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第5章最弱魔王は悪魔のために頑張るそうです

第130話 アズラと魔界②

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 アズラから差し出された手に戸惑うアクロマ。どうしたらいいのか分からず、たまらずラミールに目で助けを求めた。しかし、ラミールは頷くだけで決して助言することはなかった。すると、覚悟を決めたアクロマは口を開いた。

「べ、別に私は友達なんていらないけど、あなたがどうしても友達になりたいっていうならなってあげてもいいよ」

 アクロマの答えに空間が一瞬沈黙した。
 アズラはぷるぷると震え、泣きそうになっていた。そして、ヨハネを見た。その表情にヨハネも胸が痛む。

「ヨ、ヨハネ様ァ……私、この子と友達になんてなりたくないですぅ……」

 勇気を振り絞った小さな女の子には酷い答え。アズラがそう言うのも仕方がなかった。だが、次の瞬間、沈黙していた空間がどことなく熱せられていくのを感じた。

「ア・ク・ロ・マ・ちゃ~~ん――」

 アクロマはビクッとして恐る恐る後ろを振り返る。それは、小さな女の子にも魔王にとっても誰にでも一目瞭然と分かることだった。

「何が友達になってあげてもいいよ、ですって? あなたにそんなこと言えるわけがないでしょ。早くアズラちゃんに謝ってあなたから友達になってと言いなさい!」

 後ろにメラメラと燃える炎がヨハネには見えた気がした。当然、ラミールが炎天使だからという訳ではない。ただ、めちゃくちゃ怒っていたからだった。

「で、でも――」

「でも、じゃありません。あなたには友達と呼べる子が一人しかいないじゃない。もし、あの子も離れていけばあなたは永遠にぼっち。それでもいいなら、謝るだけ謝りなさい」

 母親にこっぴどく言われ怒られべそをかき出しそうにしながらアクロマはアズラに頭を下げた。

「ごめん、なさい……あの、今まで悪魔の友達なんていなかったからどうしたらいいか分からなくて……その、よければ私と友達になって……ください」

 頭を下げながらおずおずと手を差し出してくるのを見ながら戸惑うアズラ。本当にこの子と友達になりたいのか分からない。そもそもヨハネに言われただけで友達なんていらないとアズラも考えている内の一人だったからだ。

「ごめんなさいね、アズラちゃん」

 答えを出せないままでいるとラミールがアズラとアクロマに目線を合わせるようにしゃがみながら話しかける。

「さっきはあんなこと言ったけど根は良い子なの。だから、許してお友達になってくれる?」

 アクロマの頭を優しく撫でるラミール。アズラは振り返りヨハネを見た。どうしたらいいの――そう伝わったヨハネは頷いた。

「アズラのしたいようにすればいい」

 アズラはアクロマの手をとった。

「では、友達になりましょう」

 顔をあげるアクロマ。涙を拭きながら笑顔になる。

「うん!」

 そうして二人は友達になった。
 そして、早速魔界を二人で走りながら遊んでいた。

「すいません……ヨハネ殿。アズラちゃんに嫌な思いをさせてしまい」

「いやいや、子ども同士のことですから。我々大人がどうこうするものでないですよ」

「ですが、家に帰ったらもう一度強く言っておきますから」

 一人椅子に座り紅茶を口にするラミールは淡々と申す。そんな様子を見ながら立ちながら話していたヨハネはこそっとコウルに耳打ちした。

「……にしても、ラミールさんは存外恐ろしいんですね」

「アハハハハ……怒らせないようにしています。さっきも一言も言えず面目ない……」

「見た目からは今も信じられないですよ……」

「ええ。でも、そこも彼女の良いところですから」

 コウルとラミール。二人は愛し合っていた。思わず微笑んでしまうヨハネ。周りにいる夫婦は幸せな者達ばかりだと改めて日常の平和を感じた。


「それでは、ヨハネ殿。またの機会に」

「ええ。また」

 光のエネルギーによって空を飛ぶことが出来る丸いカプセルのような物に乗り込むコウルとラミール。大人達が話している隣でアズラとアクロマは別れを惜しんでいた。

「な、泣かないでください。また、会えますから」

「な、泣いてなんか……今度は天界に遊びにきて。私が色々と案内してあげるから」

「はい。楽しみにしてますね、アクロマ」

「うんっ……!」

 握りあっていた手をほどき、振りながらアクロマはカプセルのような物に乗り込んでいく。

「では、失礼します」

 コウルとラミールの間にアクロマが座るとカプセルのような物の入り口が閉まり宙に舞う。砂ぼこりを巻き上げながら浮かんでいくのを見上げるアズラとヨハネ。そうしている内にカプセルのような物は凄まじい速度で天界へと駆けていった。


「――友達というものはどうだった、アズラ?」

「はい、とてもいいものでした。私の初めての友達がアクロマで嬉しいです」

 アズラにとって初めて出来た友達という存在。ヨハネは魔王城で小さいながら親の手伝いばかりするアズラのことをどうにかしてあげたいと思っていたのだ。

「そうか。それはなによりだ。いいか、アズラ。これからも友達を作るんだ。沢山じゃなくていい。少しでいいんだ。その友達を大切にしていけばいい。そうしていけば本当に信頼できるかけがえのない存在になりあっていくんだからな」

 ヨハネはアズラの頭を撫でながらどこか懐かしむ様子で微笑んだ。その時のヨハネの気持ちを幼いアズラには理解することなんて出来なかった。ただおじいちゃんのような存在に撫でられ幸せになるだけだった。


 その日の夜、アズラはラディアとルキフと自宅で話していた。

 アズラが生まれてからすっかり時が経ち、体も回復したラディアもしっかりと魔王城での職務にまっとうし、ルキフも日々、転移という魔能力を使い役に立っていた。両親の忙しさと魔王城で働いているという理由からアズラも魔王城で留守番という形でいたという訳だ。

「今日はですね――」

 アクロマという初めての友達が出来たことを嬉しく話す娘にラディアとルキフは優しく頷いていた。最近は忙しくてあまりアズラにかまってあげることが出来なかった二人にはこの時間が何よりも幸せだった。

 その時、家の扉が開かれた。

「ただいま~」

「お兄ちゃん」

 家に帰ってきたのはアズラと歳の離れた兄だった。まだ大人にはなっていないが既に人間界で生活をしていたため久し振りの帰省となった。

「おっ、なんだ~アズラ。俺に会えてそんなに嬉しいか~?」

 久々の再会に喜ぶアズラを抱き上げながら笑いかける。

「当たり前ですよ。お兄ちゃんのこと大好きなんですから」

「はは、嬉しいこと言ってくれるな」

 アズラを下ろして頭を撫でる。

「中々会えなくてゴメンな、アズラ。でも、これだけは覚えといてくれよ。俺もお前を愛してる。なんたってたった一人の可愛い妹なんだからな。だから、何があってもお前を守るからな」

 どれだけ沢山のことを伝えてもアズラにはまだ伝わらない。意味を理解する事なんて出来ない。しかし、アズラは喜ぶ。ただ、兄という存在から愛していると言われた。それだけで十分であった。


 それから、しばらく時間が経ったある日のことだった。魔王城に一通の可愛らしい手紙が届けられた。宛て先はというと――。

「アズラ。お前宛てに手紙だぞ」

「私に、ですか……ヨハネ様?」

「ああ」

 アズラに渡された手紙。差出人には嬉しくなる名前が書かれていた。

「アクロマからです!」

「なんて書いてあったんだ?」

 嬉しそうに手紙に目を通すアズラに内容を確認するヨハネ。

「天界に遊びにこないか――と、書かれています」

「そうか。なら行ってくるといい」

「ですが、ヨハネ様。天界への行き方なんて分からないです」

「大丈夫。ちょうどいい奴が帰ってきたからな」

 アズラとヨハネの近くの空間に穴が開きルキフが現れる。二人にじっと見られるも事情を分かっていないルキフは首を傾けた。

「分かりました、ヨハネ様」

 事情を聞いたルキフは元気よく頷き返事をした。そして、アズラを向きながら力強く言った。

「アズラ、お父さんに任せなさい。今すぐ連れてってあげるからね」

 空間に転移するための穴を開けるルキフ。

「楽しんでくるんだぞ。コウル殿達に会えばよろしく言っといてくれ」

「はい!」

 アズラはルキフと共に穴へと入っていく。そして、転移の穴は魔王城から消え、二人の姿も一瞬にして消えた。
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