夜明けの鏡

しょちぃ

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追駆する影

追駆する影

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久米さんの車に乗り1時間半程経つと、やがて久米さんの家に着いた。
ボディガードをしてくれている弟子の方々は先に降りて、トランクの中の小田洋平さんの部下をおろし、そのまま家に入っていった。

家からさらに何人かの人達が私達を囲むようにした。私達を守る為だ。

「みなさん、私の弟子たちは実際に要人警護を務めている者ばかりです。安心して下さい」

久米さんがそう言って、周りを見回す。久米さんの家の隣りや家の中には屈強な身体をした人達が鋭い目を光らせて周りを見回す。

家の隣りの大きな建物から気合いのような声が聞こえる。

「ここは道場です。私どもは体術とあらゆる武器術を修練してます」

久米さんがやさしい声でそう言った。
私達は奥にある部屋に通された。私と尚輝は大きな部屋に案内され、真希と静佳は隣りの大きな部屋に通された。

「ねえ、尚輝。久米さん達が武道の達人でも相手はマシンガンやピストルを持っているのよ。大丈夫かしら」

私は不安で尚輝にそう言った。尚輝はやさしく笑って私に言った。

「大丈夫。久米さんも相手がどういう連中かわかっているみたいだし、僕らは久米さん達を頼って、これからのことを考えよう」

尚輝は私をなんとか落ち着かそうと懸命なのがわかる。そうだ、今はこれほどの人達に守られているんだ。私は自分に何度も言い聞かせた。

突然!何か黒いものが飛んできた!私達の部屋の窓を突き破って、黒いものが畳の上に落ちた!
私はそれを見て、身の毛がよだつのを感じた!

「きゃー!!」

私は思わず悲鳴をあげた。尚輝が私の目をふさぐ。久米さんと弟子の方々が私達の部屋に急いで来る。

「大丈夫ですか!?何かありましまか!?」

久米さんが私達にそう言いながら弟子の方々に周りをかためるように指示する。

「これは……ネコの死骸……。何故このようなものが部屋の中に。ん、これは」

私は尚輝の手の間からそっとネコの死骸を見た。血だらけでズタズタに切り裂かれている!
しかも、胴体には矢が突き刺さって、その先に何か紙が突き刺さられている!

久米さんはその紙を取り、開くとじっと見つめていた。そして私の顔をみつめて言う。

「かの子さん、これはあなたに対する脅迫状だ」

私は思わず、尚輝の手を振り払い、その脅迫状を久米さんから受け取り読んだ。

[ミセスかの子、お気に召しましたか?何故お逃げになる?私達はただ平和の為にあなたのお力を借りたいだけです。ミセスかの子、まだお逃げになるのなら、このネコのようにズタズタに、いや、もっと悲惨なことがおきますよ。
どうか早いご決断を]

手紙にはそう書いてある。

ネコの血が畳にしみ込みながら周りもドス黒く染めてゆく。私は手紙の主が小田洋平さんだとすぐにわかった。
なんて、残酷な人!
私は血に汚れた手紙を手に血だらけのネコを見つめプルプルとふるえていた。目はうつろに焦点だけしっかりと血まみれのネコを見つめる。
身体は糸が切れた人形のように力無く横たわり、尚輝の腕の中ふるえるだけだ。

「かの子!大丈夫か!?」

尚輝がさらにしっかりと私を抱きしめて叫んだ。

「かの子さん!気を確かに!」

久米さんもしっかりと私を見つめて叫ぶ。

私はしばらく口を半開きにしてボーっとしていたが、尚輝の腕を払い、私の中の思いがはじけた。

「ど、どこが平和なの?人々の幸せなの?こんな、こんな酷いことをする人のどこが平和のための働きなの?」

私がそこまでいうと尚輝も久米さんも私をただ見つめるしかなかったかのように見つめる。

「こんなの……平和じゃない。人々の幸せを願う人のすることじゃない……小田洋平さん、いえ、小田洋平!あなたは人々の幸せを説く哲学者じゃないわ!ただの残酷なエゴイストよ!こんなの!こんなの!!」

私はそう叫びながら、畳を狂ったように叩いた。尚輝が思わず私を抱きしめる。

「かの子!落ち着いて!大丈夫だから!大丈夫だから!」

私は尚輝の腕の中で泣き叫んだ。身体中の水分が無くなるほど泣いた。泣きながら、私は尚輝の腕をまた振り払い、血だらけのネコのところに行き、血だらけのネコを抱きしめた。

「うぅ……ごめんね。ごめんね……うぅ……ごめんね」

私はそういうのが精一杯だった。血だらけのネコを抱きしめ泣きやまない私を尚輝と久米さんはただ見つめるしかなかった。
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