101 / 156
第4章最弱魔王は勇者のために頑張るそうです
第101話 死計
しおりを挟む
昼食を食べ終えたサタンは一人で魔界城の外へ出ていた。アズラには中でゆっくりと休んでもらっている。
サタンが外へ出ている理由は静かで落ち着けるため。そして、強くはなれない特訓をするためである。
あれだけ特訓するのが嫌いだった俺がメルに言われることもなく自ら取り組むなんてな……
あれだけ特訓嫌いだったサタンが珍しく自ら進んで特訓する理由は――天界へ向かうためである。
初めて天界へ行った時は門番らしき天使に見つかり、すぐに追い返されたことを思い出す。
次に行く時、また追い返される訳にはいかない……絶対に仲間になってくれそうな天使を見つけるんだ――!
サタンは陣を取るように地面に座るとゆっくりと目を瞑り呼吸を整える。音がしない静寂な空間――うっかりすれば寝てしまうかもしれないので注意しながら――
今、俺が死んだ回数は全部で十一回……この世界に来る前の一回とこの世界に来てからの十回……今は十二度目を生きているというわけだ――
今の自分の状況を思い返す。前に生きていた世界と今のこの世界。そこで、一回と十回の死を体験した。だが、この世界での死は契約した魔柱72柱の悪魔のおかげで生き返ることが出来る。そのおかげで今も生きていられるのだ。
今まで俺の中にいる悪魔は計五体だった……
“蛇の悪魔・アンドロマリウス”
“梟の悪魔・ストラス”
“多顔の悪魔・ダンタリオン”
“狼の悪魔・マルコシアス”
“美男の悪魔・セーレ”
けど、この前の戦いだけで五回死んだ俺は新たに仲間をその身に宿した。その数、計五体――!
死ななければ決して強くなれないと神様から言われているサタンはその通り、死という命と引き換えに着実に少しずつだが強くなっていた。
……けど、この前は死ぬペースが早かったせいなのか……新しい仲間達と交流が出来てないんだよな――
サタンが死に、新しい悪魔をその身に宿す時は何かしらの疎通がある。だが、この前の時はなく、今日までもない。
魔書のおかげで誰が中に入ってきてくれたかは分かってる……本当に魔書が無事で良かった――!
人間達に魔王城を破壊された時、魔書を持ち出すことも出来ず呆気なく燃やされたと思っていた。しかし、魔界城に隠れる前、少しばかり魔王城の跡を散策するとボロボロになりながらも魔書は残っていた。魔書に込められた不思議な魔力が守ったのだ。
そして、ボロボロの魔書はちゃんと読むことが可能でサタンに知識を与える。
“鹿の悪魔・フルフル”
“五芒星の悪魔・デカラビア”
“小女男の悪魔・ガープ”
“火戦車乗の二人の天使の悪魔・ベリアル”
“羊頭牛の悪魔・アスモデウス”
正直、正体が分からない悪魔ばかりで困ってるんだ……人形なのか動物形なのかも分からない……
目を閉じたまま考えるが、魔書で読み取れなかったのだ。分かるはずがない。
だから、一度は顔を合わせたかったんだがな……
心の中で名前を呼んで語りかけてみるが――
やっぱり、返事はないか……
アンドロで分かっているように悪魔達はサタンの中で眠っている。たまに、向こうから話しかけてくるが、大抵は話すことはない。
まぁいいか……気まぐれで向こうからくるかもしれないからな……よし、特訓終わりだ――!
サタンはいつか向こうからくることを信じ、特訓を終えた。述べた通り、強くはなれない特訓。だが、知ることだけでも十分特訓をしたことになる。
地面に手をついて立つと魔界城へ入ろうとする。
すると――
「今、帰ったのか?」
声をかけた相手は、青い毛並みに砂をつけて体を汚したアオニャンにだった。
アオニャンは魔界城に隠居をするようになってから、よくどこかへ消えてしまう。そして、気づけば帰ってきている。
「まったく……いつもどこへ行っているんだ――?」
アオニャンを抱き上げながら、毛並みについた砂を払ってやる。アオニャンはサタンの顔を見つめながら、可愛く鳴くと腕から飛び降りる。
そして、扉の前まで歩いていくと、早く開けてと促すように後ろを振り返りながらサタンを見る。
「はいはい、今開けるよ――」
サタンが扉を開けるとアオニャンは小さく跳ねながら中へと入り、またどこかへ行ってしまった。
「やれやれ……」
サタンも魔界城に入ると扉をパタンと閉めた。
◇
「じゃ、じゃあ……電気、消しますね……」
「あ、ああ」
特訓も終え、晩ご飯も食べ終え、後は寝るだけになったサタンとアズラ。二人は顔を赤らめ、ドギマギとした様子で話す。
この様子は魔界城に住み始めてから毎日起こっていることである。
ったく、毎日思うことだが……なんで布団は一つしかなかったんだよ!?
魔界城には色々と用意されていたのに布団だけは一つしか用意されていなかった。大きさが一人用だったならまだ良かった。サタンが床で寝れば済む話だからだ。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
「お、おやすみなさい……サタンさん」
「お、おやすみ」
用意されていた布団の大きさは二人用。
さて、二人しかいない魔界城で丁度二人が寝れる布団があればアズラはどう対応するだろうか――?
当然、床で寝ると言い張るサタンにダメですと言い、一緒に寝ましょうと言ったのだ。
なんで、二つ布団を置いとかなかったんだ……恨むぞ、先代の魔王達――!
サタンは魔界城が出来た時の魔王が誰だか分からないが、布団を二つ用意していなかったことを恨んだ。
ね、眠れねぇ……
二人は互いに背中を向けたまま目を瞑る。しかし、三日目になっても緊張しない訳がない。毎日、眠りにつくまで時間がかかる。
やがて、静かな空間に小さなアズラの寝息が聞こえてくるとサタンもようやくウトウトしだし眠りにつく。
そして、静かな時間が経った頃だった――
――ん、なんだ……?
「――~~っん、サタンッさん……」
サタンは呼ばれている気がして、目を覚ました。
アズラか……?
何かあったのかと思い、眠たい意識のまま寝返りをうち、声をかけようとする。
「アズ――ッ」
しかし、声をかけようとして息を殺した。
な、何をして……
アズラはゴソゴソと腕を動かしながら体をビクビク反応させている。その動作を見た瞬間、サタンは目を閉じて寝たふりをする。
そして、心の中で何をしているのかを考える。だが、目を閉じ、音だけの状態になったことで想像はより鋭くなっていく。
「~~ッサ、タンさん……サタンさん」
このまま、黙って聞いていると気が動転してしまうと思ったサタンはおもいきって声をかけた。
「アズラ……? 何を……してるんだ?」
すると、アズラは体をビクンと反応させてさせた腕を止めた状態で恐る恐る寝返りをうった。
「サタンさん――」
「はい」
サタンはアズラが何をしていようと受け入れる覚悟は出来ていた。
「あの……何か物音が聞こえるんです」
「へ?」
よく見れば、アズラは軽く泣きながら体を震わせていた。腕もブルブル震えている。アズラは怖がっていたのだ。だが、サタンを起こそうにも気持ちよく眠っているのに申し訳ないと思い、一人で怯えていたのだ。
ゴメンな、アズラ……変なことを考えて――
「物音が聞こえるったって俺達の他に誰もいないだろ?」
「そうです、そうです。なのに、確かに聞こえたんです。何かが歩く音が」
にわかに信じがたいサタン。
すると――ガシャンという大きな音が確かに聞こえてきた。
「ワァァァァァ、や、やっぱり、誰かいる――!?」
音が聞こえたと同時にサタンに抱きついて悲鳴をあげるアズラ。髪から漂う良い香りが鼻をくすぶる。
「わ、分かった、分かったから。俺が見てくる」
サタンはアズラを離すと立ち上がって部屋を出ていこうとする。
「わ、私もついていきます。一人にしないで下さい。一人は怖いです」
部屋を出ていこうとするサタンに瞬間的に立って同伴する。
「分かった。じゃあ、服の後ろでも掴んでろ」
部屋の電気をつけてから二人は部屋を出た。そして、廊下の明かりもつけ歩き易いよう準備する。
「キッチンから聞こえてきたよな?」
「は、はぃ……」
「そんなに怖いなら部屋で待ってていいんだぞ?」
「い、嫌です!」
キッチンへ向かいながら、サタンは後ろをビクビクとしながらついてくる悪魔をしっかりと守らなければと思った。
キッチンについた二人は壁に体をつけながらソッと奥を覗く。暗い部屋の中でゴソゴソと動く確かな影。
本当に誰かいるのか――?
「い、いくぞ――アズラ」
「はい――」
サタンはキッチンへ入るなり、急いで電気をつける。そして、ゴソゴソと動く影に向かって――
「おい、誰だ!? 一体、なんの用が――」
しかし、言いかけている途中でサタンは笑いだした。その様子を恐る恐る見ていたアズラがサタンに問う。
「さ、サタンさん……? 何がいたんですか……?」
「アズラもよく知ってるやつだよ」
サタンは奥に進み、ゴソゴソと動いていた存在を抱き上げた。すると、アズラにも聞こえた。確かに、サタンの言う通り、よく知っている鳴き声が――。
「アオニャンですか!?」
「ああ。きっと、歩いている内に鍋に当たったんだな」
アズラもサタンの元まで歩き、その場をよく見て納得した。洗い終えて置いていた鍋が床に落ちている。そして、アズラを脅かした犯人はサタンの腕の中でジタバタと暴れていた。
「よ、良かったですぅ……アオニャンで」
ヘナヘナと手を床につけながら座り、安堵する。その様子を可愛いと思いながら見ていたサタンはアオニャンをアズラの前に降ろした。
「ほら、謝れ。驚かしてごめんニャさいってな」
アオニャンの頭を撫でながら下げる。すると、アオニャンも大人しくアズラの手をペロペロと舐めた。一応、申し訳ないという表しだ。
「もういいですよ」
アズラの許しをもらうとアオニャンはとっととどこかへ行ってしまった。
サタンは落とされたままの鍋を拾い上げると元あった場所に置き、アズラに手を差し出した。
「俺達も戻って寝よう」
「はい……。あの、その……サタンさん。私の勘違いで起こしてしまってすいませんでした」
結局、アズラの勘違いで起こったちょっとした騒動。そのことを恥ずかしく思うアズラは頬を赤くしながらシュンと謝った。
「別にいいよ。アズラが怖い時はすぐに俺を起こしてくれていい。たとえ、それが勘違いでもな」
「は、はい。ありがとうございます」
「じゃ、戻るか」
サタンとアズラが部屋に戻ると布団の中が盛り上がっていた。中を見るとアオニャンが体を丸くしてすっかり眠っていた。
二人はその姿に顔を見合せ笑うと電気を消し、布団に入って静かに眠った。
◇
グニョ――グニョグニョ――
「ギャァァァァァァァ――!」
夜の人間界に轟く悲鳴。グニョグニョと動く謎の物体。その物体は人間にくっつくと――消えた。
「お、おい……大丈夫か!?」
シィンと静寂の中、その悲鳴を上げた人間の側にいた関係もない通行人はいきなり何が起こったのかと心配し声をかける。
しかし、答えが返ってくることはなく、ただ手を伸ばしてくるだけだった。
サタンが外へ出ている理由は静かで落ち着けるため。そして、強くはなれない特訓をするためである。
あれだけ特訓するのが嫌いだった俺がメルに言われることもなく自ら取り組むなんてな……
あれだけ特訓嫌いだったサタンが珍しく自ら進んで特訓する理由は――天界へ向かうためである。
初めて天界へ行った時は門番らしき天使に見つかり、すぐに追い返されたことを思い出す。
次に行く時、また追い返される訳にはいかない……絶対に仲間になってくれそうな天使を見つけるんだ――!
サタンは陣を取るように地面に座るとゆっくりと目を瞑り呼吸を整える。音がしない静寂な空間――うっかりすれば寝てしまうかもしれないので注意しながら――
今、俺が死んだ回数は全部で十一回……この世界に来る前の一回とこの世界に来てからの十回……今は十二度目を生きているというわけだ――
今の自分の状況を思い返す。前に生きていた世界と今のこの世界。そこで、一回と十回の死を体験した。だが、この世界での死は契約した魔柱72柱の悪魔のおかげで生き返ることが出来る。そのおかげで今も生きていられるのだ。
今まで俺の中にいる悪魔は計五体だった……
“蛇の悪魔・アンドロマリウス”
“梟の悪魔・ストラス”
“多顔の悪魔・ダンタリオン”
“狼の悪魔・マルコシアス”
“美男の悪魔・セーレ”
けど、この前の戦いだけで五回死んだ俺は新たに仲間をその身に宿した。その数、計五体――!
死ななければ決して強くなれないと神様から言われているサタンはその通り、死という命と引き換えに着実に少しずつだが強くなっていた。
……けど、この前は死ぬペースが早かったせいなのか……新しい仲間達と交流が出来てないんだよな――
サタンが死に、新しい悪魔をその身に宿す時は何かしらの疎通がある。だが、この前の時はなく、今日までもない。
魔書のおかげで誰が中に入ってきてくれたかは分かってる……本当に魔書が無事で良かった――!
人間達に魔王城を破壊された時、魔書を持ち出すことも出来ず呆気なく燃やされたと思っていた。しかし、魔界城に隠れる前、少しばかり魔王城の跡を散策するとボロボロになりながらも魔書は残っていた。魔書に込められた不思議な魔力が守ったのだ。
そして、ボロボロの魔書はちゃんと読むことが可能でサタンに知識を与える。
“鹿の悪魔・フルフル”
“五芒星の悪魔・デカラビア”
“小女男の悪魔・ガープ”
“火戦車乗の二人の天使の悪魔・ベリアル”
“羊頭牛の悪魔・アスモデウス”
正直、正体が分からない悪魔ばかりで困ってるんだ……人形なのか動物形なのかも分からない……
目を閉じたまま考えるが、魔書で読み取れなかったのだ。分かるはずがない。
だから、一度は顔を合わせたかったんだがな……
心の中で名前を呼んで語りかけてみるが――
やっぱり、返事はないか……
アンドロで分かっているように悪魔達はサタンの中で眠っている。たまに、向こうから話しかけてくるが、大抵は話すことはない。
まぁいいか……気まぐれで向こうからくるかもしれないからな……よし、特訓終わりだ――!
サタンはいつか向こうからくることを信じ、特訓を終えた。述べた通り、強くはなれない特訓。だが、知ることだけでも十分特訓をしたことになる。
地面に手をついて立つと魔界城へ入ろうとする。
すると――
「今、帰ったのか?」
声をかけた相手は、青い毛並みに砂をつけて体を汚したアオニャンにだった。
アオニャンは魔界城に隠居をするようになってから、よくどこかへ消えてしまう。そして、気づけば帰ってきている。
「まったく……いつもどこへ行っているんだ――?」
アオニャンを抱き上げながら、毛並みについた砂を払ってやる。アオニャンはサタンの顔を見つめながら、可愛く鳴くと腕から飛び降りる。
そして、扉の前まで歩いていくと、早く開けてと促すように後ろを振り返りながらサタンを見る。
「はいはい、今開けるよ――」
サタンが扉を開けるとアオニャンは小さく跳ねながら中へと入り、またどこかへ行ってしまった。
「やれやれ……」
サタンも魔界城に入ると扉をパタンと閉めた。
◇
「じゃ、じゃあ……電気、消しますね……」
「あ、ああ」
特訓も終え、晩ご飯も食べ終え、後は寝るだけになったサタンとアズラ。二人は顔を赤らめ、ドギマギとした様子で話す。
この様子は魔界城に住み始めてから毎日起こっていることである。
ったく、毎日思うことだが……なんで布団は一つしかなかったんだよ!?
魔界城には色々と用意されていたのに布団だけは一つしか用意されていなかった。大きさが一人用だったならまだ良かった。サタンが床で寝れば済む話だからだ。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
「お、おやすみなさい……サタンさん」
「お、おやすみ」
用意されていた布団の大きさは二人用。
さて、二人しかいない魔界城で丁度二人が寝れる布団があればアズラはどう対応するだろうか――?
当然、床で寝ると言い張るサタンにダメですと言い、一緒に寝ましょうと言ったのだ。
なんで、二つ布団を置いとかなかったんだ……恨むぞ、先代の魔王達――!
サタンは魔界城が出来た時の魔王が誰だか分からないが、布団を二つ用意していなかったことを恨んだ。
ね、眠れねぇ……
二人は互いに背中を向けたまま目を瞑る。しかし、三日目になっても緊張しない訳がない。毎日、眠りにつくまで時間がかかる。
やがて、静かな空間に小さなアズラの寝息が聞こえてくるとサタンもようやくウトウトしだし眠りにつく。
そして、静かな時間が経った頃だった――
――ん、なんだ……?
「――~~っん、サタンッさん……」
サタンは呼ばれている気がして、目を覚ました。
アズラか……?
何かあったのかと思い、眠たい意識のまま寝返りをうち、声をかけようとする。
「アズ――ッ」
しかし、声をかけようとして息を殺した。
な、何をして……
アズラはゴソゴソと腕を動かしながら体をビクビク反応させている。その動作を見た瞬間、サタンは目を閉じて寝たふりをする。
そして、心の中で何をしているのかを考える。だが、目を閉じ、音だけの状態になったことで想像はより鋭くなっていく。
「~~ッサ、タンさん……サタンさん」
このまま、黙って聞いていると気が動転してしまうと思ったサタンはおもいきって声をかけた。
「アズラ……? 何を……してるんだ?」
すると、アズラは体をビクンと反応させてさせた腕を止めた状態で恐る恐る寝返りをうった。
「サタンさん――」
「はい」
サタンはアズラが何をしていようと受け入れる覚悟は出来ていた。
「あの……何か物音が聞こえるんです」
「へ?」
よく見れば、アズラは軽く泣きながら体を震わせていた。腕もブルブル震えている。アズラは怖がっていたのだ。だが、サタンを起こそうにも気持ちよく眠っているのに申し訳ないと思い、一人で怯えていたのだ。
ゴメンな、アズラ……変なことを考えて――
「物音が聞こえるったって俺達の他に誰もいないだろ?」
「そうです、そうです。なのに、確かに聞こえたんです。何かが歩く音が」
にわかに信じがたいサタン。
すると――ガシャンという大きな音が確かに聞こえてきた。
「ワァァァァァ、や、やっぱり、誰かいる――!?」
音が聞こえたと同時にサタンに抱きついて悲鳴をあげるアズラ。髪から漂う良い香りが鼻をくすぶる。
「わ、分かった、分かったから。俺が見てくる」
サタンはアズラを離すと立ち上がって部屋を出ていこうとする。
「わ、私もついていきます。一人にしないで下さい。一人は怖いです」
部屋を出ていこうとするサタンに瞬間的に立って同伴する。
「分かった。じゃあ、服の後ろでも掴んでろ」
部屋の電気をつけてから二人は部屋を出た。そして、廊下の明かりもつけ歩き易いよう準備する。
「キッチンから聞こえてきたよな?」
「は、はぃ……」
「そんなに怖いなら部屋で待ってていいんだぞ?」
「い、嫌です!」
キッチンへ向かいながら、サタンは後ろをビクビクとしながらついてくる悪魔をしっかりと守らなければと思った。
キッチンについた二人は壁に体をつけながらソッと奥を覗く。暗い部屋の中でゴソゴソと動く確かな影。
本当に誰かいるのか――?
「い、いくぞ――アズラ」
「はい――」
サタンはキッチンへ入るなり、急いで電気をつける。そして、ゴソゴソと動く影に向かって――
「おい、誰だ!? 一体、なんの用が――」
しかし、言いかけている途中でサタンは笑いだした。その様子を恐る恐る見ていたアズラがサタンに問う。
「さ、サタンさん……? 何がいたんですか……?」
「アズラもよく知ってるやつだよ」
サタンは奥に進み、ゴソゴソと動いていた存在を抱き上げた。すると、アズラにも聞こえた。確かに、サタンの言う通り、よく知っている鳴き声が――。
「アオニャンですか!?」
「ああ。きっと、歩いている内に鍋に当たったんだな」
アズラもサタンの元まで歩き、その場をよく見て納得した。洗い終えて置いていた鍋が床に落ちている。そして、アズラを脅かした犯人はサタンの腕の中でジタバタと暴れていた。
「よ、良かったですぅ……アオニャンで」
ヘナヘナと手を床につけながら座り、安堵する。その様子を可愛いと思いながら見ていたサタンはアオニャンをアズラの前に降ろした。
「ほら、謝れ。驚かしてごめんニャさいってな」
アオニャンの頭を撫でながら下げる。すると、アオニャンも大人しくアズラの手をペロペロと舐めた。一応、申し訳ないという表しだ。
「もういいですよ」
アズラの許しをもらうとアオニャンはとっととどこかへ行ってしまった。
サタンは落とされたままの鍋を拾い上げると元あった場所に置き、アズラに手を差し出した。
「俺達も戻って寝よう」
「はい……。あの、その……サタンさん。私の勘違いで起こしてしまってすいませんでした」
結局、アズラの勘違いで起こったちょっとした騒動。そのことを恥ずかしく思うアズラは頬を赤くしながらシュンと謝った。
「別にいいよ。アズラが怖い時はすぐに俺を起こしてくれていい。たとえ、それが勘違いでもな」
「は、はい。ありがとうございます」
「じゃ、戻るか」
サタンとアズラが部屋に戻ると布団の中が盛り上がっていた。中を見るとアオニャンが体を丸くしてすっかり眠っていた。
二人はその姿に顔を見合せ笑うと電気を消し、布団に入って静かに眠った。
◇
グニョ――グニョグニョ――
「ギャァァァァァァァ――!」
夜の人間界に轟く悲鳴。グニョグニョと動く謎の物体。その物体は人間にくっつくと――消えた。
「お、おい……大丈夫か!?」
シィンと静寂の中、その悲鳴を上げた人間の側にいた関係もない通行人はいきなり何が起こったのかと心配し声をかける。
しかし、答えが返ってくることはなく、ただ手を伸ばしてくるだけだった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。
最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。
自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。
そして、その価値観がずれているということも。
これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。
※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。
基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
二重生活を楽しむ最強の冒険者 ~英雄+新人として活躍します~
だいのすけ
ファンタジー
魔法が活躍する世界。主人公は、圧倒的な魔法で世界最強とされる「LV10」に上り詰めるが、その時に龍を倒すという人生の目標を達成してしまう。
その後の人生を楽しむため主人公は魔法の力で「普通の冒険者」に変身し、「世界最強」と「普通」の二つの立場で活躍する。
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
最強の英雄は幼馴染を守りたい
なつめ猫
ファンタジー
異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。
そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。
異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~
テツみン
ファンタジー
**救国編完結!**
『鑑定——』
エリオット・ラングレー
種族 悪霊
HP 測定不能
MP 測定不能
スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数
アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数
次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた!
だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを!
彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ!
これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。
転生したら武器に恵まれた
醤黎淹
ファンタジー
とある日事故で死んでしまった主人公が
異世界に転生し、異世界で15歳になったら
特別な力を授かるのだが……………
あまりにも強すぎて、
能力無効!?空間切断!?勇者を圧倒!?
でも、不幸ばかり!?
武器があればなんでもできる。
主人公じゃなくて、武器が強い!。でも使いこなす主人公も強い。
かなりのシスコンでも、妹のためなら本気で戦う。
異世界、武器ファンタジーが、今ここに始まる
超不定期更新 失踪はありえない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる