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修行って言うか、地獄 第二十三話

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あれから孤児院に帰り、翌日から騎士団の訓練に参加させてもらう。ペーペーの新兵たちと一緒に走りこみやら体力作りなどをするそうだ。

教会から少し離れた騎士団の待機場につくと、なぜかしんと静まり返っていた。


「あの…だれか…いますか?」

そっと演習場であろうところの扉を開くと、あたり一面に男女が30人ほどただ転がっていた。その真ん中では仁王立ちをした美しい…鬼?

「あらあら、情けない。もうだめなんですか?これは鍛えがいがありますねぇ…」

こまったわぁ。と顎に軽く手を当てて鬼が考えを巡らせていた。一番近くで倒れていた男の子がリリーに手を伸ばし、「たすけて」と呟き意識を失っていった。


「リリーちゃん!かわいいからって手加減しないわよぉーがんばろーね」

鬼はこちらへ狙いを定めたのか、ニッコリ、今まで出会った人たちの中で一番綺麗な笑顔を向けてきた。

「は…はい!!よろしくお願いしまぁす!!!」










リリーは初めて、疲労からの気絶を経験した。
呪いをうつす?儀式の時とは違い、それは綺麗に、痛みもなくただ、意識がぷつりと切れた。

ゆさゆさと乱暴にゆすられている気配で目を覚ますとエルダーがいた。

「大丈夫か?テラ元団長は鬼ね。全力でやってたらいつかやられる。少しずつ力を出すといいヨ」

そう言って冷たい水を差し出してくれた。
そう言うエルダーも汗だくであった。この訓練に参加しているようだ。

周りを見渡すと倒れている人もいるが皆、真剣にテラ元団長の話しを聞き入れているようだった。

「魔物が最近増えてるカラ、みんな守りたいもののために頑張ってル。リリーはあいつらをぶちのめすためにがんばル」

「うん。でも、それだけじゃなんです。誰かを守りたいと思うんなら、努力しないと。力をつけてせめて近くにいる人だけでも守りたいんです。」

もちろんあの二人はボコボコにする。
ぎゅっと拳を握ると熱をもちはじめる。

「この呪いも使いこなして、絶対に復讐します。私は聖人でなければ良い人でもない。やられたらやり返します!!!」

ふっと、影が指したので上を見上げると鬼が満面の笑みでそこにいた。

「その勢よ!さぁ!!やりましょう!!」

ずるずると演習場の真ん中は連れていかれ、また地獄のシゴキが始まる。



シゴキが終わると、騎士達の寮にもどり、炊事洗濯を済ませる。女の子も多いが、武道に長けている代わりに料理はあまり得意ではないらしく、芋を茹でたまま。ついでに肉も茹でる。と言った、素材を感じられる食事が主だったようだ。
リリーの作る家庭的、田舎的な料理でも大変喜ばれ、男性寮の方からもヘルプが飛んでくるほどだった。

それから、寝る前に孤児院まで走り込みをし、入浴を済ませ眠る。朝は孤児院から走って演習場へ…と言う生活が半年ほど続くことになる。

いよいよ、今日は初討伐の日。
ベテランの騎士達と共に、森へ行き魔物を討伐する事になった。グループに分かれるがリリーがついていくグループはヴォルフとリリーの2人だった。

「リリーちゃんよろしくね。危ない時は助けるから、無理せずね」

「は…はい!!お願いします。」

「あの、他の人たちは5~6人グループでしたが…負担じゃないですか?いいのでしょうか?」

他の班は大体3人引率の2人新人といった組み合わせであった。見回すと何人かの女性騎士見習いから、羨望の眼差しを向けられていた。

「リリーちゃんの他の人達とは違うからね。別行動の方がやりやすいんだよ」


背の高いヴォルフは少し屈んで小さな声で、話しかける。その眼差しは鬼教官を彷彿とさせるもので、何故か背筋がゾクリとした。

「さぁて、出発してくださーい!皆さん、各々の目標達成までは帰還禁止です。頑張ってくださいね!」

合図と共にみな、恐る恐る森の中へ入っていく。
リリーも手袋を外し、4つの穴が連なった指にはめる鉄製の武器をつける。拳同士を打ち付けると、キィンと金属の音がする。

「リリーちゃん。」

鬼教官が見送りに来てくれたのかと思い、振り返ると、手のひらをこちらに向けていた。
手を振っているのかと思い、ぺこりとこうべを垂れると

「5こね。リリーちゃんは呪いとサンタの力を使って魔石を5つもってかえってきて。それまで帰還は禁止ですからね。」

この世の美しさを全て集めたかのような笑顔を向けて、恐ろしい指示を出してきた。他の人たちはそれぞれ、魔物を10体撃破だったような…

呪いの力とは純粋に破壊力
サンタの力は祝福

魔物から瘴気を吸い取り、外側の入れ物を呪いの力で破壊する事で、核となっている魔石が綺麗に残る…らしい。ただ殴ったり、切ったりしてしまうと、核まで傷つき綺麗に残るのは珍しいんだそうだ。

「みんな1週間くらいで帰ってこられるかしらねー」

げっそりしながら森の奥へと向かう…


え…それまで2人きりって事?

と密かにヴォルフを盗み見ると。

ニコッと爽やかな笑みが帰ってきた。
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