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病は気からと言いますが。 第三十一話

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机と椅子、それからクローゼットとベッドしかない部屋だが、清潔で窓も大きくとられていて明るい。
明るい木の色で、居心地がとても良い部屋だった。

キョロキョロと落ち着かない様子で辺りを見回していると、コンコンと扉をノックされた。

「はい!!」

慌ててベッドから立ち上がり返事をすると、扉の向こうからテラが申し訳なさそうに顔を出す。

「リリーちゃん、平気?大丈夫?無理させてしまってごめんなさいね…」

「いいえ!!私が望んで訓練に参加したんです!いろいろ教えてもらって、ありがとうございます!」

「顔色も良くなったわね。よかった。」

リリーが倒れた理由の半分はシルビアのせいであったが、訓練の疲れという事で皆、認識しているようだ。

「リリーちゃん、もしよければだけど騎士団に入らない?護衛部隊の方はちょっと難しいけど、騎士団の見習いって事で、討伐や訓練に参加して行けばどうかしら?」

ベッドに腰掛けてサイドテーブルに置いてあった水差しからグラスに水を注ぎながらテラはリリーをまっすぐ見つめる。
その視線はとても、真面目で冗談で言っているようには見えなかった。

「い…いいんですか?」

やっと、誰かを救えるようになってきたリリーは更に自分の力を試してみたくなっていた。
誰かを笑顔にできるなら、やってみたい。そう思った。

「もちろんよ!手の内にいてもらった方が、守りやすいしね。決まりね。今日からここがリリーちゃんの部屋ね」

グラスを差し出すとテラはニッコリと微笑む。
つられて微笑みを返すと、心が暖かくなるような気がした。握手を求められたので素直にたらの差し出された手を握る。

「実はシルビアちゃんも寝込んでるのよー。核を持っているリリーちゃんがそばにいてくれると、早く元気になると思うの、お見舞いに行ってあげてくれる?やっぱり5日も離してしまったのはダメだったかしらー今度からもう少し短くしましょうね。」

サラリと爆弾発言を残し、テラは颯爽と去っていった。
やはりあのボロボロ加減は核となるリリーがシルビアの元を離れたのが問題だったようだ。
慌てて部屋を出るとエルダーが待っており、リリーを浴室に案内する。

「あの、シルビア様が倒れたって聞いて…お風呂は後でも…」

「ダメね。5日も森にいたんだから、先ずはさっぱりするといい。あいつは寝てるから、急がなくても大丈夫。リリー側にいれば問題ない。」

そう言って瞬く間に服を引っ剥がし、浴室へ放り込まれてしまった。10人程は入れそうな大きな浴槽にたっぷりお湯が湧いている。
森でついた汗や汚れを落とし、湯船に浸かると疲れがお湯にとけていきそうだった。

髪の毛も丁寧に拭き、浴室のドアを開けるとまたすぐさま手を引かれ、隣の棟に連れていかれる。
1階の一番奥にある、しっかりとした扉の部屋に合わないさる。
重厚な扉を開けると突き当たりのベッドには、青白い顔で横になるシルビアがいた。

「じゃ、明日迎えにくる。」

「へ?!明日?!なん…」

片手をすっとまっすぐあげ、手を振るとまだ言い掛けのセリフもきかず、容赦なくバタン!と扉が閉められた。

どうしていいか分からずとりあえずベッドサイドの椅子に腰掛けシルビアを見つめる。
こうしてみると、長いまつ毛や白い肌で、やはり整った顔立ちをしている。眠った姿を見れば、女性に見える。

時折、寝苦しいのかまつ毛が揺れるがどうやら深く眠っているようだ。近くにあったタオルを桶の水で濡らし、おでこや顎の下など汗をたくさんかいているところをぬぐう。
途中でうっすらと目を開けたシルビアと視線が交わる。

「いい匂いがすると思ったら、リリーだった」

弱々しく呟くとそっと体を起こした。

「僕の方から尋ねようと思っていたのに、カッコ悪いね。」

そう言うと、少し寂しそうに笑った。

「いいえ、私が離れてしまったから、体調を崩してしまったんですよね。ごめんなさい」

「いや、これくらいは大丈夫。泣かないで、大丈夫だから」

シルビアは指でリリーの涙を拭った。そのまま、顔を寄せると深く、キスをする。

「ん…」

されるがままに受け入れるがうまく息ができず長くは続かない。苦しそうにするリリーを見るとシルビアは嬉しそうに微笑むとベッドの中へ、リリーを引き込んだ。
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