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2人の思惑と、これからの事 第十三話

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「まぁ、お嬢さんがシルビアに惹かれたって言うのがきっかけかな?助けられたあいつは、君と再び出会うため、死に物狂いで抗い続けた。あの2人にこき使われたし、呪いを吸収し続けていたからね。吸っても吸っても呪われる女だから、全然改善しなかったけどね。」


ヴォルフは、少し疲れたのか、自分のこめかみに親指を押し付け難しそうな顔をする。

シルビアに先に惹かれたのは、確かにリリーだった。ボロボロで傷だらけで喋りもしないし、泣きもしない。そんな見るからに訳アリな少年にまた会いたいと、何故か思った。強烈に惹きつけられる何かがあったとしか思えない。

魔物よけに焚いている火が、ゆらりと揺れた。
炎の先がこちらに近づくと暖かさと少しの煙さに包まれる。

シルビアの13歳からの5年間のことを思い、リリーはテントの方に視線を向ける。王宮に監禁されてる間、ずっとそばにいてくれたのは、私を守るためだったのか…それとも…
眉間に皺を寄せて黙ってしまったリリーに、ヴォルフはコップを差し出す。今度は受け取り、中に入っていた液体に口をつける。透明な水のようだが、少し甘みがありとても美味しい。空っぽの胃にジワジワと沁みていくのがわかった。
ホッと一息ついたリリーを見て、ヴォルフも安心したのか、先程よりは穏やかな声で話を再び始める。


「シルビアに君が興味を持った理由で、予想できるものが一つある。君が聖ジェントクランの人間でだった場合、サンタにはイーターに運命の番がいると言われているんだ。何にも変え難い、たった一人の番が」

聞いたことの無い言葉に首を傾げるリリー。
パチパチと薪が弾ける音がやけに大きく聞こえる。

「それは何か特別な人なのですか?」

「あぁ、イーターが呪いを喰らうのとは反対に、サンタは祝福を配る。聖ジェントクランの初代聖女様のいた世界には人にプレゼントを無償で配りまくるおじさんが居たらしくて、その人から名前をもらったらしい。聖女様が使われた魔法の一つで、みんながほんの少し持ってる力なんだけど、特に強い祝福を与えられる人たちをサンタと呼ぶんだ。」

「サンタは特別な魔法を使えるわけじゃ無いんだ、言葉や、仕草、他人を想うことで心を救ってくれるんだ。」

ヴォルフじゃ無い声が聞こえたので、ヴォルフとリリーは同時にテントの方を見る。回復したらしいシルビアが、テントからのっそりと現れる。まだ若干顔は赤いが足取りはしっかりとしている。

「祝福の力が強いサンタなら、5悪化せず、自力で動いていることだってできるだろうね。」

「まぁ、その話は後でいいか、とにかく…」


シルビアがリリーの横に到着すると反対隣に座っていたヴォルフも立ち上がり、リリーを2人で見下ろす形になる。

「僕があの女の呪いを完全に吸い取れなかったせいで、クレイは、5年前に僕の呪いを受け止めたリリーに狙いを定めたんだ。僕になりすまして君と接触して、魅了の魔法で君の心を取り込んだ。そしてあの、大量の呪いを君の体に無理やり封じ込めた。僕はあの女から解放される為に君を…利用したんだ。ごめんなさい。」

「俺は、シルビアを取り戻す為にこの国にきた。もちろん身分は偽わって。君を利用してるあいつらを黙って見てた。呪いが君に全て移った時点で、2人で君を助け出し、国へ連れて逃げようと計画してた。まさかあそこまでクズだと思っていなかったすまなかった。」

2人は心臓に手を当てそのまま頭を下げる。

「聖ジェントクランの次期枢機卿として、善良な一乙女に深い傷を与えた事、心よりお詫びする。これはあちらに戻ったらまた、正式に宣言させてもらう。」

2人の言葉に何も言い返せず、ただその場に座り尽くすしか無かった。月もだいぶ傾き、星の光がより一層強くなった気がする。

「一晩考えさせてください」

やっと口から出た言葉はそれだった。
テントを使っていいと言われたので遠慮なく使わせてもらうことにしたリリーは、簡単に敷いてあったブランケットの上に体を横たえる。

色々考えているうちに、意識は途切れ、気がつくとあたりはうっすら明るくなっていた。

こっそりとテントの外に顔だけ出してみると、まだ焚き火は消えておらず、しっかりと燃えていた。2人は眠っているのだろうか、隣り合って座りこちらに背を向けていた。

テントに戻り、手を握ったり開いたりしてみた。
違和感はないが、やはり時々ドクンと脈打つ気がする。

怒りに反応する呪い。目の前で見たあの力。あの力があれば…

グッと拳に力を入れて思い切って外へと飛び出す。
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