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夢と現実の狭間にsideモアラート王国 第三十六話

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「クレイ様、見てください!城下の子供達が私にってお花をくれたのです!綺麗でしょ?」

あぁ、※※※の今日のワンピースと同じ色だね。とても綺麗だ。僕も花をプレゼントしたいけど、この花に勝てる花はしばらくなさそうだね」

「殿下は、隣にいてくださるだけで私は嬉しいのですよ。私の特別な人なんです。自慢してください」

茶色い髪の素朴な少女は、野原で子供達が摘んできた花を束ねた花束を持って微笑んでいる。

小さな水色の花はいわゆる雑草だ。途中で力ずくに手折ったのか、茎が折れてぐにゃりと曲がっている。
それでも、その花を持ってきた子どもの笑顔は一生懸命で、美しかった。

花束は薄い紙に包まれている。巻かれているリボンには子ども達の母親が丁寧に刺繍を施してあった。
銀色のリボンの裾に茶色の刺繍糸で百合の花を一輪。

「茎が折れてしまってるから、長くは楽しめなさそうだね。」

クレイは残念そうに※※※の手ごと、花束を包む。

「いいえ、見ててください。」

そういうと、※※※は目を閉じ、何かを念じているようなそぶりを見せる。
握った手が温かくなったように感じて視線を落とすと、花がわずかに揺れていた。
くにゃりと曲がった茎が本来の方向に戻り、まるで野原にまだ咲いているかのようにピンと立ち上がった。

「せっかくいただいたお花ですから、私たちの寝室に飾りましょう殿下」

しゅるりとリボンをほどくと、「髪に縛ってください」と手渡し、くるりと後ろを向く。

「出来たよ僕の髪の色にしてくれるなんて、皆優しいな。ほら、出来たよ」


「本当に、暖かい人たちに囲まれて幸せですね」

くるりとこちらを向いた少女は穏やかに、愛らしく微笑んでいた。クレイもつられてふんわりと微笑む。

「そうだわ!庭の薔薇が剪定の時期に入ってますよね?!切った花を乾燥させてポプリにして、母親達にお礼にプレゼントしましょう!!」

「いい考えだね。今ならジョージがいるから頼もうか!」

「ジョージがいるの?なら、私にも何輪かプレゼントしてくれるかしら?運がいいと切ったばかりの薔薇をこっそりプレゼントしてくれるのよ!」

「それは妬けるな。」


「ふふ!そんな顔しないで!クレイ様」

「ク…様…」


「クレ…様」


「クレイ様。もうすぐ国王が帰ってこられます。準備を」

抑揚のない、太い声に起こされ、目を開ける。先程まで心が暖かく優しい気持ちになっていたはずなのに、すっかり冷めてしまっている。
執務室の大きな机に片膝をついたまま少し眠っていたようだ。

あの夢は、なんだろう。最近あの少女の夢をよく見る。
顔ははっきりしていないし、名前もわからない。
それでも、とてつもない虚無感を感じる。
夢の中にずっといたい、そんな気さえしてしまうほどに。

コンコンと扉がノックされる。

「どうぞ」

と返事を返せば、真っ赤なドレスに身を包んだアクアが現れた。

「陛下との謁見に遅れましてよ、行きましょう」

「あぁ、行こう」

重い腰を上げてアクアをエスコートする。途中、中庭で庭師が花の手入れをしていた。
綺麗な薔薇の花がまだ美しいのに刈り取られているのを見て足を止める。

「まだ咲いているのになぜ?」

つい、そう話しかけてしまった。庭師は驚いてはいたがにっこりと笑って答えてくれた。

「これは、王太子様、婚約者様。これは、後々のバラが美しく咲くように剪定をしております」

パチン。そう言って、シワだらけの手で優しく薔薇を一輪切る。そうして、大きく美しい真っ赤な薔薇をこちらへ差し出してきた。

「この花はまだまだ楽しめます。王太子妃様よろしかったら一輪如何ですか?」

王宮の薔薇といえば最高級品である。平民はもちろん、貴族ですらなかなか手に入れられない。もちろんクレイもそのことは知っているのでその行為を止めなかった。

「!!!何ですってこの愚か者!!!」

アクアは手に持っていた扇子で庭師の頬を思い切りぶった。その後も手はわなわなと震え、床に落ちた大輪の薔薇は無惨に踏みつけられている。

「この私に剪定した薔薇を送るなんて不敬罪です!!即刻首にして!!!はやく!」

「アクア!この薔薇は特別な薔薇なんだよ!」

慌ててクレイが庇おうとするが、だからなんだと言わんばかりにアクアの怒りは収まらない。

「汚い庭師が直接触ったものなどただのゴミよ」

「申し訳ありません。婚約者様…」


「いいから今すぐ出て行きなさい!処刑されたくなければ二度とここに来ないで!!」

庭師は散らばった花を集めると、慌てて庭から出て行こうとした。クレイは、その背中が何故か気になってしまい、呼び止める。


「ジョージ!!」


「はい?王太子様。わしの名前をご存知だったのですか?お世話になりました」

夢じゃないのか?あの夢は、現実と同じなのか?
ぺこりと頭を下げて出ていく庭師を見つめながら、混乱した頭に踏みつけられた薔薇の濃い香りが混ざり、どうしようもない焦りが湧き上がった。

気もそぞろに国王との謁見を迎えることになる。
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