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39.壁

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オーラリアはすぐに痛みに襲われると思っていたが、いつまで経っても衝撃がこない。思わず閉じた目を恐る恐るひらく。


目の前には2つの背中があった。花柄のお盆と白い魔法陣で猛突進してきたハイドを止め、叩き落としていた。後ろにいたはずのローランドが森の入り口の辺りでポカンとたっている。

「お館さまぁ、大事なオーラリア様に何するですか!いい加減目ぇ覚ましてくださいよ!!!」


バコォン!!とトドメの一発を(お盆)お見舞いしながらシアが叫ぶ。

「ぐ!!」

地面に叩きつけられた衝撃で黒いモヤが体から溢れる。
少しずつ色が元に戻っていく。爽やかな紺色の髪も、輝く黄金の瞳も、オーラリアは慌ててハイドを支え起こす。


「ご…めん。止めてくれてありがとう」


ボソッと優しい声が耳に届いた。シアとユウリにも届いたようで「全くだよ!」と叫んでいる。


「いいえ、ああ…よかっ…たぁ…よかった」


オーラリアは先程までの押し込めた恐怖と、失うかもしれない恐怖と安心から涙が溢れる。
うわぁーっと子供みたいに声をあげて泣いた。

弱々しい力でハイドがオーラリアを抱きしめ返す。
森の入り口の方から慌てて駆けつけたローランドの足跡を聞いてユウリとシアが立ち塞がる。

「オーラリア様を返してもらいます」

ユウリがポーチからステーキナイフを何本も出して構える。シアはお盆をかまえて怖い顔をしている。


「何故ここが?何故彼女が生きているとわかった?あの魔法はちょっとやそっとじゃ見破れないはずだ!」


ユウリがチッと舌打ちをする。


「確かに厄介なことに騙されましたよ。ほら、騙されてうちの大将がこんなことになってしまった。」

ボロボロのままオーラリアの腕の中で浅く呼吸を繰り返すハイドを思い切り指さす。
ハイドは申し訳なさそうに目を瞑る。



「だけどこちらの浄化魔法の方が強かったみたいですよ。」


ユウリが手をかざすと白く淡い光が現れる。砂まみれの血だらけのハイドに向けて優しくその球を投げる。体にあたった途端にパンと弾けて汚れを全て消し去った。
怪我も落ち着いたように見える。


「君が、本物だったのですか。」


ローランドが悔しそうに口元を少しだけ歪めながら、笑った。本物とはどういう事だろうか、とオーラリアが考えていると森の方からもう一人、若い女性が走ってきた。


「あとは、あの子のおかげかな?傀儡人形を破壊してくれた。君と同じ魔力を持った彼女だから壊せたんだ。」





「ロッカ。」



ローランドがぽそりとつぶやく。ロッカと呼ばれた少女は王宮騎士団の隊服を着たローランドと同じ色を持った小柄な女性だった。


「妹さん、騎士団に所属していたんだね。君の行動が怪しいと、僕たちを見守ってくれていたんだって。」

シアが大きくため息をつきながらローランドに説明する。ちょうど到着した彼女は顔を真っ赤にして兄に怒鳴りつける。


「命の恩人になんてことを!!!バカ兄貴!!」

ゴン!と彼女の拳が頭にヒットした。ローランドは、目がチカチカしているのか、少し足元がふらついていた。


ユウリがオーラリアが人形だと気がついた時、飛び出してきて人形を両断したのは彼女だった。

続けて、兄を助けて欲しい、と懇願した。
早めに人形を破壊されたことでオーラリアは早くに目覚める事ができた。



「オーラリア様、私は8才の頃に貴女に助けていただきました。なのにこんな…申し訳ありません。兄と共にどんな罰でもお受けいたします!」


ロッカはガシャン、とそのばに剣をおき地面に額がつくほどに頭を下げる。


ハイドの呼吸も落ち着いた事で、シアに少しだけ預けて、ローランド、ロッカ兄妹の元へ歩み寄る。

二人の手を取りギュッと握る。


「許します。私のためを思ってくれたんですもの。でも、犯した罪は償ってもらいます。」



「どんな罰でも…兄と同じ罰を私にもお与えください。」


「洞窟へいきたいの、連れていって。そして、共に民を救ってくださらない?」


「…そんなことは、もちろんいたします!そうではなくて…」


オーラリアはしぃ、と人差し指を口の前に立ててイタズラそうに微笑む。



「もちろん、他の罰を受けるかもしれない。でも…私は…私は許します。」


許すことにした理由は、ローランドが心からオーラリアを思っていることが十分に伝わったから。怖かったけれど、自分が長年無理をして沢山の人を心配させてしまっていたんだと、反省するところもあったからだった。
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