冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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本編の本編のその後

5.償いの言葉の代わりに

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「僕は、いつかまたオーラリアに会えるように兵士になって、この国を守る。今から訓練したって遅いかもしれないけど。えっと…貴女も手伝ってくれるし、頑張ろうと思う」


クランは恥ずかしそうに、顔を赤らめて目を伏せた。
瞳も美しく淡い金色だが、長いまつ毛も金色なのか。と優里は見惚れてしまった。

「私のことはユウリと。」


「ユウリ、僕がふたたび道を踏み外さないように、見守ってくれる?」


「えぇ、もちろん。」


精一杯優しく笑いかけるが、返ってきたクランの儚い笑顔の破壊力の前にあっけなく散った。
まぁ、クランが道を踏み外す前に、優里が道を踏み外すかもしれない。その位、ここみに憎しみを抱いていた。

あちらの世界で、ここみは隣のアパートに住んでいた。長く近くに住んでいたので顔見知りではあったが、決して仲良くはなかった。兄妹のような付き合いだってない。何故か、私たちが小説を書いていることを嗅ぎつけた彼女はやれ、ここは展開が惜しい!だの、構成が甘いだの、自分をモデルにしてだの、うるさかった。
周りには、自分は原作者であの二人にアイディアをあげていると大嘘をついていた。

アドバイスという名のお節介な助言と全く違う展開になっているのに気がついていない。
読んでないのか?
自分が言った内容になっていると思い込んで読んでいないのか。

さらに、弟の紫亜にまで手を出し始めた。
仕事先のカフェに自分は身内ですと図々しく何度も訪れた。見た目のいい店員に甘えた声で話しかけ、他のお客さんの悪口を吹き込む。
それで、人間関係が一時期ギクシャクしてしまった。
ここみのいうことは信じなくていい、身内でもないし迷惑をしている。と公言したことで被害者は少なくなっていった。

異世界に転移したことが分かった時、あの女から逃れられる事が唯一嬉しかった。

でもいた。

いたんだ。最悪だった。

ハイドを取り込もうと王宮をひっそり訪れここみを見た時、オーラリアに意地悪なことをしていると知って、殺してしまうかと思った。

その時の怒りを思い出して思わず手に力がこもる。

「あの、ユウリ?大丈夫?」

クランに話しかけられて、自分の周りの花に霜が降りているのに気がつき気を取り直すことにした。
この男を鍛え上げて、ハイドの盾となるように育てなければ。
そして、この恋愛ポンコツ元国王にアプローチをかけなければいけない。

なんせ、クランはユウリの理想そのものなのだ。
オーラリアには、そのことは報告済みで困ったような笑顔で『応援するわ、でも何かあったら絶対すぐにいってね!』と何度も何度も声をかけられた。

でもまずは、このへなちょこを鍛え上げなければ。

「じゃあ、さっそく。この庭園40週3セット行きますか。」

クランは笑ったまま顔を青ざめさせて、引きずられるように走り始めた。










「は?くるんじゃないの?」

塔に入ることなく去っていったクランとユウリを見てここみは怒った。
会いにきてくれたと思ったのに、まだ、ここみに未練があるんじゃないかって少し期待してしまったのに。
これっぽっちも気にされていないことが逆に腹立たしかった。

「なによ!みんなして価値のわからない人たちね!仲良しグループで固まって…イジメじゃないこんなの!」

手近にあった枕を掴むと思い切り窓に向かって放り投げた。内側にはめられた鉄格子に当たり枕はポトリと床におちる。

「なんでみんないつも、私を悪者にするの?」

あちらの世界でもこちらの世界でも、結局嫌われてしまうことに対して自分が悪いのでは、とはこれっぽっちも考えてなかった。
それからほんの少しして、ロバートがおやつを届けにきてくれた。

「あれ?どうしたんすか?」

ロバートに落ち込んでいることが分かるように目を腫らし涙目でわざと窓際に落ちた枕を抱いて座り込んで見せた。


「ロバート、私一人でこんなところにいるの、寂しい。ちょっとでいいから手を握ってくれない?」


狙い通り、ロバートが心配そうに顔を覗かせたら、慌てて入り口の鉄格子まで走って行き、手を差し出す。
おずおずと差し出された手を握るロバートの顔は真っ赤に染まっていた。

無骨で大きな手をギュッと掴むと、なんだかドキドキした。顔が飛び抜けていいわけでもお金持ちでもない男の人に惹かれるのは初めてだった。
ここみも心臓がバクバクと強く脈打ち顔が熱くなるのを感じた。

「ロバートは…好きな人はいるの?」

今まで一度も聞いた方がなかった。その質問が自然と口から出た。
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