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人生で一番『最悪』の日 第一話

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「あなたは、声も、光も、仲間も失ってしまったのでしょ?私には家族も光も、声もあるから、私の片方の光をあげるね。その代わり、また私に会いにきて欲しいの。あなたの目がとても綺麗だから…」

薄汚れて傷だらけだった少年は、その日少女に光をもらった。

「わがまま言ってごめんなさい。でもまたあなたにあいたいの。」

少女も、初めて出会ったはずの少年がどうしても気になってどうしてもまた会いたいと思った。

少年は震える手で彼女の茶色い瞳を、手で覆い隠す。
手を離した時には白に近い、紫色の瞳になっていた。








あれから、5年。
少年と少女は成長し、再開することになる。








「君だったんだリリー。ずっと探していた聖女」


聖女と呼ばれた少女は、泥まみれの麻の靴に生地の薄いワンピース、埃まみれのエプロンをして手にはジャガイモでいっぱいのカゴを抱えて立ち止まった。

「幼い頃、僕に光を与えてくれた少女を探していたんだ。この紫の瞳を忘れた事はないよ。」

そう言ってカゴを持っていた少女の小さな手に、スベスベの真っ白な手袋をした手を重ねたのは、モアラート国の王太子、クレイ・モアラートだ。

銀色の絹のような髪を真ん中で分け、少しだけ目にかかった前髪。襟足も綺麗に整えられている。
瞳は輝くような金。平民の、さらに孤児院で暮らすリリーは見たことがない色だった。

「わたしは…あなた様みたいな美しい方にお会いした事はありません」

汚れた自分と輝く少年の差に戸惑いつつリリーは正直に答える。

「僕は、幼い頃は髪も薄汚れて濃いグレーだった。瞳は…そうだな、オレンジに近かったかもしれない。覚えていないかな?」

そう言われて、頭の中にボロボロだった少年が現れた。
5年前、孤児院の庭に倒れていた少年は、魔物にやられたのか光を失っていた。
怪我が治るまで部屋で匿い、片方の瞳の機能を交換した。あの少年だったのか…
自分の光を与えてでもまた会いたいと思った、あの…

「あ…あの…約束を覚えて?」

「必ず会いにくると、そう約束したから」

「声ももどったんですね。」

「あぁ、王宮で魔法使いに戻してもらったんだ。」

「そう…ですか、よかった。」


そうして、しばらく見つめあっているとクレイは恥ずかしそうにはにかみ、片手を差し出してくる。

「僕の聖女、王宮に来て僕と共にすごさないか?」

少しずつ傾きかけていたお日様が夕日に変わり、王太子の銀の髪と金の瞳をオレンジに染める。

「私は…孤児院に家族がたくさんいます、家族は私がいないとダメなんです」

孤児院ではリリーは母親代わりだった。
人数は少ないものの、まだ3歳の子から10歳の子達まで15人の子供たちが過ごしている。
院長の父と料理長の母と共に子供達を育てていた。

「君がいない分の支援はさせてもらうよ、週に何日かは孤児院に通ったっていい、だからどうか。」

「一度…家族と話を…させてください。」

突然のことでリリーは受けていいのか決めきれずにいた。じっと見つめてくるクレイにたまらなくなり視線を横へそらすと、少し離れた場所にいた黒髪の青年と目が合った。
青年は暗闇のような黒い髪を長く伸ばし顔もほぼ覆われ、鼻と口しか見えなかった。
黒いローブの首周りには銀獅子の刺繍がしてある。


「護衛のシルだよ、今日は、帰ろうか。またくるよ」

「あの。ここにはもう来ない方がいいのではないでしょうか?護衛の方も、あまり良い顔をしていなさそうですよ?」

「来るよ、僕の聖女は君なんだから」

そういって、クレイは魔法使いに捕まるとフッと消えてしまった。
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