騙された平民聖女が、呪いをかけた魔導士と呪いを仲間にして復讐する話

空橋彩

文字の大きさ
上 下
46 / 52

クレイの苦悩① 第四十五話

しおりを挟む
フードで視界が狭くなっていたリリーはクレイの手がこちらへ伸ばされている事に気が付かず、反応が遅れてしまう。両手を花で塞がれている為、フードを抑えることが出来ず、ギュッと目を瞑る。
後少しで、顔が見えるかというところでジョージが薔薇の花を腕の中に追加でどさっとのせる。

「おや、何かしておりましたかな?いや、トゲを取り終わりましたのでな。お嬢さんに持たせようと思って。ほっほっほ」

穏やかに笑ってジョージは自分の仕事へ戻っていく。
現実に引き戻されたクレイは慌てて頭を下げる。

「すまない、どうかしていた。勝手に外装に手を触れようとするなど。許してほしい」

「いえ。お構いなく…」

心臓がはち切れそうなほど脈を打っている。
30本ほどある薔薇は歩くたびにその濃厚な香りをあたりに漂わせる。

「君の名前を聞いても良いかい?」

「名乗るほどのものではございませんので…」

今まで黙っていたクレイが突然話しかけてきた。
リリーは通行手形に何と記されているか確認したが、確信が持てず、何と名乗れば良いか悩み答えあぐねていたところ、前方から鬼の形相で駆け寄ってくる者がいた。

「り…!!リン!どこに行っていたの?!」

王宮バージョンのシルビアは鬼気迫った様子でリリーに抱きつく。ジェントクランだったら半べそをかいていたであろうと想像してクスリと微笑んでしまう。

「迷子になってしまって。庭師の方がこの薔薇をくださったんです。」

「すごく綺麗だね。良い香りだ。」

腕に抱いた薔薇の香りをかぐために、グッと近づいてくる顔にドキッと胸が高鳴る。

「クレイ!ここにいたの?!」

その時、曲がり角から不機嫌そうな女の声が響いた。

「あぁ、アクア。体調はいいのかい?」

「そんな事より、呪いを解く為の者たちがきたのに何故わたくしは呼ばれないのですか!!あら?こちらの殿方は?」

ちょうど角にいたクレイに近づいてきたのは、アクアだった。派手な赤いドレスに豪華なネックレスにイヤリングをしている。
こちらに目を向けたアクアは薔薇に埋もれたシルビアに気がついて秋波を送る。

「まあ!素敵な薔薇。わたくしにですか?良かったら部屋まで運んでくださらない?」

頬を赤く染め、瞳を潤ませながら、シルビアに近寄ってくる。二の腕に手を這わせ、しなだれかかろうとしたその時。



シルビアがボソッと呟くと、腕に触れようとしていた手にビリッと電気が走る。

「きゃあ!痛い!!」

「静電気かな?では、殿下。我々はこれで失礼します」

自分の手をさすりながらアクアは慌ててシルビアを呼び止める。

「待って!あなた、わたくしのために呼ばれた人でしょ?!だったら、早く部屋に来てください!おもてなしさせていただきますわよ!」

それでもなお媚を売る様な甘ったるい声で誘ってくる。

「結構です。君に振り回されるのはもう充分だ。」

「アクア、こちらの方達は到着されたばかりでお疲れなんだ。後でまた特別に面会させてもらう様にお願いしておくから。」

「そういう事ですか。では、面会はわたくしの部屋でお願いしますわ!あ!その薔薇もあとで持ってきてくださるのね?後ろの…メイドかしら?あなたはついてこなくて結構よ!」

特別にという言葉に気をよくしたアクアは上機嫌になりまた部屋へと戻っていった。はぁ、と深いため息をついたクレイはシルビアとリリーの方に向き直る。

「シルだと気が付かなかったようだな。アクアは綺麗な男に目がない様でね。すまなかった。しかし、何故隠していたんだ、そんなに美しい顔ならアクアだってあんなに…煙たがらなかっただろう。」

シルビアは嫌そうな表情を隠す事なくクレイを見つめる。

「あんな女に好かれたくなかったし、興味すら持たれたくないからな。僕にはリンがいるし。」

途端にクレイは顔をクシャッと歪めて下を向いてしまった。

「シル、あの呪いを押し付けてしまった少女を知らないか?彼女に会って話したいことがある。知ってることを話してくれ」


クレイの言葉と同時に黒いモヤがシルビアの顔面目掛けて飛んできた。が、パチンと破裂音がしてモヤはちっていった。

「僕に魅了魔法はきかない。もちろん、リンにも。強力な結界を張ってもらってあるからね」

トントンと腕を指さすと、シルビアの腕にもエルダーの呪文が書き込まれていた。
しおりを挟む
エールを送ってくださった方、ありがとうございます!!とても嬉しいです!!
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...