11 / 52
やっぱり鉄の乙女らしい 第十一話
しおりを挟む
「殺…さ…ない」
シルビアの瞳から、堪えきれなかった涙が一筋流れ落ちる。口調は柔らかいが、シルビアの見た目はちょっと暗めのお兄さん、という感じだ。
背は高いがあまり筋肉は無さそうだ。シルビアの涙を拭こうと隣へ移動して行った黒い騎士と並ぶとマッチョとヒョロと表現しても間違いではないくらいかもしれない。
「やっと会えたんだ、もう僕のそばから離れないでほしい…リリーが離れたら僕は死ぬ」
脅しなのか?
「あんな…ことしといて、私がシルビア様が死ぬことを気にすると思ってるんですか?」
昨日までだったら、口が裂けても言わなかった様な言葉を口にした事で少し胸が痛んだ。要は、勝手に死ねばと言ったつもりだった。
「まぁ、そうだよね。俺もパッと見、ヤバいなって思ったもん。お嬢さんに水かけてたし、おまえ。あ、俺はあヴォルフって言うから、そう呼んでね」
黒い騎士の人が頭をガシガシと掻きながら、こちらを向いてニコッと笑う。
ヤバいで済む状況じゃないと思うんだけど。
「水じゃない。お湯だもん」
シルビアの目からぶわぁーと、涙が溢れ出てきた。
「リリーの手を冷やしてあげたいからって言われて水にたくさん氷をいれたら、顔からかけるし。リリーはあんな石畳の上にいるから寒いと思ってお湯をかけたんだ」
こんな人だったっけ?この人?と先ほどまでの頂点に達していた怒りが冷めていく。
そういえば、桶に氷を出した後、ちゃんと手でかき回して温度をたしかめていたし、その後にかけられた水はなんか暖かかった気がしないでもない。
「お嬢さんが、こいつから離れたら死ぬってのは、精神的もそうかもしれないけど、物理的にってことなんだ」
低く、よく響くテノールが耳のそばで聞こえ驚いて顔を向ける。鼻先がくっつくほど近くにヴォルフの顔があった。
「ち…ちか」
よく見ると、彼の黒い瞳の中に赤い小さな光がチラチラと輝いているのが見える。
「こいつは、カースイーターなんだよ。」
「なっ…え?」
ゾワッと手に違和感を感じて視線を移すと、リリーの手にヴォルフの大きな手が絡み付いている。そのまま大切そうに優しく撫でているようだ。
大きく逞しい手に弄ばれて何だか少しくすぐったく感じる。
「これはあいつの心臓なんだ。ドクドクと脈うつだろ?」
心臓…!!!心臓で…殴ってしまった!!
もっと気にすることがあるとは思うが、まず思い浮かんだのはそれだった。
「ヴォルフ!!リリーに近すぎる!!」
「わかった、離れるから怒らないで」
パッと手を離すとお手上げ状態でリリーから距離を取る。代わりにシルビアがリリーの手を握り愛おしいと言わんばかりに撫で回す。
「僕のせいで…辛い思いをさせてしまった。ごめん、なんて軽い言葉では済まされない」
握った手を、涙と鼻水まみれの顔に近づけてごめんなさい、とひたすら呟く。
リリーはどうしていいか分からず、小さくなったシルビアの背中を見て何故か慰めたくなってしまった。
孤児院の子供達のことを思う時のような、もっと何か違うような。
もっと昔に、こんな事があったような。
「シルビア様だった?」
ごめんなさいを呟くだけの者になっていたシルビアがバッと顔を上げた。長い前髪を左右に手でかき分けると、整った顔が現れる。大きく見開いた目には困惑したリリーの姿がくっきり映っている。
「思い出したの?あれじゃないって、気がついてくれた?」
あれ、とはクレイのことだろうか。
「初めから何かが違うとは思っていたんですけど。でも、あんなに詳しいし、私も幼かったから記憶違いをしているのかと思いまして。まぁ、その後調子のいいこと言われていい気になってたのは、私なんですけどね」
「あぁ…気がついてくれた!やっとわかってもらえた」
泣いたり笑ったり忙しい人だな、と思いながら手の鎖の音で我に帰る。
「わた!私許してないですから!怒ってますから!」
「リリーは怒ってないよ」
「え?勝手に感情決めないでくださいよ!怒ってるんです」
「怒ってないよ、熱くないもん」
グイグイと顔をリリーにに寄せてくるシルビアに困惑を隠せないリリーはつい、パチンと平手打ちをかます。
「あっ!ごめんな…さい!」
「いや、嬉しい」
「ひぇ」
「リリーはそんな顔もできるんだね。素敵だ」
叩かれた右頬を愛おしそうになぞり、光悦とした表情を向けてくる。そしてまた距離を詰め始める。
「ヴ…ヴォルフさぁん!!とめてくださああああああい!!!!!」
「はいよぉ!」
バリッと剥がされたシルビアはハムスターの様に縮こまってしまった。そのまま、テントのそばにポイと捨てられる。
「まずは説明からでしょ?ほら、お嬢さん手を、鎖を外そうね」
地味に重かった鎖が外れ、解放された腕を軽くさすっていると、「僕がさすろうか?」と提案されたが丁重にお断りした。
「まず一つ目に、その手は今、この世で一番硬い、んー…金属のようなものだと思ってもらっていいよ。だから、殴ったりとか、踏んだりとかしてもそう簡単に傷はつかないと思うよ」
あぁ、私金属になったんだ、呪われて、金属に。
何故か隙間なく私の隣にシルビアが、跪くように私の前にヴォルフが位置取りヴォルフが説明を始める。
「俺たちは、この国の人間じゃないんだ。隣のジェントクランの人間なんだ」
「聖ジェントクラン…国?」
「そう!そんで俺は聖国教会の枢機卿の息子ヴォルフ・ジェントクラン。そしてそっちは、シルビア・カースイーター。」
たった一言に情報が多すぎて、開いた方が塞がらないリリーの小さな口に、ポイっと乾燥レーズンを放り込みながらシルビアが口を開く。
「5年前のあの日、リリーは僕の運命の解呪物として目覚めてしまったんだよ。」
シルビアの瞳から、堪えきれなかった涙が一筋流れ落ちる。口調は柔らかいが、シルビアの見た目はちょっと暗めのお兄さん、という感じだ。
背は高いがあまり筋肉は無さそうだ。シルビアの涙を拭こうと隣へ移動して行った黒い騎士と並ぶとマッチョとヒョロと表現しても間違いではないくらいかもしれない。
「やっと会えたんだ、もう僕のそばから離れないでほしい…リリーが離れたら僕は死ぬ」
脅しなのか?
「あんな…ことしといて、私がシルビア様が死ぬことを気にすると思ってるんですか?」
昨日までだったら、口が裂けても言わなかった様な言葉を口にした事で少し胸が痛んだ。要は、勝手に死ねばと言ったつもりだった。
「まぁ、そうだよね。俺もパッと見、ヤバいなって思ったもん。お嬢さんに水かけてたし、おまえ。あ、俺はあヴォルフって言うから、そう呼んでね」
黒い騎士の人が頭をガシガシと掻きながら、こちらを向いてニコッと笑う。
ヤバいで済む状況じゃないと思うんだけど。
「水じゃない。お湯だもん」
シルビアの目からぶわぁーと、涙が溢れ出てきた。
「リリーの手を冷やしてあげたいからって言われて水にたくさん氷をいれたら、顔からかけるし。リリーはあんな石畳の上にいるから寒いと思ってお湯をかけたんだ」
こんな人だったっけ?この人?と先ほどまでの頂点に達していた怒りが冷めていく。
そういえば、桶に氷を出した後、ちゃんと手でかき回して温度をたしかめていたし、その後にかけられた水はなんか暖かかった気がしないでもない。
「お嬢さんが、こいつから離れたら死ぬってのは、精神的もそうかもしれないけど、物理的にってことなんだ」
低く、よく響くテノールが耳のそばで聞こえ驚いて顔を向ける。鼻先がくっつくほど近くにヴォルフの顔があった。
「ち…ちか」
よく見ると、彼の黒い瞳の中に赤い小さな光がチラチラと輝いているのが見える。
「こいつは、カースイーターなんだよ。」
「なっ…え?」
ゾワッと手に違和感を感じて視線を移すと、リリーの手にヴォルフの大きな手が絡み付いている。そのまま大切そうに優しく撫でているようだ。
大きく逞しい手に弄ばれて何だか少しくすぐったく感じる。
「これはあいつの心臓なんだ。ドクドクと脈うつだろ?」
心臓…!!!心臓で…殴ってしまった!!
もっと気にすることがあるとは思うが、まず思い浮かんだのはそれだった。
「ヴォルフ!!リリーに近すぎる!!」
「わかった、離れるから怒らないで」
パッと手を離すとお手上げ状態でリリーから距離を取る。代わりにシルビアがリリーの手を握り愛おしいと言わんばかりに撫で回す。
「僕のせいで…辛い思いをさせてしまった。ごめん、なんて軽い言葉では済まされない」
握った手を、涙と鼻水まみれの顔に近づけてごめんなさい、とひたすら呟く。
リリーはどうしていいか分からず、小さくなったシルビアの背中を見て何故か慰めたくなってしまった。
孤児院の子供達のことを思う時のような、もっと何か違うような。
もっと昔に、こんな事があったような。
「シルビア様だった?」
ごめんなさいを呟くだけの者になっていたシルビアがバッと顔を上げた。長い前髪を左右に手でかき分けると、整った顔が現れる。大きく見開いた目には困惑したリリーの姿がくっきり映っている。
「思い出したの?あれじゃないって、気がついてくれた?」
あれ、とはクレイのことだろうか。
「初めから何かが違うとは思っていたんですけど。でも、あんなに詳しいし、私も幼かったから記憶違いをしているのかと思いまして。まぁ、その後調子のいいこと言われていい気になってたのは、私なんですけどね」
「あぁ…気がついてくれた!やっとわかってもらえた」
泣いたり笑ったり忙しい人だな、と思いながら手の鎖の音で我に帰る。
「わた!私許してないですから!怒ってますから!」
「リリーは怒ってないよ」
「え?勝手に感情決めないでくださいよ!怒ってるんです」
「怒ってないよ、熱くないもん」
グイグイと顔をリリーにに寄せてくるシルビアに困惑を隠せないリリーはつい、パチンと平手打ちをかます。
「あっ!ごめんな…さい!」
「いや、嬉しい」
「ひぇ」
「リリーはそんな顔もできるんだね。素敵だ」
叩かれた右頬を愛おしそうになぞり、光悦とした表情を向けてくる。そしてまた距離を詰め始める。
「ヴ…ヴォルフさぁん!!とめてくださああああああい!!!!!」
「はいよぉ!」
バリッと剥がされたシルビアはハムスターの様に縮こまってしまった。そのまま、テントのそばにポイと捨てられる。
「まずは説明からでしょ?ほら、お嬢さん手を、鎖を外そうね」
地味に重かった鎖が外れ、解放された腕を軽くさすっていると、「僕がさすろうか?」と提案されたが丁重にお断りした。
「まず一つ目に、その手は今、この世で一番硬い、んー…金属のようなものだと思ってもらっていいよ。だから、殴ったりとか、踏んだりとかしてもそう簡単に傷はつかないと思うよ」
あぁ、私金属になったんだ、呪われて、金属に。
何故か隙間なく私の隣にシルビアが、跪くように私の前にヴォルフが位置取りヴォルフが説明を始める。
「俺たちは、この国の人間じゃないんだ。隣のジェントクランの人間なんだ」
「聖ジェントクラン…国?」
「そう!そんで俺は聖国教会の枢機卿の息子ヴォルフ・ジェントクラン。そしてそっちは、シルビア・カースイーター。」
たった一言に情報が多すぎて、開いた方が塞がらないリリーの小さな口に、ポイっと乾燥レーズンを放り込みながらシルビアが口を開く。
「5年前のあの日、リリーは僕の運命の解呪物として目覚めてしまったんだよ。」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる