42 / 61
40.オーラリアは決断する
しおりを挟む
それから、例の洞窟へみんなで向かう。
ひどい状態であると想像していたが、ローランドが環境を秘密裏に整え炊いたおかげか、死者はいなかった。
それでも、高熱と体の痛みで皆苦しんでいた。
慌てて熱冷ましや水分補給など行いなんとか、患者の体力を持たせることができた。
「ワタシは苦しむ皆を助けられなかった。オーラリア様は3年間も患者と向き合っていたんですね。」
信じられないほどの大きな籠を背負わされたローランドがしみじみと呟いた。
ユウリが重いものをあらかたローランドとハイドさんに持たせているらしい。
「お…重くないですか?ハイド様は騎士ですからまだ…聖職者であるローランドさんは…」
「あ、お気遣いなく。ワタシ案外強いんですよ。このまま、オーラリア様のことも担げますよ。」
「そうですか…」
少し答えたところで左右にユウリとシアが割り込んでくる。
「オーラリア様は私たちが担ぐから大丈夫です!」
「ほら、無駄話してないで働け!」
「…まぁ、ワタシがいけないのですけどね。貴方たちにだって責任があるんじゃないですか?本物の聖女はあなたなんでしょう?」
ローランドがそういうとじっとユウリを見つめる。
ユウリは涼しい顔をしたまま「さあね。」と答えた。
目の前にハイド様の背中が見えた。そのまま駆け寄り「ハイド様」と話しかけると、「うわぁ!」とびっくりされてしまった。
「ごめんなさい、驚かせるつもりは…」
「あ、、いや。ごめん。」
歯切れ悪く誤ったかと思うと、ふいっと顔を背けてそのまま、沈黙してしまう。あの洞窟に向かう間も、救護している間も、ずっとそうだった。ザクザクと土を踏む音だけが辺りに響く。
何か言わなきゃ。と考えているうちにギュッと胸が締め付けられるように痛くなった。
喋りはしないがハイドはオーラリアに歩幅を合わせて歩いていた。先に行くこともなく、遅れることもなく。
なのに一言も喋らない。
嫌われてはいないと思うが、チクリと不安が胸をよぎる。
よかったとか。
また会いたかったとか。
いつもの彼なら言ってくれるだろうと思っていた。
勝手に攫われてこんな騒動を起こしたことで面倒になったんだろうか。もしかして、指輪を無くしたから?怒っているのだろうか。
そんな事を考えていたらいつのまにか歩みが止まってしまった。
「オーラリア?」
歩みを止めたオーラリアを不思議に思い、ハイドは振り返る。名前を呼んでも、待っていても一向に返事はないし歩み寄っても来てくれないオーラリアに少し不安になり、2.3歩近寄る。
「うそつき。」
「え?」
「…」
こんな事で泣きたくはなかった。困らせたいわけではなかった。ただ、抱きしめて欲しかった。受け止めて欲しかった。シアは、ユウリは、オーラリアを抱きしめてくれたし、よく頑張ったね、と褒めてくれた。
「辛い時は助けてくれるって言ったじゃない」
「ご…ごめん。俺は…君を傷つけようと…」
「そんなこと言ってるんじゃない!」
「え?」
「助けに来てくれたんじゃないの?どうして…どうして貴方だけ私を避けるの?嫌になっちゃったの?」
「まって!嫌になんかなってない!」
慌ててハイドはオーラリアに駆け寄り肩を震わせる彼女を慰めようと手をのばす。
「触らないで!!」
初めてオーラリアに怒りをぶつけられてハイドは焦っていた。自分は怒りにのまれて全く役に立たなかった。
それどころかオーラリアに刃をむけた。
危うく己の手でオーラリアを…
そう思うと彼女に話しかけることができずにいた。
それが余計彼女を傷つけていたなんて。考えもしなかった。
「ごめん。」
伸ばしたままの手をパチンと払いのけられる。
それでも、懲りずに手を伸ばすと今度は払い除けられずにオーラリアの頬に触れることができた。
「ごめん。君に刃を向けてしまったことがその…情けなさ過ぎて避けるようになってしまった。」
「やだ。許さない。」
「ごめん」
恐る恐る小さくなったオーラリアを抱きしめる。
「ごめん」
「…最初にこうして欲しかった」
「オーラリアが死んでしまったと思った瞬間に…俺はもう生きていかなくていいやと思った。君がいないと俺は生きていけない。なのに、傷つけてごめん。」
「許しません。だから…これからは、ちゃんと朝と夜にぎゅってしてください。朝、目が覚めておはようと言えるのは当たり前じゃないんです。行ってきますと出ていっておかえりと言えるのは当たり前じゃないんです。人は死にます。私はそれが怖い。毎日奇跡の積み重ねで人は笑顔でまた明日を迎えられるんです。過保護でも、依存でもなんとでもいえばいい。私は…離れる前には笑顔でちゃんと離れたい。」
オーラリアは一気に喋ると自分が思っていた以上に心が悲鳴をあげていたんだということに気がついた。
人の死を見続けて来たことで恐怖が心に染み付いてしまっていたんだ。
「わかった。不安になった時は必ず話そう。オーラリア、ちゃんと話しかけてくれてありがとう。」
ハイドは力強くオーラリアを抱きしめると、懐から指輪を差し出した。
「もう一度作り直して指輪を送るよ」
「いいえ、これが良い。一緒に困難を乗り越えたこの指輪がいい。はめてくれる?」
そうして定位置に指輪は収まった。
ひどい状態であると想像していたが、ローランドが環境を秘密裏に整え炊いたおかげか、死者はいなかった。
それでも、高熱と体の痛みで皆苦しんでいた。
慌てて熱冷ましや水分補給など行いなんとか、患者の体力を持たせることができた。
「ワタシは苦しむ皆を助けられなかった。オーラリア様は3年間も患者と向き合っていたんですね。」
信じられないほどの大きな籠を背負わされたローランドがしみじみと呟いた。
ユウリが重いものをあらかたローランドとハイドさんに持たせているらしい。
「お…重くないですか?ハイド様は騎士ですからまだ…聖職者であるローランドさんは…」
「あ、お気遣いなく。ワタシ案外強いんですよ。このまま、オーラリア様のことも担げますよ。」
「そうですか…」
少し答えたところで左右にユウリとシアが割り込んでくる。
「オーラリア様は私たちが担ぐから大丈夫です!」
「ほら、無駄話してないで働け!」
「…まぁ、ワタシがいけないのですけどね。貴方たちにだって責任があるんじゃないですか?本物の聖女はあなたなんでしょう?」
ローランドがそういうとじっとユウリを見つめる。
ユウリは涼しい顔をしたまま「さあね。」と答えた。
目の前にハイド様の背中が見えた。そのまま駆け寄り「ハイド様」と話しかけると、「うわぁ!」とびっくりされてしまった。
「ごめんなさい、驚かせるつもりは…」
「あ、、いや。ごめん。」
歯切れ悪く誤ったかと思うと、ふいっと顔を背けてそのまま、沈黙してしまう。あの洞窟に向かう間も、救護している間も、ずっとそうだった。ザクザクと土を踏む音だけが辺りに響く。
何か言わなきゃ。と考えているうちにギュッと胸が締め付けられるように痛くなった。
喋りはしないがハイドはオーラリアに歩幅を合わせて歩いていた。先に行くこともなく、遅れることもなく。
なのに一言も喋らない。
嫌われてはいないと思うが、チクリと不安が胸をよぎる。
よかったとか。
また会いたかったとか。
いつもの彼なら言ってくれるだろうと思っていた。
勝手に攫われてこんな騒動を起こしたことで面倒になったんだろうか。もしかして、指輪を無くしたから?怒っているのだろうか。
そんな事を考えていたらいつのまにか歩みが止まってしまった。
「オーラリア?」
歩みを止めたオーラリアを不思議に思い、ハイドは振り返る。名前を呼んでも、待っていても一向に返事はないし歩み寄っても来てくれないオーラリアに少し不安になり、2.3歩近寄る。
「うそつき。」
「え?」
「…」
こんな事で泣きたくはなかった。困らせたいわけではなかった。ただ、抱きしめて欲しかった。受け止めて欲しかった。シアは、ユウリは、オーラリアを抱きしめてくれたし、よく頑張ったね、と褒めてくれた。
「辛い時は助けてくれるって言ったじゃない」
「ご…ごめん。俺は…君を傷つけようと…」
「そんなこと言ってるんじゃない!」
「え?」
「助けに来てくれたんじゃないの?どうして…どうして貴方だけ私を避けるの?嫌になっちゃったの?」
「まって!嫌になんかなってない!」
慌ててハイドはオーラリアに駆け寄り肩を震わせる彼女を慰めようと手をのばす。
「触らないで!!」
初めてオーラリアに怒りをぶつけられてハイドは焦っていた。自分は怒りにのまれて全く役に立たなかった。
それどころかオーラリアに刃をむけた。
危うく己の手でオーラリアを…
そう思うと彼女に話しかけることができずにいた。
それが余計彼女を傷つけていたなんて。考えもしなかった。
「ごめん。」
伸ばしたままの手をパチンと払いのけられる。
それでも、懲りずに手を伸ばすと今度は払い除けられずにオーラリアの頬に触れることができた。
「ごめん。君に刃を向けてしまったことがその…情けなさ過ぎて避けるようになってしまった。」
「やだ。許さない。」
「ごめん」
恐る恐る小さくなったオーラリアを抱きしめる。
「ごめん」
「…最初にこうして欲しかった」
「オーラリアが死んでしまったと思った瞬間に…俺はもう生きていかなくていいやと思った。君がいないと俺は生きていけない。なのに、傷つけてごめん。」
「許しません。だから…これからは、ちゃんと朝と夜にぎゅってしてください。朝、目が覚めておはようと言えるのは当たり前じゃないんです。行ってきますと出ていっておかえりと言えるのは当たり前じゃないんです。人は死にます。私はそれが怖い。毎日奇跡の積み重ねで人は笑顔でまた明日を迎えられるんです。過保護でも、依存でもなんとでもいえばいい。私は…離れる前には笑顔でちゃんと離れたい。」
オーラリアは一気に喋ると自分が思っていた以上に心が悲鳴をあげていたんだということに気がついた。
人の死を見続けて来たことで恐怖が心に染み付いてしまっていたんだ。
「わかった。不安になった時は必ず話そう。オーラリア、ちゃんと話しかけてくれてありがとう。」
ハイドは力強くオーラリアを抱きしめると、懐から指輪を差し出した。
「もう一度作り直して指輪を送るよ」
「いいえ、これが良い。一緒に困難を乗り越えたこの指輪がいい。はめてくれる?」
そうして定位置に指輪は収まった。
83
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる