冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

文字の大きさ
上 下
51 / 61

49.後始末

しおりを挟む
「さて、クラン。聞きたいことがある。ここみの腹の子は王家の血を引いているのか?」


「…いいえ。」


クランは力無くフッと笑って弱々しく答えた。続けて、頭でも痛むのか、手を額に当てて困ったように細々と話し始める。


「初めての夜の記憶がないが、他の時に子を宿さないように封じられた印を解いたことはない。初めてを捧げたのだと言われて…責任を取らなければと思ったんだ」


ここみは捉えられた両腕を振り解こうと暴れながら叫ぶ。

「なにいってるのよ!あんなに抱いたくせに!避妊なんてしてなかったじゃない!!」


妊娠していると聞いている騎士たちはあまり乱暴に出来ずどう抑えていいかオロオロしはじめた。
オーラリアは二人に体の関係があったと聞いても何とも思わないのは、もう本当にクランに思いが残っていないんだと、少し寂しくも感じた。

振り回される騎士たちを可哀想な思い口を出そうとしたら、ハイドに肩を叩かれ止められた。


「クランには、簡単に子が成せぬよう封印の魔法をかけてある。特別な力のあるものにしか出来ないことだ。今代はそこにいる、ローランドが術者だ。王族がそんなに簡単に子を宿して争いが起こらぬように昔からそう決まっているんだ。オーラリアという正妃がいたのにその印を解いていなかったのは理解し難いが…」

ハイドがローランドをちらっと見やると、ふん、と鼻で笑って小さな声で答えた。

「初めからオーラリア様にふさわしく無いと思いましたので、印を解くのを拒否いたいました」

「オーラリアが嫌がっているんだと、思っていた」

クランが驚くような顔で私を見つめる。

「嫁いできた時はあなたはまだ幼かったですから…それでも、私から拒否したことはありません。結局忙しくて寝台を共にしたことはありませんでしたが…」

「そうか、それもか…」

クランは自傷気味にあはは!!と大きな声で笑った。それがここみの癇に障ったのかバン!と大きな音を立てて騎士をふりはらった。

「笑ってないでよ!!何言ってんの?!あたしを捨てたら許さないから!!!」




「ではなぜ、医師の診察を拒否するのだ」


「そ、それは、医者が嫌いだから精神的におかしくなっちゃうからって…」


クランが冷たい声でここみに投げかけると、ビクッと肩を震わせて弱々しく答える。続いてシアが怖い顔をして前に出てきた。


「あとさ、ここみは処女じゃないよね?あちらの世界で付き合ってた人とよくお泊まりしてたよね。まぁ、俺の親友だったけど。最終的には俺に近づくために付き合った!とか言ってて。吐き気がしたよ」

まだ、美しいメイドの姿のままだがいつもより声が低く口調が乱暴だ。これが本当のシアなのだろう。
シアの言葉を聞いたここみは真っ赤になり、クランは真っ青になった。



「うそ…だったのか?」


ここみは力無くブンブンと首を横に張る。


「ち…がう…ねぇ、違うの。ここみをすてないで!!違うのぉ!!!」


「違う違う違うちがう!!お前は全部うそか?!オーラリアを…返せ!!!僕にオーラリアを返してくれ!何でお前なんかのために…なんで!!!!!!」


なんで!!とクランが悲痛の叫びをあげる。それは私に帰ってきて欲しいとか、もう一度一緒になって欲しいとか伝えたいわけではなく、本当に自分の中で、あの頃に戻してくれとただ叫んでいるように聞こえた。

混乱してしまったクランを騎士が優しく立ち上がらせ退室させる。ユウリがハイドに一言何かを告げると後をついて出て行った。
ハイドは速やかにここみを確保すると騎士に引き渡し、離宮ではなく北の塔へと連れていくように命じた。


現王がハイドに王位を譲ると宣言したこともあり、無事この国を血を流さずに譲り受けることができた。
皆疲れ果てていたためそのまま王城に止まることにした。

辛い思い出の多い場所だ、耳を覚ますとクランの泣き声が聞こえてきそうで胸がキツくなった。
ハイドが優しく手を握ってくれていなければ、私は泣いていたかもしれない。


幼きクラン王子が抱えた悲しみを想って、そして、辛かった日々を認識して。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

影の王宮

朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。 ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。 幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。 両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。 だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。 タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。 すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。 一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。 メインになるのは親世代かと。 ※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。 苦手な方はご自衛ください。 ※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?

まめまめ
恋愛
 魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。  大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹! 「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」 (可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)  双子様の父親、大公閣下に相談しても 「子どもたちのことは貴女に任せます。」  と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。  しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?  どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

処理中です...