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37.赤

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涙の跡を拭こうと顔をオーラリアによせる。白く光るまつ毛が今は灰色になりその瞳を薄く隠している。
いばらの隙間から差し込んだ太陽の光がちょうど顔を照らす。血の気がないため白く陶器のように無機質に見える。






「…」


ユウリは喉の奥からヒュッと息を漏らす。

日の光が届いた彼女の瞳は先程まで確かに血のように赤い瞳だった。しかし、今は、うすく、淡い赤に変わっている。

「違う…色が違う…」


彼女の赤は、深く透き通った…特別な赤だった。ハイドが散々ユウリに説明した赤を鮮明に覚えている。

目の前のオーラリアの瞳の色はたとえ血が通っていなくても足元にも及ばない薄っぺらな赤だった。

まるでガラス玉の様に透き通った…




「ガラスだ」


そう感じた途端に目の前のオーラリアはパキパキと音を立ててかたまりはじめた。


「シア!!シア!!!ガラスだ!コレはオーラリアじゃない!!はやく…早くハイドをとめ…」

ユウリが振り向いた瞬間に人形に向かって長剣が振り下ろされる。刃が人形に当たった瞬間にオレンジの魔法陣が浮かび上がりそれはただの木の人形になり、両断される。














まるで水の中にいるみたいな、苦しさだった。思うように呼吸ができず慌てて水面へあがる。


少しずつ光の指す方へ…ゆっくりと浮上する。






「うっ!!はぁ!!!」




足りなかった酸素を補給するかのように慌てて息をする。ゼェゼェとあらい息遣いが部屋に響く。



「本当に死んでしまったかと思いましたよ。」



「ど…して?」


明るく、清潔で真っ白な部屋、新鮮な木々が窓の外でさわやかに揺れている、大人の腰あたりから天井まで大きく開いた窓からは涼しげな風が吹き込んでいる。

窓辺でユラユラと揺れる椅子に腰をかけたローランドが優しそうな笑みを浮かべてこちらを見ている。

先程までとは違い、手枷も足枷もなく自由に動ける。そっと体を起こすとすかさずローランドがこちらへ歩み寄ってくる。


「やっ…いや!!!」

手元にあった枕や布団を慌ててローランドに向けて投げる。あの手がこちらへ伸びてくるだけでゾッと寒気がする。今度こそ殺させる、また苦しめられる恐怖で勝手に涙が溢れてくる。


「もう、あなたは自由ですよ」


恐ろしいはずのその手は優しく頭を撫でた。
赤ちゃんの頬を撫でるようにふわっと。


「貴女は死んだことになっているはずです。だからもう、誰の為にも生きなくていい。自由に自分の為に生きてください」

そっと顔を上げると、出会った頃のままの優しい笑顔があった。そのまま、ベットサイドに置いてあった水差しからコップに綺麗な液体を注ぎこちらへ渡してきた。


「2日何も食べていない。リゴンの果汁を絞った飲み物です。飲めますか?」


受け取らずにボーッと見つめていると、そのコップからローランドは一口液体を飲む。

「毒は入ってません。どうぞ」


震える手でやっとコップを受け取り恐る恐る口に含む。久しぶりの甘く爽やかな味にごくごくと喉が止まらない。


「おい…しい…です。」


「感想をくれるんですか。ワタシに、本当にあなたは天使のような人だ。」

そう言ってクスクスと楽しそうに笑った。
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