い玄関にいくつもある部屋や通路。それにたくさんの傭兵騎士やお手伝いがいる。全てがキラキラしているように見える。正にそこはいかにも王城と思える城だった。
 エフノールには見たこともないものばかりで場違いに過ぎなかった。

「いいか、レアル。お前がきちんと面倒を見て、育てるんだぞ」

 エフノールが一人黙って突っ立ったままでいるとガドレアルがレアルに言っている事に気がついた。

「はい」

 レアルが返事をするとガドレアルは次にエフノールに向かって言った。

「エフノール。お前はレアルのことをお世話できるようになるまで成長しろ」

 エフノールは黙ったままコクっとだけ頷いた。

 ガドレアルはそれだけを言うととっととどこかに去っていった。

 ガドレアルがどこかへ行くのを見送っているレアルは待ちきれないという感じで体をウズウズとさせていた。そして、ガドレアルの姿が見えなくなると――、

「さぁ、遊びましょう! 何して遊ぶ?」

 目を輝かせワクワクした表情でエフノールの手を掴んだ。

 しかし、エフノールは掴んだレアルの手を振り払い無視して部屋の片隅に座った。

(ここが私の居場所・・・)

 今まで何度か買われた事があるエフノール。しかし、使えないや要らない等の理由ですぐに売られた。だから、エフノールに居場所はなく、いつもどこかの片隅に座っているだけだった。最低限の事だけをしてもらって。

(今回もどうせすぐにまた売られる・・・だから、私は片隅に居るだけ・・・)

 エフノールはそう思って目を瞑った。

「どうしたの? お腹痛いの?」

 しかし、そんなエフノールの事をお構い無しに顔を下から覗かせるレアル。

「私に構わないで!」

 エフノールはカッとなって少しだけ声を大きくして言った。

 すると、レアルは何かを閃いたように手をポンと叩いた。

「分かった! お腹がすいているのね! ちょっと待っててちょうだい」

 そう言うやいなやレアルはどこかへ行ってしまった。

「・・・は・・・?」

 エフノールは全然意味が分からずに声を漏らした。


「お待たせ!」

 ドサドサとエフノールの前に置かれるたくさんの食べ物。

「はい、たくさん召し上がれ!」

 ニコニコとしながら食べ物を手渡すレアル。エフノールには分からないが多分肉類であろう。

「召し上がれって・・・全部生じゃない! こんなの食べれるわけない!」

 レアルが持ってきたのは生の魚に生の肉、それに、生の米。

「こんなの食べたらお腹壊すよ! 私を殺すきなの!? もう、私には構わないで!」

 エフノールは自分でも何故だか分からないが、つい苛ついてしまいそう言い残すとどこかへ走って行った。

「う~ん、何がいけなかったのかしら?」

 一人残されたレアルは首をかしげて分からないという様子を表した。


(私の居場所なんてどこにもない・・・私は独り・・・どこにいても・・・)

 夕暮れ時エフノールは一人王城の外でちょこんと体育座りをして腕と膝の間に顔をうずめて泣きそうになっていた。

(どうしてこんな目に遭わないといけないの・・・? 昔はもっと普通に生きていたのに・・・)

 そこへ、ぱたぱたと誰かがかけてくる足音が聞こえた。

「はぁはぁ・・・やっと、見つけたわ」

 レアルだった。レアルはたくさんの汗をかき、息を切らしている。まるで必死にエフノールの事を探したかのように。

「な、んで・・・」

 エフノールには疑問だった。どうして汗をかいてまでこんな自分の元へくるのか。エフノールが戸惑い迷っていると――、

「いいから、こっちにきて!」

 レアルが手を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。

「ちょ、ちょっと!」

 慌てて立ち上がるエフノール。そして、反抗しようした。しかし、以外にも小さな王女の力は強くてズルズルと引っ張られ王城の中に戻った。


 どこかへ連れてこられたエフノールは危機に直面していた。

「さ、服を脱いで」

 いきなり服を脱ぐように促されたエフノール。口をポカンと開けて一瞬何も考えられなかった。何も考えられなかった頭をフル回転させてすぐに断る。

「い、嫌・・・!」
「いいから脱いでっ!」

 バサッとエフノールの服を無理矢理脱がしたレアル。とっさにエフノールは体に出来た傷とまだ成長していない大事な部分を隠そうとその場にしゃがんだ。

(み、見られたくない・・・! こんな汚い体・・・!)

 体に出来た傷とまだ成長していない大事な部分を見られたのが恥ずかしく、顔が真っ赤になり涙目になるエフノール。

 しかし、そんなエフノールの体を見てレアルは「小さくて可愛い!」と言った。その、言葉にエフノールはますます顔を赤くする。

「な、何をするの!? いきなり服を脱がしたりして!」

 しゃがみながらレアルを睨む。すると、レアルも突然服を脱ぎ出した。

「一緒にお風呂に入るのよ!」

 エフノールが連れてこられたのは風呂場だった。

 服を全部脱ぎスッポンポンになったレアル。マシュマロのように真っ白な肌。自分と同じで成長していない部分。しかし、何故かエフノールはドキドキしてレアルから目を背けた。

「いきましょ」

 風呂の扉を開けてスッポンポンのままエフノールの手を引くレアル。

「い、嫌・・・やめて・・・」
「いいから入るわよ」

 反抗するエフノールを強引に引っ張るレアル。

「い、嫌・・・嫌ぁーーーーー!!」

 エフノールの無痛の叫びが響いたのと同時に風呂の扉が閉められた。


「さ、よく乾かして」

 エフノールはボーっとしたまま濡れた髪をレアルにドライヤーで乾かされていた。

 エフノールは濡れた髪を乾かされながらお風呂で味わった久しぶりの時間を思い出す。

 王城はお風呂も凄かった。子ども二人では到底使いきれないような広さに余裕で泳げる湯槽。そんな、今までに入った事がないお風呂に驚く。
 そして、何よりも自分の体をレアルが洗ってくれたこと。自分の体を誰かが洗ってくれるなんて久しくされていなかった。久しぶりにエフノールはお風呂が気持ちいいと思えた。

「ふ~終わったわ」

 ドライヤーのスイッチを切りするの自分の髪をかきあげるレアル。そして、エフノールを鏡の前に立たせた。

 エフノールはまるで生まれ変わったかのようになった自分を見て思わず息を飲む。

「これ・・・誰・・・?」

 ボロボロに着崩れていた服は捨てられ変わりに用意された新しい白い服。顔や体についていた泥やほこりのようなものは全て落ち、元のプニプニとした子ども特有の肌になっていた。

「次は晩ご飯を食べにいきましょ」

 鏡にいる自分の姿とにらめっこをしているエフノールの手を引きレアルは大きな部屋へと案内した。

 その部屋には豪華でキラキラと輝く料理がたくさん並べられていた。

「どれでも食べていいのよ? どれがいいかしら?」

 よそってあげようお皿を持ちながらエフノールが聞く。しかし、エフノールは豪華な料理を前に、本当はお腹も空いているし食べたいが我慢して首を横に振った。

「いらない!」

 首を横にするエフノールを見てレアルは心の中へとズカズカと入っていく。

「でも、お腹すいてるでしょ?」

 図星を疲れたエフノールはムキになって再び――、

「すいてなんか――」

 言おうとした時――グゥ~~~~~と、それはそれはとても大きなお腹の音が鳴った。数秒沈黙になるエフノールとレアル。しかし、すぐさま顔が赤くなる。

 ニヤニヤとしながらエフノールを見るレアル。それに気づいたエフノールは「スープだけ・・・」と小さく答えた。


 エフノールとレアルは隣同士に座りながら用意されたご飯を食べる。エフノールは言った通りスープだけを飲む。レアルは庶民では到底手が届かないようなキャビアやフォアグラ等が使われた料理をパクパクと口に運ぶ。

「あなたしか食べないの・・・?」
「ええ!」

 ご飯を食べながらその言葉だけを交わす。ご飯は子どもが食べるには十分過ぎるほどたくさん用意されている。それなのにご飯を食べているのはレアルだけ。

「誰も私とは一緒に食べないわ」

 エフノールは不思議に思いながらスープを飲みほした。

(これ・・・おいしい・・・)


 キラキラと輝く光が眩しい。レアルの部屋はいかにも王女らしくとても大きかった。大きなベッドが置かれカーテンにレースがつけられている。

「今日からあなたは私と一緒に寝るのよ」

 大きなベッドの布団をきれいに整えながらレアルは言った。
 ご飯を食べた後、エフノールはレアルにレアルの部屋へと連れてこられた。

「何をしているの? 早く一緒に寝ましょ」

 部屋の入り口で大きさに呆然としているエフノールにポンポンと布団を叩き合図する。

「どうして・・・」

 エフノールは今日一日ずっとレアルを見ていて思った事がある。それは、何もかも自分とは住む世界が違う、ということ。なのに、レアルは自分に関わろうとする。

 そんな、何とも言えない感情にエフノールの心はおかしくなりそうになる。

 何食わぬ顔でエフノールを待つレアル。エフノールはレアルの元へと走った。そして、レアルを――ベッドに突き飛ばした。

「な、何を、するの・・・?」

 エフノールが一日、レアルと過ごしてようやくエフノールのとった行動に驚くレアル。

「どうして・・・――どうしてあなたはこんなにも私に構うの?」

 そのままエフノールはベッドに突き飛ばしたレアルを押し倒した。そして、レアルの顔を間に入れるように両手をつき、自分の体をレアルの体の上に重ねるようにして真正面から向き合った。
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