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呼んだ?呼んだよね? 第十五話

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『あの二人だ、あの二人の顔をくっ付ければいい』

想像しただけで怒りが込み上げてくる。拳がミシミシと強度を上げて行く気がする。
魔物は少し戸惑っていたが、攻撃しないリリーをみて、またこちらに向かって手を伸ばす。

「いや!戦った事ないからどうしていいかわからない!」

叫びながらとりあえず、相手の手を払いのけるとバチン!!と腕を遠ざける事ができた。

その隙にガラ空きになった顔面に拳を叩きつける…つもりだったが背が足りなくて豪快に空振りをする。

「うわっうわわわわ!!」

思い切り突き出した手を掴まれ、そのまま空中に持ち上げられる。片手に全体重がかかりかなり痛い。

「ぐぅ…!!!」

あまりの痛みに意識が遠のきそうになる。その時、ふと頭の中にシルビアの泣いている顔が浮かぶ。

「シルビア…さまぁ」





「リリー!!」



目の前の黒いモヤだったものは一瞬で白いモヤを出す氷に変わる。凍る瞬間に驚いたのか魔物はリリーから手を離したようで、ドサっと地面に尻餅をつく。


「リリー、本当に、何でいつも瞬く間にいなくなるの?!!!」

「今回は好きでいなくなったわけではないのですが」

話も終わらないうちに、ぎゅっとシルビアに抱きしめられる。突然の事で驚き、抵抗できなくなってしまう。

「シルビア様、は…離してくださいー」

やっとのことでお願いしてみるものの、抱きしめる力が弱まることはなかった。

「どうして、いつも助けて欲しい時に来てくれるんですか?」

恥ずかしさを隠して何とか疑問を投げかけてみるものの、体勢は変わらずだった。

「僕、リリーに『シルビアと詠んで』と言った事があったでしょ?その時にリリーの瞳に呪いをかけさせてもらったんだ。」

「の…呪い?!」

瞳とは…この、しょっちゅう熱をもつようになってしまった方のことだろうか?
傷んでいない方の手で目の周りを触ってみるが、特に変わらないように思える。
っというか、いつの間にか呪われていたことに衝撃を受けざるを得ない。

「触ってもわからないよ?呪いっていうか、その…リリーが言う『シルビア』は僕を呼び寄せる呪文みたいなものになってるんだよ。その名前を言った時、リリーが見ている景色に僕を転送させられるんだ!」

言ってる事がよく分からず首を傾げる。
つまり、私がどこにいても名前を呼ばれればすぐに飛んでくると言う事だろうか…

「でも、安心して、詠ばれなければリリーと繋がることはないから」

抱きしめられたまま、耳元で囁かれるとくちびるがリリーの耳に優しく触れる。
突然の甘い刺激に、ゾクっと鳥肌がたつ。

「困ったときはすぐに詠んで欲しい。いつでも、何をしてても助けに来るからね。リリーとは他でも繋がりたいけどそれは我慢するね

更に抱きしめる力が強くなる、が、その時パキパキと固い何かが割れるような音がした。
音の元に目をやると、氷漬けの魔物にヒビが入っていっているのがわかった。

「リリー、あの氷、砕いてみようか?」

シルビアは先程までのうっとりとした色気はどこかへ行ってしまい、薄ら冷気が漂う笑顔をみせる。

シルビアから解放されたリリーはその場で立ち上がり巨大な氷の塊を見上げる。
ここでこのくらい砕かなければ、スタートラインに立てない。復讐をするには、自分の力をつけなければ…
そう決意して再び拳を構える。

「いい?リリー、怒りに反応するのは確かだけど毎回毎回激怒してたら疲れてしまうでしょ?拳に熱を集めるような感覚で…力を流してみて」

そう言ってシルビアは、リリーが突き出した拳の上に手を重ねておく。手袋越しだが、ひんやりとした手の感覚がはっきりとわかる。

「うん、上手。後はよくみて、僕が足止めをして、リリーが殴れば確実に倒せるから」


後は、何も考えずに振りかぶって思い切り氷の塊に拳を叩きつけた。昨日と同じように粉々に砕け散り、残骸がジュゥジュウと黒い煙を立てながら消えて行く。
昨日気になった黒い石がまた、その場所に残っていた。

「これは魔物の核だよ、魔石と呼ばれる事があるね。」


ヒョイと石を拾ってリリーの掌に乗せて見せる。

「魔石を出せるなんてリリーはやっぱり…」

最後の呟きはリリーの耳には届かなかった。
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