ココロウラハラ

空橋彩

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男は過去に生きる。

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そのまま、情事になだれ込もうとする昴を何とか抑えて出勤を果たす。今日のファッションは、『急に雨に降られちゃって…泊めてくれる?時用』だそうだ。

職場に着くと彩子がコーヒーを持ってやってくる。

「おはよう、柘植さん昨日はあの後話できたかな?お邪魔かと思って退散したんだけど。はい、これあげるー。」

ドーベルマンと意気投合したわけじゃなく、気を遣ってくれたのか…と気がつく。

「あっありがとうございます。出来ました、話。その…」

かぁっと顔が赤くなるのが自分でもわかった。

「いい顔するなぁ~!大空さん、素敵な人だったもんね!あのドーベルマンくんも大空さんのこと褒めてたよぉ」

「あの人とはどうですか?」

「ん?今度デェトするのだよ!応援してくれたマエ!」

ふん!腰に手を当ててとふんぞり返ってみせる。
どうやらドンピシャバッチリだったのは本当らしい。

席につきながらコソコソと話をする。こんなに楽しい人ならもっと早く話してればよかったなぁー…と思っていると、隣の席の若い男の子から話しかけられる。

「柘植さん、昨日、大丈夫でしたか?今度アイツ来たら、俺らで追い返すんで、心配しないでくださいね」

そっと机にキャラメルを置いてくれる。
夜鷹にばかり目をやっていて、こんなに近くに自分を大切にしようとしてくれる人達がいることに気がついていなかった…なんてもったいなかったんだろう。
それから、いつにも増して楽しく仕事ができた。
初めて、何人かでのランチにも行った。
いつもは夜鷹とこっそり会議室で食べてたが、オシャレなカフェで同僚たちと喋りながら食べると疲れが飛んでいくようだった。

昼休みから帰ってくると、行きはいなかったが、桜子が受付に戻ってきていた。

ジロリとこちらを見やるが、一緒にいた同僚の男の子がそちらをみるとパッと顔色を変える。

「おつかれさまですぅ」

と愛想を振り撒き、手を振っていた。彩子が私を隠すように一歩前に出てくれ、直接何かを言われることは無かった。

「柘植さーん!ちょっといい?」

デスクに戻ると課長が秘書課の係長と一緒に待ち構えていた。嫌な予感がして彩子の方を見ると、コクリと頷いてくれた。

「秘書課の堤です。昨日のことで桜子さんから相談があって、事情を聞きに来たの。会議室へ、いいかしら?」

「はい。」

3人で会議室へいき、昨日のあったことや夜鷹とのことまで話すことになる。
2年近く付き合ってたことはチャットやメール、写真で証明できたし、昨日のことも防犯カメラに写っているだろうからまた確認してくれるらしい。

「はぁ。つまり、桜子さんから聞いてた立場は全部逆って事ですね。ごめんなさいね。私はあなたがちょっかいかけてきてて、やめて欲しいって言いに行ったら暴行されたって聞いてて…」

「いえ、いいんです。話を聞きにきてくださってありがとうございます。」

「言いにくいんだけど…秘書課や人事部の階では…その…桜子さんの話しを信じてる人が多いのよ。もし、噂をしてる人がいたら、なるべく私の方で訂正させてもらうけど…何かされたりしたらまた言ってね」

「柘植くんが、感情に任せて暴力を振るうなんてありえないからなぁー俺もちょっと人事のやつと仲良いから探り入れてみるわ」

自分の悪評が広まるのはやっぱり気持ちいいもんじゃない。わかってくれてる人がいるのもわかるが、とても切ない気持ちになった。
3人で営業一課に戻ると、彩子が慌ててやってきた。

「誤解は解けたと思うんですけどちょっと問題が。」

デスクに戻ると、パソコン画面に『泥棒鍵返せ』と張り紙がしてあった。貴重品は持ち出していたので無事だがカバンの中身は机の上に散乱しており何かを探した後があった。

はぁ。とため息をつく。
鍵…か?夜鷹のアパートの鍵?スペア1本しか無いもんなぁ。

ポケットに自分のアパートの鍵と一緒ついてる鍵を外し、経理部は向かうことにする。
課長(厳つい)がついてきてくれるようで心強い。

「すみません、朝比奈さんお願いします。」

「あぁ、」

心なしか経理の人たちが冷めた目でこちらをみてくる。課長がいるからあからさまでは無いが、確実に悪い噂を聞いているのだろう。
腹が立ってきた。私が何をしたって言うんだ。

「えーっと、これ、アパートの鍵返すね。新しい彼女が返して欲しいらしいから。今度から直接言いにきてね拒否、しないから」

わざと大きな声でまだ遠くにいた夜鷹に話しかける。ポンと鍵を投げてわたす。
経理の女の子たちが「え?鍵まで持ってたの?付き合ってたってこと?話し違くない?」などとコソコソ話している。

「れ…柘植さん、ここではちょっと、会議し…」

夜鷹が慌てて場所を変えようと提案してくるが後ろにいる課長に気がつきらビクッとする。

「朝比奈くん、2年間もアパートに通って面倒を見てくれてた彼女と君の家の階の入り口付近に私が住んでるのは知ってたかい?よく見かけたよ。他にも目撃者がたくさんいるがね、うちの妻とか。」

「あっいや、付き合って…ました。」

思わぬ援護射撃に驚いたのは玲子だけではなく、経理の人達もだった。
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