火の玉の如く

しょちぃ

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駆け抜ける火の玉

葛藤

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翌日、練習に参加し、いつものようにヘトヘトになった。練習が終わりオッサンが俺に近寄ってきた。

「上山、話がある。ちょっとクラブハウスの食堂まで付き合え」

「わかりました」

オッサンの話は何かわかっている。ほのかさんのことだろう。俺はオッサンの後ろを歩き、クラブハウスの食堂に向かった。

食堂に着くとオッサンが手で合図して食堂のみなさんに言った。

「すいません。何か飲み物、俺はコーヒー。上山は?」

「俺はオレンジジュースお願いします」

食堂の方が俺たちに飲み物を座っているテーブルまで運んでくれた。オッサンは『ありがとう』と、食堂の方に言うと俺を睨んだ。

「昨日、ほのかが『蓮くんのことが好きだ。婚約は破棄してくれ』と言ってきてな。お前らが付き合っていたのは知っていた。だが、ほのかがお前と結婚することは許さん」

「何故ですか?」

俺もオッサンを睨み返しながら静かにそうこたえた。オッサンは目をそらさずに俺に言う。

「ほのかは婚約しているからだ。それにお前みたいな粗暴な奴に娘がやれるか!」

オッサンの言葉に俺は一瞬ムカっとした。オッサンを睨むと俺はできるだけ言葉を荒げまいと一瞬息を吐くと言った。

「『やれるか!』ってほのかさんは物ですか?大切なのは俺たちの気持ちです」

俺の言葉にオッサンは目をそらさず、じっと見つめるとなだめるように言った。

「お前の言いたいことはわかる。しかし、お前が今やることはクラブを優勝させることだ!」

オッサンの言ってることはわかる。しかし、ほのかさんが婚約を破棄してほしいと言ったのは余程の覚悟を決めて言ったんだ!それをわかってるのか?オッサン!俺もあとには引けない。

「オッサン!好きでもない奴と結婚することがほのかさんにとっていいと思ってるんスか?」

オッサンはコーヒーを飲み干すと席を立ち、俺に向かって言った。

「とにかく、ほのかはお前とは結婚させん!お前は次の試合のことだけ考えろ!俺たちは優勝の為この1年間戦ってきた!いいな、試合だけ考えろ!」

そういうとオッサンは立ち去った。なんて横暴な奴だ!ふざけやがって!
そう思いつつ、俺もジュースを飲み干し、席を立とうとした瞬間、オッサンが戻ってきた。

「言い忘れたが今日は昨日みたいに勝手にアパートに帰るな。俺の家に戻れ。いいな!」

そういうとオッサンは踵を返して帰って言った。くそー!ふざけやがって!あれじゃほのかさんが断れないのが理解できる。

俺はその後、クラブハウスの食堂で食事をした。食堂のみなさんはオッサンの怒りを心配してくれたが、俺は無理言って作ってもらった。

食堂のおばさんがやさしい顔をして俺の座った席に食事を持ってきてくれた。食事を置くと癒すような微笑みを浮かべて言った。

「上山さん、監督は決してほのかちゃんのこと憎いんじゃないんですよ。もちろん、上山さんのことも。むしろ今じゃ上山さんを頼もしく思っているんですよ」

俺は少しうつむいていた。心の中に何かポッカリ穴があいたようだ。

この訳のわからない空しさはなんなのかわからない。ほのかさんを想う俺の想いは本当にほのかさんにとって良かったんだろうか…。

「わかってます。俺もオッサ…いや、監督のことも憎くないし、ほのかさんには幸せになって欲しい。ただそれだけなんです。それに俺は次の試合に集中するだけですから」

俺の強引な思いがほのかさんを追い詰めたのかもしれない。俺はこれまでただバカみたいに駆け抜けることしか考えてこなかった…。

それだけじゃない、今はクリムゾンウォリアーズの一員なのに、俺が自分の立場をわきまえず、フラフラしてちゃ皆に迷惑がかかる。今はそう、優勝のため全力を尽くすことしか考えないといけないんだ。

そんなことを考えていたら、食堂のおばさんはやさしい声で言った。

「そうだね。上山さんは今じゃウチの要だ。監督にとっても、ほのかちゃんにとっても、そして上山さんにとっても一番の笑顔で終わって欲しいね」

俺はうなづくと、食事をすまし食堂をあとにした。あとはやるだけなんだ。試合はもう目前に近づいている。風が強く吹く季節になった。頬が冷たい。

星を見つめて思い返した。ボクサーを目指して故郷を離れた時、光る星に誓った思いを。
今は違うジャンルのサッカーだがスポーツで頂点を目指すという思いに違いは無い。頂点は見えてきた。俺の思いは今は試合を見据えていた。

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