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殴りに行こうか 第十四話

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「起きてください!お二方!!」

孤児院にいたころ、子供たちを起こすのに苦労した事を思い出す。鍋やらフライパンをガンガン鳴らしながら、各部屋を回って子供たちを起こしていたっけ。

ウトウトとしていたのだろうか、2人はリリーのかけ声にびっくりしたようで、あわてて立ち上がる。

「お、おはようリリー(朝の挨拶ができるなんて最高だ!)」

心の声であろう部分までしっかりと聞こえた。

「お嬢さん、朝から元気だね」

ヴォルフは、シルビアの口を押さえながら笑顔を作る。


「殴りに行きましょうか」


「「へ?」」

予想していた答えからかけ離れた言葉で、理解できなかったのか、2人はキョトンとしてその場に立ち尽くす。

「あなた達が私を利用したのなら、私もあなた達を利用します。この、呪いの力を使って、あの2人を5発ずつ殴りに行きたいです。だから、そうできるように協力してください!」

ぎゅっと拳を握り2人に見せつけるように突き出す。
そんなに力入れていないが、心なしかミシミシと骨が軋む音がする気がする。
シルビアの顔が一気に笑顔に変わる。青白い肌がピンク色に染まり、潤んだ瞳は綺麗に輝いている。
あまりの色気に、リリーとヴォルフは息を呑むことになる。

「僕の心臓で…アイツらをボコボコにするなんて…何て素敵なんだ…」

呑んだ息を返してほしい。

「想像するだけで、ゾクゾクする」


色気は更に上がり、もはや手をつけられない状態になっていた。リリーとヴォルフは向かい合い、これからの事について話し合うことにした。

「お嬢さんは、殴りに行くこと以外に希望はあるの?こちらの国で暮らしていきたいなら、殴った後に乗っ取るとかできるよ?」

「リリーと、呼んでいただいて構わないで「え?いいの?じゃあリリーちゃんって呼ぶね」

その言葉を待っていましたと言わんばかりにヴォルフが嬉しそうに名前を呼んでくる。美丈夫に名前を呼ばれるとそれだけで緊張してしまう。
ドキドキを誤魔化しながら続きの話をする。

「住む場所は、家族がいる場所がいいですが…無理ならなるべく近くにいたいです。この後、孤児院に様子を見にいきたいのですが」

まだ、あんな事があってから一晩しか経っていないが、孤児院は大丈夫だろうか、と心配はしていた。
あの、手紙は本物だったのだろうか…そこで、手紙を届けてくれた本人がいることに気がつき、慌ててそちらに振り向き、質問をする。


「シルビア様!!あの!あの手紙は本当に母からの手紙だったんですか?」

「あれは、本物だよ!安心して。彼女らも僕たちが保護しているから!!!」

保護しているから、の部分がこだまして聞こえる気がする。どうやらシルビアは説明とか前置きが苦手らしい。
見かねたヴォルフが付け加えて説明をし始める。

「えーっと、詳しく話すと長くなるから簡単に、やっぱりあのクズどもが孤児院に手を出しそうだったから、うちの国に全員連れて行ったんだ、シルビアに転送してもらったんだよ。」

その言葉を聞いたリリーは、力が抜けてヘナヘナと床に座り込んでしまう。自分のせいで住む場所を追われてしまった、家族にどう謝ったらいいのかわからず、言葉が涙に変わってボロボロと流れ落ちる。

まだ、本当か分からない。この人達が嘘をついている可能性だってある。そしたら、そしたら彼らは…
ザワッと心が揺れた気がした。

その時、リリーのすぐ後ろから、パキンっと枝を折ったような音がした。
恐る恐る振り返ると、昨日粉々にした魔物よりも更にもう一回りでかい魔物がぼーっと立っていた。

「っっ!!リリー!!」

シルビアが叫び、ヴォルフが抜刀した瞬間にでかい魔物はリリーの腹に腕を回し、口をもう片方の手で塞ぎ抱え込んだ形で恐ろしい速さで跳躍する。

空気圧で、リリーは目すら開けていられず思わず目をぎゅっととじる。すぐに、フワッとした感覚がやってきて今度は急降下する。先程の広場にはもちろん着地せず黒い森の中へと降りて行く。
途中、葉や枝に引っかかり頬や腕など肌に痛みが走る。

着地と同時に地面に引きずり倒され、身動きが取れないように押さえつけられている。
暗い森の中で更に黒いモヤに包まれたその物の姿は確認できない。
顔のそばに生温かい風を感じる、おそらく相手の顔が側に来たのだろう。

殺されると思った瞬間、カッと手が熱をもち、ドクンと脈打つ。その脈に合わせるように赤い光が手袋から漏れ出る。
上に覆い被さっていた魔物は慌てて後方に跳ねて、距離をとった。

「そうだ、怒ればいい。練習だと思って…」

魔物がジリジリと近づいてくる。フーフーと、荒い息遣いで興奮しているのがわかる。モヤが薄くなっているところをよく見れば、二足歩行だが、オオカミのような鋭い牙と大きな口を持った獣の顔が見える。
「怖くない!!」そう言い聞かせて足を肩幅に開き、両手を胸の前あたりで構える。
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