夜明けの鏡

交差する思い

交差する思い

影は時折り気配を消しながら近づいてくる。
小田は宮川に合図をすると、影のほうに向かって身を低くしながらゆっくりと近く。
影が一瞬、少し下がったように感じた。

宮川はその瞬間、素早く影に向かって飛び出した！

「うぐっ！」

悶絶するような声が聞こえた。宮川は影を捕らえると、さらに羽交い締めにした。

「おい！貴様は何者だ！言わんと目をくり抜くぞ！」

宮川が影に向かって恫喝して言う。
小田がライトで影を照らした。

捕まっているのは久米さんのお弟子さんだ。

「ん？なんだ、小物じゃないか。おい！お前らのボスはどこだ？」

宮川はさらに首を絞めながらお弟子さんに言う。宮川が腕を持ったと思うと身体の底から何かが弾ける音がした。

『バキバキバキバキ！！』と言う骨の砕ける音が部屋中に響く！

「ぐあああ！」

お弟子さんの悲鳴と骨の砕ける音が同時に部屋中に響き渡り、私は一瞬目を伏せてしまった。

「やめてください！そんなことをするのなら協力しません！」

私がそういうと宮川はニヤニヤと笑いながら私のあごを手でしゃくりあげるようにして

「ミセスかの子、いいんですか？協力しなければ、あなたの大切なご主人とお友達は。ヒャヒャヒャ！」

不気味で滑稽な笑い声で宮川が笑う。

「よせ！宮川！ミセスかの子は大切なお方。粗相のないようにせんか！」

小田がそう言って宮川を止める。お弟子さんは宮川に捨てられるように床に投げ出され、その場に倒れて起き上がれない。

「うん？」

宮川が斜め後ろを向いてさらに後ろを向いて、また身を低くして構えた。宮川はニヤニヤと笑いながら、振り返った一方しか見つめていない。

私は緊張でその場で身動きできない。
玉の力を思い出したけど、それを使うことすら戸惑うほど、身体が硬直している。

「小田先生、今度は遠慮無しでよろしいですね？」

「ああ、やれ」

宮川の言葉に小田はそう言った。その言葉と同時に宮川は素早く動く。まるで闇の中、黒豹のように。

宮川が動いた真横辺りや斜め前辺りから悶絶する声が聞こえた！
何人の悶絶する声が聞こえただろう？
そう思っていると『ぐああっ』という声が反響した！

「つーかまえた。あんた大したことないね。久米修さん。あんなに有名な武術家で、たくさんのDVDだの書籍だの出しているのに、あれハッタリ？」

宮川はそういうと久米さんの腕を絞り上げている！

「久米さん、あんた最強の武術家なんだろ？アメリカやフランスでも軍隊や警察を指導したんだろ？それがこの程度。ヒャヒャヒャ！弟子も弱すぎるしな。ヒャヒャヒャ！」

宮川はそういうと久米さんの両腕をさらに絞り上げている。あの悲鳴は久米さんのお弟子さんだったのか？だったら久米さんは私達を救いに来られて……。

「弟子は一発で終わり。あんた何発耐えられるかな？久米修さんよー！ヒャヒャヒャ！」

そういうと宮川は久米さんの片腕を固めながらお腹を何発も叩いている。

「うっうっ」という声と同時に久米さんの口から血が床に落ちている。

その光景を小田はニヤリと笑いながら見つめている。

私はこれまで見たことのない恐ろしい光景に恐怖で動かないだけでなく、身体全体がガタガタと震えている。

「ミセスかの子。邪魔なハエは退治しないと、あなたとこの後、大切なお話がありますからね。申し訳ございません。もう少しお待ちください」

小田はまた貴族が挨拶するように腕を体の前に回して会釈した。

あまりにもかけ離れたその仕草に余計に不気味さを感じる。宮川は久米さんを残忍にいたぶり、小田は変に丁寧に挨拶する。
私は逃れられない恐ろしい場所に来たのだと硬直した体を支えるのに必死だった。