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神仙様
神仙様
しおりを挟む小田は私の前、1メートル程で止まった。そして、両手を大きく広げて私をカッと見開いた目で見つめながら言った。
「先程、言ったように、ミセスかの子、あなたには新興宗教の教祖になっていただきます。
そして神殿に住んでいただきます。
あなたには新しい名前を名乗っていただきます」
私は思わず「新しい名前」と言った。思いもしない言葉だったからだ。小田は手を広げたまま、さらに続ける。
「そうです。ミセスかの子、あなたは今日から『神仙様』と名乗っていただきます。そしてまずは病気の人達や悩みのある人達から救っていただきます。この古ビルも青木町の古ビルも後々には支部として改築致します」
説明ってこれだけ?これでは本当にただの教祖になるだけじゃないの?私はある意味呆気にとられた。
「大切なのは、その後、すべては申し上げられませんが、たくさんの信者が集まった後、その人達を先頭に我々の国を作ります!
そう、理想郷です!そこには救われた人達しかいない!皆が幸せに暮らす国なのです!ミセスかの子!」
国ってクーデターでも企んでいるんだろうか?
私は思わず寒気を感じた。しかもすべてを言えないなんて…何か悪いことを考えているんだろうか?それに私の新しい名前が神仙様ってなんか、みんなを騙すようで嫌だ。
でも、今はこの人達に従わないと何をするかわからない。それに尚輝や真希や静佳だってどうなるかわからない。久米さんも大怪我を負ってとらわれてしまった……。私は震える全身をこらえて、小田に言った。
「わかりました。まずは教祖としてたくさんの人達を救うお働きをすればいいのですね?」
「そうです、ミセスかの子。その宗教であなたは女王だ。多くの人々を救う救世主。
そして、その後、理想郷が来る。その足がかりの働き、早速行なっていただきましょうか」
小田はそういうと私を手招きするようなしぐさをして、部屋から出した。部屋を出て階段を降りる。
外には大きな車が止まっている。まるで偉い人が乗るような黒い大きな車だ。
「ミセスかの子、どうぞお乗り下さい。あなたは今日から神仙様、我々の国の女王!
このくらいの車に乗っていただかなければ我々の品格が疑われます」
そういうと私は後部座席に座った。私の横には小田が座った。前の席には小田の手下が座っている。ある意味逃げられない為の用心に思えた。
やがて車は走り出した。街はまぶしく人々は生き生きと歩いている。でもこんなに平和に見える街にも、さっき小田が見せた映像にあるような苦しみや悲しみの中で苦しんでいる人がいる。誰にも知られることのない苦しみに……。
私はそう思うと騙されているとしてもたくさんの人達が救われる為に、あの玉の力を使うことは悪いことじゃないと思えてきた。
「ミセスかの子、見えてきました。あれが神殿。あなたの国です!」
とても、立派で大きな建物でまるで西欧のお城みたいだった。いつあんな建物を建てたんだろう?私がそう思っていると車は神殿に着いた。
「さあ、ご案内します。こちらへ」
小田に言われるままに私は車から降りて、神殿の中に入った。小田が私を先導しながら説明する。周りは大理石でできている……!
「ミセスかの子、おっとこれからは神仙様ですね。神仙様、こちらがスタッフルーム。中には巨大なコンピュータがあり、すべて管理しております。そして、この奥の間があなたのプライベートルーム。さあ、こちらへ」
言われるままに、私は大きなエレベーターに乗った。7階程登ると、そこには大きな空間が広がっていた。
「神仙様、あなたはここから説教でも、人々を救うことでも、ご自由になさってください。
ここは7階。そう聖書にもあるように、7は完全数!おっとご存じない?私は哲学者ですから、その辺りのご説明は後から致します。とにかく、あなたは完全な救世主なのです!」
私はあっけにとられた。いつのまにこんな巨大で凄まじい建物を建てたんだろう?
それに私が完全な救世主?
「あの……神仙様という言い方はやめてもらえますか?」
「そうですか?ではこれまで通りミセスかの子で。しかし、皆様の前では神仙様と名乗っていただきます。ハハハ!」
小田の笑う声が響き渡る。私はこれから本当にどうなるんだろう?みんなを救出できるんだろうか?不安と恐怖が入り乱れる中私は震えていた。
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