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小さな疑問 第二話
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「リリー!お前の幸せのために城へ行きなさいな!」
孤児院の調理室では年長者たち2人とリリー、料理長で晩御飯と朝食の準備を進めていた。
「ねぇ、お姉ちゃんその人王子様だったの?」
「迎えに来てくれたなんて素敵!絵本みたい」
2人は絵本の中の物語と重ねて羨ましがった。
「この国の王子様のお姿は話にしか聞いた事はないけど、多分王子様かな?でも、私はこの家にいたいと思っているの」
リリーは自分が普通である事を知っていた。王宮なんて場所に行ったって、誰も歓迎してくれないだろうことも。この光を映さない透き通るような紫の瞳がなぜか好きだったし、家族に愛されて過ごす自分が好きだった。それに…
「なになに?何の話?」
茶色い髪に黒い瞳の少し垂れた目、ちょっと大きな口はイタズラそうに笑っている。去年15歳になった彼、アイクは勝手口から小麦粉を持って慣れたようにはいってくる。
「あ!アイクだ!今日はお土産ないのー?」
「おい!ちゃんと手伝いしないとあげないぞ!2人とも。それにリリー、一人で畑まで行ったのか?俺に言えよ!魔物が出たらどうするんだよ」
アイクは街にある商店の嫡男で、この孤児院にとても良くしてくれる。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ何故か私には魔物が近寄ってこないんだもの。」
この国には隣の国との境に深い森がある。木々は生い茂り、地面は年中湿っているし昼間でも暗く風もあまり吹かない。反対側は海でこの国、モアラート王国は外界から孤立した国である。
魔物とは、その森や海にでる黒いモヤモヤとしたもののことである。人を襲い、肉や血を食糧としているようだ。しかし、姿を見たものはいない、確かに魔物はそこにいるし、森なら四足歩行の獣のような姿をしている気がするのだ。海ならヒレがあり、鋭い牙がたくさん生え大きな口をしているような気がするのだ。
「リリー、あの時のあの子が来たんだって?あんなに気にしていた子どもに会えたんだ、何で悩むの?」
「あ…その…わからないの。急にどうでも良くなったというか…」
「ふーん…俺だったらお姫様が迎えに来たら喜んでついて行くけどな!」
「ふーん。不純ね」
「お前だって貧乏よりお金がある方がいいだろ?働かなくていいし、幸せじゃないか!」
「私は…働いたっていい。愛されていたい。」
お互い15歳になった2人は多少はお互いを意識しているはずだが、生まれた頃からの付き合いなこともありアイクの方が少し意地っ張りになっていた。
「リリー、私たちの反対まで押し切って目をあげたのに、もういいなんて何だか切ないわねぇ。」
料理長の母親は娘を愛していた。だからこそ、片方の目が見えなくなってしまった事をとても気にしていたし、リリーには幸せでいてほしいと心から思っていた。
「…本当に過去に戻ったら何故あんな事をしたのか私に聞きたいわ。王子様は声も戻っていたし、多分目も両方ちゃんと見えてた。私がした事は無駄だったのよ」
ちょっと口を尖らせて木の丸椅子から立ち上がり、皮みむいて切ったばかりのじゃがいもを茹でる。
「じゃあ、お前のその目も治るんじゃないか?」
アイクがつぶやいた言葉に、その場にいた全員がハッとする。
「お姉ちゃん!王宮にいきなよ!」
「リリー!王宮にいきなさい!」
「もう!いいからご飯!作りましょうアイクも泊まっていくわよね?こんな時間だもの。今日はシチューよ!」
「白いやつ?やった!親父に今日は帰らないって伝える!」
この国では13歳くらいになると魔法が使えるようになる。それは、生まれながらにして与えられた才能なのだ。
リリーは瞳の光を失ったからなのか、生まれながらにしてなかったのか…魔法を使う力がなかった。
アイクは風の魔法の力があるため、伝言を小さな竜巻に乗せて家に送る。
リリーは、聖人ではない。母や父、アイクが魔法を使うのをみて何故自分だけ。と羨ましく思うのだった。
『目が治れば私も魔法が使えるのかしら?』
心に小さな疑問と希望が浮かんだのはその時だった。
食事も済み、小さな子どもたちを寝かしつけ自分の部屋に戻ると、先ほど浮かんだ疑問がリリーの心の中いっぱいに広がった。
『魔法が使えれば、お父様とお母様の役に立てる。私だって幸せになれる?』
色の変わった瞳が熱くなったような気がして鏡を覗き込むと、背後に人影があることに気がつく。
慌てて振り返ろうとすると、そのまま抱きしめられてしまった。
「僕の聖女、驚かせてごめん。会いたくて会いに来てしまった。」
「あ…あの…王太…子…様?何故こんなところに」
「そんなふうに呼ばないで レイ と」
首元の顔を埋めて、切なそうにクレイは囁く。
唇が触れた首筋からひんやりとした感触と温かな吐息の温度を感じてゾクりとする。
「レイ…様?何故こんなところに!」
「もちろんシルもいるよ!だから大丈夫」
パッと顔を上げて輝くような笑顔を向けてくるクレイに、リリーはポッと顔を赤る。
部屋の窓際にはシルと呼ばれた魔導士が立っていた。
「君と今までの話をしたいんだ。君が繋いでくれた僕の光の話を。あとやっと見つけた君を逃したくなくてね。」
クレイは金色の瞳を器用にパチンとウインクして見せた。そうして、星が強く輝く夜遅くまで2人は話をした。
孤児院の調理室では年長者たち2人とリリー、料理長で晩御飯と朝食の準備を進めていた。
「ねぇ、お姉ちゃんその人王子様だったの?」
「迎えに来てくれたなんて素敵!絵本みたい」
2人は絵本の中の物語と重ねて羨ましがった。
「この国の王子様のお姿は話にしか聞いた事はないけど、多分王子様かな?でも、私はこの家にいたいと思っているの」
リリーは自分が普通である事を知っていた。王宮なんて場所に行ったって、誰も歓迎してくれないだろうことも。この光を映さない透き通るような紫の瞳がなぜか好きだったし、家族に愛されて過ごす自分が好きだった。それに…
「なになに?何の話?」
茶色い髪に黒い瞳の少し垂れた目、ちょっと大きな口はイタズラそうに笑っている。去年15歳になった彼、アイクは勝手口から小麦粉を持って慣れたようにはいってくる。
「あ!アイクだ!今日はお土産ないのー?」
「おい!ちゃんと手伝いしないとあげないぞ!2人とも。それにリリー、一人で畑まで行ったのか?俺に言えよ!魔物が出たらどうするんだよ」
アイクは街にある商店の嫡男で、この孤児院にとても良くしてくれる。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ何故か私には魔物が近寄ってこないんだもの。」
この国には隣の国との境に深い森がある。木々は生い茂り、地面は年中湿っているし昼間でも暗く風もあまり吹かない。反対側は海でこの国、モアラート王国は外界から孤立した国である。
魔物とは、その森や海にでる黒いモヤモヤとしたもののことである。人を襲い、肉や血を食糧としているようだ。しかし、姿を見たものはいない、確かに魔物はそこにいるし、森なら四足歩行の獣のような姿をしている気がするのだ。海ならヒレがあり、鋭い牙がたくさん生え大きな口をしているような気がするのだ。
「リリー、あの時のあの子が来たんだって?あんなに気にしていた子どもに会えたんだ、何で悩むの?」
「あ…その…わからないの。急にどうでも良くなったというか…」
「ふーん…俺だったらお姫様が迎えに来たら喜んでついて行くけどな!」
「ふーん。不純ね」
「お前だって貧乏よりお金がある方がいいだろ?働かなくていいし、幸せじゃないか!」
「私は…働いたっていい。愛されていたい。」
お互い15歳になった2人は多少はお互いを意識しているはずだが、生まれた頃からの付き合いなこともありアイクの方が少し意地っ張りになっていた。
「リリー、私たちの反対まで押し切って目をあげたのに、もういいなんて何だか切ないわねぇ。」
料理長の母親は娘を愛していた。だからこそ、片方の目が見えなくなってしまった事をとても気にしていたし、リリーには幸せでいてほしいと心から思っていた。
「…本当に過去に戻ったら何故あんな事をしたのか私に聞きたいわ。王子様は声も戻っていたし、多分目も両方ちゃんと見えてた。私がした事は無駄だったのよ」
ちょっと口を尖らせて木の丸椅子から立ち上がり、皮みむいて切ったばかりのじゃがいもを茹でる。
「じゃあ、お前のその目も治るんじゃないか?」
アイクがつぶやいた言葉に、その場にいた全員がハッとする。
「お姉ちゃん!王宮にいきなよ!」
「リリー!王宮にいきなさい!」
「もう!いいからご飯!作りましょうアイクも泊まっていくわよね?こんな時間だもの。今日はシチューよ!」
「白いやつ?やった!親父に今日は帰らないって伝える!」
この国では13歳くらいになると魔法が使えるようになる。それは、生まれながらにして与えられた才能なのだ。
リリーは瞳の光を失ったからなのか、生まれながらにしてなかったのか…魔法を使う力がなかった。
アイクは風の魔法の力があるため、伝言を小さな竜巻に乗せて家に送る。
リリーは、聖人ではない。母や父、アイクが魔法を使うのをみて何故自分だけ。と羨ましく思うのだった。
『目が治れば私も魔法が使えるのかしら?』
心に小さな疑問と希望が浮かんだのはその時だった。
食事も済み、小さな子どもたちを寝かしつけ自分の部屋に戻ると、先ほど浮かんだ疑問がリリーの心の中いっぱいに広がった。
『魔法が使えれば、お父様とお母様の役に立てる。私だって幸せになれる?』
色の変わった瞳が熱くなったような気がして鏡を覗き込むと、背後に人影があることに気がつく。
慌てて振り返ろうとすると、そのまま抱きしめられてしまった。
「僕の聖女、驚かせてごめん。会いたくて会いに来てしまった。」
「あ…あの…王太…子…様?何故こんなところに」
「そんなふうに呼ばないで レイ と」
首元の顔を埋めて、切なそうにクレイは囁く。
唇が触れた首筋からひんやりとした感触と温かな吐息の温度を感じてゾクりとする。
「レイ…様?何故こんなところに!」
「もちろんシルもいるよ!だから大丈夫」
パッと顔を上げて輝くような笑顔を向けてくるクレイに、リリーはポッと顔を赤る。
部屋の窓際にはシルと呼ばれた魔導士が立っていた。
「君と今までの話をしたいんだ。君が繋いでくれた僕の光の話を。あとやっと見つけた君を逃したくなくてね。」
クレイは金色の瞳を器用にパチンとウインクして見せた。そうして、星が強く輝く夜遅くまで2人は話をした。
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