41 / 61
39.壁
しおりを挟む
オーラリアはすぐに痛みに襲われると思っていたが、いつまで経っても衝撃がこない。思わず閉じた目を恐る恐るひらく。
目の前には2つの背中があった。花柄のお盆と白い魔法陣で猛突進してきたハイドを止め、叩き落としていた。後ろにいたはずのローランドが森の入り口の辺りでポカンとたっている。
「お館さまぁ、大事なオーラリア様に何するですか!いい加減目ぇ覚ましてくださいよ!!!」
バコォン!!とトドメの一発を(お盆)お見舞いしながらシアが叫ぶ。
「ぐ!!」
地面に叩きつけられた衝撃で黒いモヤが体から溢れる。
少しずつ色が元に戻っていく。爽やかな紺色の髪も、輝く黄金の瞳も、オーラリアは慌ててハイドを支え起こす。
「ご…めん。止めてくれてありがとう」
ボソッと優しい声が耳に届いた。シアとユウリにも届いたようで「全くだよ!」と叫んでいる。
「いいえ、ああ…よかっ…たぁ…よかった」
オーラリアは先程までの押し込めた恐怖と、失うかもしれない恐怖と安心から涙が溢れる。
うわぁーっと子供みたいに声をあげて泣いた。
弱々しい力でハイドがオーラリアを抱きしめ返す。
森の入り口の方から慌てて駆けつけたローランドの足跡を聞いてユウリとシアが立ち塞がる。
「オーラリア様を返してもらいます」
ユウリがポーチからステーキナイフを何本も出して構える。シアはお盆をかまえて怖い顔をしている。
「何故ここが?何故彼女が生きているとわかった?あの魔法はちょっとやそっとじゃ見破れないはずだ!」
ユウリがチッと舌打ちをする。
「確かに厄介なことに騙されましたよ。ほら、騙されてうちの大将がこんなことになってしまった。」
ボロボロのままオーラリアの腕の中で浅く呼吸を繰り返すハイドを思い切り指さす。
ハイドは申し訳なさそうに目を瞑る。
「だけどこちらの浄化魔法の方が強かったみたいですよ。」
ユウリが手をかざすと白く淡い光が現れる。砂まみれの血だらけのハイドに向けて優しくその球を投げる。体にあたった途端にパンと弾けて汚れを全て消し去った。
怪我も落ち着いたように見える。
「君が、本物だったのですか。」
ローランドが悔しそうに口元を少しだけ歪めながら、笑った。本物とはどういう事だろうか、とオーラリアが考えていると森の方からもう一人、若い女性が走ってきた。
「あとは、あの子のおかげかな?傀儡人形を破壊してくれた。君と同じ魔力を持った彼女だから壊せたんだ。」
「ロッカ。」
ローランドがぽそりとつぶやく。ロッカと呼ばれた少女は王宮騎士団の隊服を着たローランドと同じ色を持った小柄な女性だった。
「妹さん、騎士団に所属していたんだね。君の行動が怪しいと、僕たちを見守ってくれていたんだって。」
シアが大きくため息をつきながらローランドに説明する。ちょうど到着した彼女は顔を真っ赤にして兄に怒鳴りつける。
「命の恩人になんてことを!!!バカ兄貴!!」
ゴン!と彼女の拳が頭にヒットした。ローランドは、目がチカチカしているのか、少し足元がふらついていた。
ユウリがオーラリアが人形だと気がついた時、飛び出してきて人形を両断したのは彼女だった。
続けて、兄を助けて欲しい、と懇願した。
早めに人形を破壊されたことでオーラリアは早くに目覚める事ができた。
「オーラリア様、私は8才の頃に貴女に助けていただきました。なのにこんな…申し訳ありません。兄と共にどんな罰でもお受けいたします!」
ロッカはガシャン、とそのばに剣をおき地面に額がつくほどに頭を下げる。
ハイドの呼吸も落ち着いた事で、シアに少しだけ預けて、ローランド、ロッカ兄妹の元へ歩み寄る。
二人の手を取りギュッと握る。
「許します。私のためを思ってくれたんですもの。でも、犯した罪は償ってもらいます。」
「どんな罰でも…兄と同じ罰を私にもお与えください。」
「洞窟へいきたいの、連れていって。そして、共に民を救ってくださらない?」
「…そんなことは、もちろんいたします!そうではなくて…」
オーラリアはしぃ、と人差し指を口の前に立ててイタズラそうに微笑む。
「もちろん、他の罰を受けるかもしれない。でも…私は…私は許します。」
許すことにした理由は、ローランドが心からオーラリアを思っていることが十分に伝わったから。怖かったけれど、自分が長年無理をして沢山の人を心配させてしまっていたんだと、反省するところもあったからだった。
目の前には2つの背中があった。花柄のお盆と白い魔法陣で猛突進してきたハイドを止め、叩き落としていた。後ろにいたはずのローランドが森の入り口の辺りでポカンとたっている。
「お館さまぁ、大事なオーラリア様に何するですか!いい加減目ぇ覚ましてくださいよ!!!」
バコォン!!とトドメの一発を(お盆)お見舞いしながらシアが叫ぶ。
「ぐ!!」
地面に叩きつけられた衝撃で黒いモヤが体から溢れる。
少しずつ色が元に戻っていく。爽やかな紺色の髪も、輝く黄金の瞳も、オーラリアは慌ててハイドを支え起こす。
「ご…めん。止めてくれてありがとう」
ボソッと優しい声が耳に届いた。シアとユウリにも届いたようで「全くだよ!」と叫んでいる。
「いいえ、ああ…よかっ…たぁ…よかった」
オーラリアは先程までの押し込めた恐怖と、失うかもしれない恐怖と安心から涙が溢れる。
うわぁーっと子供みたいに声をあげて泣いた。
弱々しい力でハイドがオーラリアを抱きしめ返す。
森の入り口の方から慌てて駆けつけたローランドの足跡を聞いてユウリとシアが立ち塞がる。
「オーラリア様を返してもらいます」
ユウリがポーチからステーキナイフを何本も出して構える。シアはお盆をかまえて怖い顔をしている。
「何故ここが?何故彼女が生きているとわかった?あの魔法はちょっとやそっとじゃ見破れないはずだ!」
ユウリがチッと舌打ちをする。
「確かに厄介なことに騙されましたよ。ほら、騙されてうちの大将がこんなことになってしまった。」
ボロボロのままオーラリアの腕の中で浅く呼吸を繰り返すハイドを思い切り指さす。
ハイドは申し訳なさそうに目を瞑る。
「だけどこちらの浄化魔法の方が強かったみたいですよ。」
ユウリが手をかざすと白く淡い光が現れる。砂まみれの血だらけのハイドに向けて優しくその球を投げる。体にあたった途端にパンと弾けて汚れを全て消し去った。
怪我も落ち着いたように見える。
「君が、本物だったのですか。」
ローランドが悔しそうに口元を少しだけ歪めながら、笑った。本物とはどういう事だろうか、とオーラリアが考えていると森の方からもう一人、若い女性が走ってきた。
「あとは、あの子のおかげかな?傀儡人形を破壊してくれた。君と同じ魔力を持った彼女だから壊せたんだ。」
「ロッカ。」
ローランドがぽそりとつぶやく。ロッカと呼ばれた少女は王宮騎士団の隊服を着たローランドと同じ色を持った小柄な女性だった。
「妹さん、騎士団に所属していたんだね。君の行動が怪しいと、僕たちを見守ってくれていたんだって。」
シアが大きくため息をつきながらローランドに説明する。ちょうど到着した彼女は顔を真っ赤にして兄に怒鳴りつける。
「命の恩人になんてことを!!!バカ兄貴!!」
ゴン!と彼女の拳が頭にヒットした。ローランドは、目がチカチカしているのか、少し足元がふらついていた。
ユウリがオーラリアが人形だと気がついた時、飛び出してきて人形を両断したのは彼女だった。
続けて、兄を助けて欲しい、と懇願した。
早めに人形を破壊されたことでオーラリアは早くに目覚める事ができた。
「オーラリア様、私は8才の頃に貴女に助けていただきました。なのにこんな…申し訳ありません。兄と共にどんな罰でもお受けいたします!」
ロッカはガシャン、とそのばに剣をおき地面に額がつくほどに頭を下げる。
ハイドの呼吸も落ち着いた事で、シアに少しだけ預けて、ローランド、ロッカ兄妹の元へ歩み寄る。
二人の手を取りギュッと握る。
「許します。私のためを思ってくれたんですもの。でも、犯した罪は償ってもらいます。」
「どんな罰でも…兄と同じ罰を私にもお与えください。」
「洞窟へいきたいの、連れていって。そして、共に民を救ってくださらない?」
「…そんなことは、もちろんいたします!そうではなくて…」
オーラリアはしぃ、と人差し指を口の前に立ててイタズラそうに微笑む。
「もちろん、他の罰を受けるかもしれない。でも…私は…私は許します。」
許すことにした理由は、ローランドが心からオーラリアを思っていることが十分に伝わったから。怖かったけれど、自分が長年無理をして沢山の人を心配させてしまっていたんだと、反省するところもあったからだった。
71
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

影の王宮
朱里 麗華(reika2854)
恋愛
王立学園の卒業式で公爵令嬢のシェリルは、王太子であり婚約者であるギデオンに婚約破棄を言い渡される。
ギデオンには学園で知り合った恋人の男爵令嬢ミーシャがいるのだ。
幼い頃からギデオンを想っていたシェリルだったが、ギデオンの覚悟を知って身を引こうと考える。
両親の愛情を受けられずに育ったギデオンは、人一倍愛情を求めているのだ。
だけどミーシャはシェリルが思っていたような人物ではないようで……。
タグにも入れましたが、主人公カップル(本当に主人公かも怪しい)は元サヤです。
すっごく暗い話になりそうなので、プロローグに救いを入れました。
一章からの話でなぜそうなったのか過程を書いていきます。
メインになるのは親世代かと。
※子どもに関するセンシティブな内容が含まれます。
苦手な方はご自衛ください。
※タイトルが途中で変わる可能性があります<(_ _)>
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる