騙された平民聖女が、呪いをかけた魔導士と呪いを仲間にして復讐する話

空橋彩

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クレイの苦悩① 第四十五話

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フードで視界が狭くなっていたリリーはクレイの手がこちらへ伸ばされている事に気が付かず、反応が遅れてしまう。両手を花で塞がれている為、フードを抑えることが出来ず、ギュッと目を瞑る。
後少しで、顔が見えるかというところでジョージが薔薇の花を腕の中に追加でどさっとのせる。

「おや、何かしておりましたかな?いや、トゲを取り終わりましたのでな。お嬢さんに持たせようと思って。ほっほっほ」

穏やかに笑ってジョージは自分の仕事へ戻っていく。
現実に引き戻されたクレイは慌てて頭を下げる。

「すまない、どうかしていた。勝手に外装に手を触れようとするなど。許してほしい」

「いえ。お構いなく…」

心臓がはち切れそうなほど脈を打っている。
30本ほどある薔薇は歩くたびにその濃厚な香りをあたりに漂わせる。

「君の名前を聞いても良いかい?」

「名乗るほどのものではございませんので…」

今まで黙っていたクレイが突然話しかけてきた。
リリーは通行手形に何と記されているか確認したが、確信が持てず、何と名乗れば良いか悩み答えあぐねていたところ、前方から鬼の形相で駆け寄ってくる者がいた。

「り…!!リン!どこに行っていたの?!」

王宮バージョンのシルビアは鬼気迫った様子でリリーに抱きつく。ジェントクランだったら半べそをかいていたであろうと想像してクスリと微笑んでしまう。

「迷子になってしまって。庭師の方がこの薔薇をくださったんです。」

「すごく綺麗だね。良い香りだ。」

腕に抱いた薔薇の香りをかぐために、グッと近づいてくる顔にドキッと胸が高鳴る。

「クレイ!ここにいたの?!」

その時、曲がり角から不機嫌そうな女の声が響いた。

「あぁ、アクア。体調はいいのかい?」

「そんな事より、呪いを解く為の者たちがきたのに何故わたくしは呼ばれないのですか!!あら?こちらの殿方は?」

ちょうど角にいたクレイに近づいてきたのは、アクアだった。派手な赤いドレスに豪華なネックレスにイヤリングをしている。
こちらに目を向けたアクアは薔薇に埋もれたシルビアに気がついて秋波を送る。

「まあ!素敵な薔薇。わたくしにですか?良かったら部屋まで運んでくださらない?」

頬を赤く染め、瞳を潤ませながら、シルビアに近寄ってくる。二の腕に手を這わせ、しなだれかかろうとしたその時。



シルビアがボソッと呟くと、腕に触れようとしていた手にビリッと電気が走る。

「きゃあ!痛い!!」

「静電気かな?では、殿下。我々はこれで失礼します」

自分の手をさすりながらアクアは慌ててシルビアを呼び止める。

「待って!あなた、わたくしのために呼ばれた人でしょ?!だったら、早く部屋に来てください!おもてなしさせていただきますわよ!」

それでもなお媚を売る様な甘ったるい声で誘ってくる。

「結構です。君に振り回されるのはもう充分だ。」

「アクア、こちらの方達は到着されたばかりでお疲れなんだ。後でまた特別に面会させてもらう様にお願いしておくから。」

「そういう事ですか。では、面会はわたくしの部屋でお願いしますわ!あ!その薔薇もあとで持ってきてくださるのね?後ろの…メイドかしら?あなたはついてこなくて結構よ!」

特別にという言葉に気をよくしたアクアは上機嫌になりまた部屋へと戻っていった。はぁ、と深いため息をついたクレイはシルビアとリリーの方に向き直る。

「シルだと気が付かなかったようだな。アクアは綺麗な男に目がない様でね。すまなかった。しかし、何故隠していたんだ、そんなに美しい顔ならアクアだってあんなに…煙たがらなかっただろう。」

シルビアは嫌そうな表情を隠す事なくクレイを見つめる。

「あんな女に好かれたくなかったし、興味すら持たれたくないからな。僕にはリンがいるし。」

途端にクレイは顔をクシャッと歪めて下を向いてしまった。

「シル、あの呪いを押し付けてしまった少女を知らないか?彼女に会って話したいことがある。知ってることを話してくれ」


クレイの言葉と同時に黒いモヤがシルビアの顔面目掛けて飛んできた。が、パチンと破裂音がしてモヤはちっていった。

「僕に魅了魔法はきかない。もちろん、リンにも。強力な結界を張ってもらってあるからね」

トントンと腕を指さすと、シルビアの腕にもエルダーの呪文が書き込まれていた。
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