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第5章最弱魔王は悪魔のために頑張るそうです

第145話 本当の気持ち

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「帰れないって……どうしてだよ?」

「もう知っているとは思いますが……私は沢山の天使と人間を手にかけました。私は汚れています。それに、私はサタンさんを――」

 アズラは過去の自分を悔やむように歯を噛みしめる。

「初めから利用するためにずっと嘘をついて……それに、酷い言葉も沢山言って……あなたを傷つけ、ました……こんな私がこれ以上生きていてはいけないんです……これ以上あなたのそばにいてはいけないんです……」

 アズラは悲しんでいることを悟られないよう目に力を込める。そうでないと、涙が出てきそうになってしまうから。

「私がそばにいるとこの前みたいに……いいえ、この前以上の危険がサタンさんを襲います……だから、私はここで終わりにします。魔界へは一人で帰って下さい……」

 アズラは安心させるように作り笑いを浮かべる。その表情にサタンは胸を痛めた。ずきずきと痛みは募る。

 そんな悲しそうな笑い方しないでくれよ……――

「アズラ……俺にはこういう時、なんて言えばいいのか分からない。それに、何を言ってもアズラのしてきたことを変えることなんて出来ない……」

 サタンは考えた。何を言えば少しでもアズラのためになるのかを必死に考えた。

「でもさ、俺はアズラにそばに……これからも、一緒にいてほしいんだ。それだけじゃ、ダメなのか?」

「ダメ、なんです。私と一緒にいてはサタンさんをまた酷い目に遭わせてしまいます……だから――」

「そんなの関係ない。俺はアズラといた時、楽しかった……誰かと一緒にいれたことが嬉しかった……誰かと一緒にいたい願いを叶えてくれたのはお前なんだ……!」

 サタンは死ぬ時、独りだった。サナは毎日会いに来てくれていた。だが、誰かとずっと一緒にいれることはなかった。心の奥底ではそれが悲しくて寂しかった。しかし、アズラと出会ったことで変わった。

「アズラは俺を騙して利用したって言ってるけど……俺はそれでも良かったんだ。独りだった俺を救ってくれてありがとう……だから、これからも、俺のために――アズラのために一緒にいてくれ」

「……っ、そんなこと、言わない、でっ、下、さい……」

 アズラの目からポタポタと零れ落ちる透明な雫。泣いてはだめと決めつけていたのに耐えることが出来なかった。

「ですが、やっぱり、私は――」

「クソ、もう時間切れか……」

「え……」

 闇に包まれた世界が一瞬にして光を取り戻す。晴れた世界。サタンとアズラ以外の者は時が停止していたことに気づくことは出来ない。それ故、アルトノリアが考えていたことが自然と行われる。光の焔が二人を襲う。
 サタンはアズラの手を掴んで後方へ飛び下がった。光の焔は蒸発し消えていく。

「……ハァハァ、ッ……」

「サタンさん!?」

 サタンは膝をつき息を荒くする。心配するアズラ。だが、アズラの視界からサタンがどんどん遠退いていく。

「アクロマ!」

「はい!」

 アルトノリアが呼びかけ、アクロマがアズラを縛っている縄を強く引っ張ったのだ。宙を舞いながらくるアズラを受け止めるアクロマ。

「サタンさん! 逃げて下さい!」

 迎えに行こうとするアズラをしっかりと制止するアクロマ。アズラはただ叫ぶことしか出来ない。

 ……ハァハァ、クソ……あれは、どれだけの魔力を使うんだ……

 サタンが行った時停は莫大な魔力を使用する。試行さえしていれば魔力量と体にかかる負担を考えることが出来ていたがしていない。

「どうやらここまでのようだな――」

 存在していた五体の魔物もいつの間にか戦天使達の努力により消されていた。疲労が残る戦天使達はアルトノリアの元へとどんどん集結してくる。

「貴様に勝ち目はない……死ね――」

「……俺は、もう絶対に死ねないんだ……」

 サタンは膝に手を当ててグッと堪えながら立ち上がる。

「アズラ……俺には魔界を元に戻すようなことは出来ないかもしれない……けどな、今のアズラ魔界を救うことくらい出来る……!」

「なにを言っている……貴様と殺戮の英雄はここで死ぬ。貴様はなにも救うことなんて出来やしない」

 アルトノリアが構えの体制をとるようにとの命令を腕を伸ばして合図すると戦天使達は持っていた槍を一斉に構える。だが、そんな些細なことサタンにはどうでも良かった。

「俺はもう心配されるほど弱くない……俺はアズラの背負っている罪を一緒に背負う……汚れたって言うアズラを受け入れる……だから、本当の気持ちを言ってくれ……アズラ――!」

「……ッ……!」

(あぁ、私はなんて恵まれているんでしょう……ヨハネ様が仰ったことがようやく分かったような気がします……――)

「……私は……私は――こんな所で死にたくない……サタンさんから離れたくないあ……これからも、サタンさんと一緒にいたい!」

 アズラはボロボロと涙を流しながら胸の奥に秘めていた本当の気持ちを叫んだ。

「こんな私のわがままを聞いて下さいますか……?」

「ああ」

「こんな私を受け入れて迎えて下さいますか……?」

「ああ」

「こんな私を連れ戻して下さいますか……?」

 ……こんな時、なんて言えばいいかサナが言っていたな――


「い~い、お兄にゃん。単純なことでいいの。単純なことだけでも誰かを救うことは出来るんだよ――」


「当たり前だ……俺に任せろ!」

 泣き続けるアズラに誓いをたてるためにサタンは笑って親指を立てた状態で右手を伸ばした。

「なにをほざけたことをぬかすか……かかれ……!」

 自分をまるでいない者かのように扱われ苛立つアルトノリア。絶対に無理だという現実から目を逸らし、幻想ばかりを口にすることにも腹を立てたアルトノリアは戦天使達に命令した。

 束になって襲いかかる戦天使。しかし、その内の数人の肩を闇に光る何かが貫いた。その何かはアルトノリアの頬の横を一瞬で通り抜けていった。貫かれたことに気づきもしなかった戦天使は穴から血を噴き出しながら悲痛の声を口にする。

「なんだ、それは……?」

「魔銃だ」

「魔銃、だと……?」

 サタンが左手に持っていたのはサナが変身している姿の銃――魔銃。これなら、少ない魔力で強力な一発を何度も撃つことが出来る。

 ありもしない武器を手にされ戸惑い動けなくなる戦天使達。

「なにをびびっておる! いけ!」

 アルトノリアの命により勇ましく果敢な声をあげる戦天使達。だが、魔力が尽きるまで無限に放ち続けることが可能な引き金を引かれ、放たれる魔弾が次々と戦天使を貫いていく。貫かれた者は皆、痛みを叫びながら倒れていく。だが、死んではいない。サタンが狙うのは肩や腕、脚など致命傷とならない箇所ばかりだ。

「ク……ついて来い、アクロマ!」

 次々と倒れる戦天使を見ながらアルトノリアは天城へ戻ることを決意。このまま、ここで殺戮の英雄を始末しようとすればサタンに止められると察知した結果である。ならば、城の中で決行しようと考えたのだ。

「サタンさん!」

 アクロマに引きずられ連れていかれるアズラ。そんなアズラにサタンは大きな声で答えた。

「待ってろ! すぐに迎えにいく!」

「……はい、待っています!」

 アズラはサタンを信じた。沢山の戦天使に囲まれて埋もれて見えないけれど声を聞いただけで安心できたのだ。だから、あとは信じて待っていようと思った。


 アズラとアクロマ、さらに、アルトノリアが天城の中へと入っていき直後のこと――。

 ――サナ、頼めるか? すぐに迎えにいくためにも城の中でアズラがどこにいるか把握してたい。

『私は大丈夫だけど……お兄にゃんは大丈夫なの……? 結構、いるよ……』

 ――俺なら心配するな。あんな雑魚たち、俺一人で十分だ。

『分かったよ。アズラさんは私に任せて!』

 ――無茶だけはするなよ。

 サタンは魔銃を空に向かって力いっぱい放り投げる。魔銃は戦天使達を越えて天城のすぐ近くへと向かっていく。
 落ちきる直前に猫の状態へと変身したサナは体を回転させながら綺麗に着地すると天城の中へと入っていった。

「おい――」

 サナを追いかけようとする戦天使達。だが、それをサタンが許さない。

「おぉい! クソ雑魚天使どもどこに行くつもりだ? お前らの相手は俺だ。まとめてかかってこい。全員、ぶっ飛ばしてやる」

 親指を除く四本の指で挑発するサタン。簡単に挑発にのった戦天使達は一斉にサタンへと飛びかかった。


「私達は玉座の間へ向かう……あとは任せたぞ」

「ああ」

 アクロマは天城に入ってすぐある者にすれ違い様に小声で呟いた。
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