冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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40.オーラリアは決断する

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それから、例の洞窟へみんなで向かう。
ひどい状態であると想像していたが、ローランドが環境を秘密裏に整え炊いたおかげか、死者はいなかった。

それでも、高熱と体の痛みで皆苦しんでいた。
慌てて熱冷ましや水分補給など行いなんとか、患者の体力を持たせることができた。


「ワタシは苦しむ皆を助けられなかった。オーラリア様は3年間も患者と向き合っていたんですね。」


信じられないほどの大きな籠を背負わされたローランドがしみじみと呟いた。
ユウリが重いものをあらかたローランドとハイドさんに持たせているらしい。


「お…重くないですか?ハイド様は騎士ですからまだ…聖職者であるローランドさんは…」



「あ、お気遣いなく。ワタシ案外強いんですよ。このまま、オーラリア様のことも担げますよ。」


「そうですか…」


少し答えたところで左右にユウリとシアが割り込んでくる。


「オーラリア様は私たちが担ぐから大丈夫です!」
「ほら、無駄話してないで働け!」


「…まぁ、ワタシがいけないのですけどね。貴方たちにだって責任があるんじゃないですか?本物の聖女はあなたなんでしょう?」


ローランドがそういうとじっとユウリを見つめる。
ユウリは涼しい顔をしたまま「さあね。」と答えた。

目の前にハイド様の背中が見えた。そのまま駆け寄り「ハイド様」と話しかけると、「うわぁ!」とびっくりされてしまった。


「ごめんなさい、驚かせるつもりは…」


「あ、、いや。ごめん。」


歯切れ悪く誤ったかと思うと、ふいっと顔を背けてそのまま、沈黙してしまう。あの洞窟に向かう間も、救護している間も、ずっとそうだった。ザクザクと土を踏む音だけが辺りに響く。




何か言わなきゃ。と考えているうちにギュッと胸が締め付けられるように痛くなった。

喋りはしないがハイドはオーラリアに歩幅を合わせて歩いていた。先に行くこともなく、遅れることもなく。
なのに一言も喋らない。
嫌われてはいないと思うが、チクリと不安が胸をよぎる。


よかったとか。

また会いたかったとか。


いつもの彼なら言ってくれるだろうと思っていた。
勝手に攫われてこんな騒動を起こしたことで面倒になったんだろうか。もしかして、指輪を無くしたから?怒っているのだろうか。

そんな事を考えていたらいつのまにか歩みが止まってしまった。



「オーラリア?」


歩みを止めたオーラリアを不思議に思い、ハイドは振り返る。名前を呼んでも、待っていても一向に返事はないし歩み寄っても来てくれないオーラリアに少し不安になり、2.3歩近寄る。


「うそつき。」




「え?」



「…」


こんな事で泣きたくはなかった。困らせたいわけではなかった。ただ、抱きしめて欲しかった。受け止めて欲しかった。シアは、ユウリは、オーラリアを抱きしめてくれたし、よく頑張ったね、と褒めてくれた。


「辛い時は助けてくれるって言ったじゃない」



「ご…ごめん。俺は…君を傷つけようと…」



「そんなこと言ってるんじゃない!」




「え?」



「助けに来てくれたんじゃないの?どうして…どうして貴方だけ私を避けるの?嫌になっちゃったの?」



「まって!嫌になんかなってない!」


慌ててハイドはオーラリアに駆け寄り肩を震わせる彼女を慰めようと手をのばす。



「触らないで!!」



初めてオーラリアに怒りをぶつけられてハイドは焦っていた。自分は怒りにのまれて全く役に立たなかった。
それどころかオーラリアに刃をむけた。
危うく己の手でオーラリアを…

そう思うと彼女に話しかけることができずにいた。
それが余計彼女を傷つけていたなんて。考えもしなかった。



「ごめん。」



伸ばしたままの手をパチンと払いのけられる。

それでも、懲りずに手を伸ばすと今度は払い除けられずにオーラリアの頬に触れることができた。


「ごめん。君に刃を向けてしまったことがその…情けなさ過ぎて避けるようになってしまった。」


「やだ。許さない。」



「ごめん」


恐る恐る小さくなったオーラリアを抱きしめる。



「ごめん」




「…最初にこうして欲しかった」


「オーラリアが死んでしまったと思った瞬間に…俺はもう生きていかなくていいやと思った。君がいないと俺は生きていけない。なのに、傷つけてごめん。」



「許しません。だから…これからは、ちゃんと朝と夜にぎゅってしてください。朝、目が覚めておはようと言えるのは当たり前じゃないんです。行ってきますと出ていっておかえりと言えるのは当たり前じゃないんです。人は死にます。私はそれが怖い。毎日奇跡の積み重ねで人は笑顔でまた明日を迎えられるんです。過保護でも、依存でもなんとでもいえばいい。私は…離れる前には笑顔でちゃんと離れたい。」



オーラリアは一気に喋ると自分が思っていた以上に心が悲鳴をあげていたんだということに気がついた。
人の死を見続けて来たことで恐怖が心に染み付いてしまっていたんだ。


「わかった。不安になった時は必ず話そう。オーラリア、ちゃんと話しかけてくれてありがとう。」


ハイドは力強くオーラリアを抱きしめると、懐から指輪を差し出した。


「もう一度作り直して指輪を送るよ」


「いいえ、これが良い。一緒に困難を乗り越えたこの指輪がいい。はめてくれる?」


そうして定位置に指輪は収まった。
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