32 / 32
夜明けの鏡
夜明けの鏡
しおりを挟むいよいよ引っ越しの日が来た。私は前日、施設長さんや職員のみなさんにご挨拶に行った。
みなさん、寂しそうで、何かあればいつでも帰っておいでと言ってくれた。
本当に素敵な人達に囲まれて私は幸せだと思った。
「かの子!」
真希と静佳だ。2人とも来てくれたんだ。
「かの子、さみしくなるね。でも必ず遊びに行くから。かの子も時々来て。絶対だよ」
真希は泣きながらそういった。私は笑顔でうなずいた。
「バカ!真希!かの子は病気なんだから、こっちから行かないといけないでしょ!かの子、遊びに行くからね。また仲良く遊ぼうね」
静佳も泣きながらそう言った。私は静佳にも笑顔でうなずいた。
「私こそ、ありがとう。私みたいな内気な暗い子の友達になってくれて。みんなまた会いましょうね」
私がそういうと静佳が私の頭を小突いた。
「バカ!あんたは内気じゃなくておとなしいだけ。自分で暗いなんて言うなよ」
静佳はそう言って笑った。真希も笑っている。
「かの子さん!」
久米さんだ。久米さんまでお見送りに来てくれたんだ。
「かの子さんと出会ったのも何かの縁です。尚輝さんが私の武術を習いたいと言ってました。向こうに私の支部がありますから、支部長と門下生をどうか可愛がってやってください」
久米さんはあいかわらず優しく笑っている。
「えっ!尚輝が武術?」
私がそういうと久米さんはまた優しく笑って、
「今回の件でかの子さんを守る為、強くなるんだ!と言ってました」
久米さんはニコッと笑ってそう言った。
私は「そっか」とだけ言った。
尚輝は尚輝なりに私のことを想ってくれてるのね。
その後、尚輝も合流し、駅までみんなで歩いていく。始発に乗るんだ。だからまだ外は暗い。
やがて駅に着き、私達が乗る列車が見えた。
尚輝が私の身体が冷えないように上着を着せてくれた。
「さあ、かの子、冷えると身体にさわるから列車に乗ろうか」
尚輝がそう言って、私の手を握った。
尚輝は皆さんに頭を下げて
「みなさん、本当にお世話になりました。またお会いしましょう」
とみんなに挨拶した。みんなもうなずいた。
みんなの笑顔がすごくまぶしい。とても愛おしい。本当に素敵な人達と私は一緒だったんだ。
「みんなありがとう。また会おうね」
私は真希と静佳の手を取って笑顔で言った。
「私達。ずっと親友だからね。忘れたら承知しないから。体には十分気をつけてね」
真希が泣きながらそう言った。静佳も泣いている。尚輝は私の後ろで静かに笑みを浮かべて見つめている。
私も涙があふれてきた。みんなのこと、この街のこと忘れないから。そう私は心の中で言って、私は涙を拭って、みんなに大きな声で言った。
「私、私として生きるわ!かの子で生きるわ!」
私はそういうと笑顔で手を振り列車に乗った。みんなうなずいている。
列車はやがて出発した。みんな手を振る。私は列車の窓を開けて手を振り続けた。
「私、かの子で生きるわ!かの子で生きるわ!!みんなありがとう!本当にありがとう!!」
みんなの姿が小さくなっていく。私はずっと手を振り続ける。
私の手を振る姿を優しく微笑みながら見ていた尚輝が私にあたたかな言葉で言った。
「向こうでは何があるかな?」
尚輝はそう言った。
「かの子と尚輝の物語よ」
「そうだね」
そういうと尚輝は私の手を握った。その手のぬくもりが私の全身に伝わっていく。
私はこのぬくもりと一緒に生きるんだ。
私のぬくもりもあなたと一緒だよ。
これからも、ずっと二人で生きる。
そうでしょう。尚輝……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やがて外が明るくなっていく。空が白み始めた。建物の間から太陽が昇っている。
太陽の光は二人を乗せた列車の窓を照らし、
鏡のように光っている。
嵐は過ぎ去り、過ぎ去った嵐の後、
新しく生まれ変わったかの子の新しい旅立ちを照らすように、
鏡のように光る窓はまばゆくきらびやかに光り続けていた。
完
、
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔の鴉がやってくる。『雨宿りの女』
安田 景壹
キャラ文芸
闇に潜む怪物どもを狩る魔女、七ツ森麻來鴉。
彼女は雨の日に怪異に憑りつかれたという少女、能見晶子の除霊を引き受ける。
だが、彼女の中に潜む怪異は、過去の因縁を経てやってきた恐るべき存在だった――……
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
投票しました!
優しい旦那様、善良なご夫婦で、なんだかホッとします♪
文体も、大変、読みやすく好感度、高いです。(*^。^*)