上 下
9 / 52

黒い森への逃亡 第九話

しおりを挟む
ガタガタと揺れる床を眺めたまま、リリーは今までのことを思い出していた。


確かに、愛してるなんて言われたことはない。それに、名前すら呼ばれたことも無かった。

楽しかった日々を思い出すたびにヅキンと胸が痛む。

自分で、アクアを妹だと決めつけて、聞きもしなかったし、クレイに婚約者がいるかどうかも聞かなかった。

決めつけと勘違いで、自分の思う通りの世界を作って勝手に助けた気になっていた。

「ダンスを教えてなんて、マナーを教えてなんて恥ずかしすぎる。」

よくぞ、シルビアはそんな私についていられたものだと感心した。まぁ、騙すつもりだったんだからそれも当たり前かとひとりごちた。
ふと、黄昏色の瞳を思い出しまた、胸が痛くなる。

自分の赤くひび割れた両手を眺める。

孤児院はどうなったのか、ふと気になる。あの手紙は偽物だったんじゃないか。
私が帰ってこないことを心配してないか…
孤児院は王都からでたすぐの、森の近くにある。追放されたらそこを目指そう。

呪いがうつるといけないから、森の近くのどこかで生活して行かなくてはいけない。どうやって暮らそうか。

とにかく思いつくことを考えることで、クレイの事を考えないようにした。

ふと、馬車が停まり、しばらくすると鍵を開ける音がした。先程の黒い鎧の騎士が顔を見せる。

「お嬢さん、おりられる?」

手荒く扱われるんだろうと思っていたため、身体をこわばらせていたリリーが話しかけられると同時にビクッと怯えたように肩を揺らす。
差し出された手を掴むのも嫌で、そのまま、1人で降りる。


「隊長!!そんな犯罪者さっさと捨てていきましょう。呪われた女に呪われた魔導士、俺たちまで呪われますよ」

リリーが二台から降りて騎士の方に目をやると、そんな言葉が聞こえてきた。ビクビクしてるのは銀の騎士も一緒らしい。呪われた女は自分の事だとわかるが、呪われた魔導士とはどう言う事だろう。
もう、どうでも良くなり目の前に広がる黒い森に目をやる。走っていけば、声を奪われる前に逃げられるかも。一寸いけば、暗く、陰鬱とした森だ、うまくいけば逃げられるかもしれない。

黒い騎士と、シルビア、銀の騎士が話しているのを見てジリジリと森の方へ近づいて行く。

「そうだな、では、俺たちはもう一つの刑を執行してからお前を追う。先に馬車で帰還していてくれるか?」

「呪われた魔導士と隊長を2人っきりになんてさせられませんよ!呪われた女までいるんですよ?!」

「いいから、命令だこれ持ってけ。」

「これ?!隊長勲章じゃないっすか!」


「殿下に俺からの指示だと、それを見せて伝えればいいから。早くいけ。」

「わかりました。後で返します」

そう言って銀の騎士は手綱をにぎり、出発をする。
ガラガラと音を立てたのを見計らって一気に森の中へ駆けていく。

振り返ると気付かれそうで、しばらく振り返らず、体力の続く限りひたすらに走り続けた。




10分ほど走っていると、少しひらけた川についた。ここだけ日の光が差し込み少し暖かい。
氷水をぶつけられ、水をかけられ、口からは血が垂れていたリリーは川に手を入れ水をすくうと顔を洗う。

滴る川の水に紛れて、涙が溢れ出てくる。


水面に映った自分の顔は、慣れ親しんだ色がほとんど変わり、いっそ、新しい自分を見ているようだった。
赤色がかった金髪に、茶色と紫のオッドアイ。白くなった肌に赤くひび割れた手。

なんだか魔物になった気持ちになる。

感情に浸っていると、すぐ後ろの茂みでガサッと音がした。慌てて振り返ると小型…リスやネズミほどの魔物が岩の上に乗っていた。
完全に目は合っている気がする。今にも飛びかかってきそうなそれは、前足であろうあたりに力を入れた。
逃げようと腰を上げようとするが、小石に足を取られ、尻餅をつく。
魔物は今だと、言わんばかりのタイミングで飛び上がりこちらに向かってくる。

「嫌!!」

慌てて顔の前に手を出して衝突を防ごうとする。

その瞬間、怒りが湧き上がる。

何で!!いくら私に悪いところがあったってこんなに、こんなに酷い目にばかり会わなくたっていいじゃない!



そう思った途端、呪われた手がカッと熱を持った気がした。


ガキィン!!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...