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33.オーラリアは怯える
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頬に当たるくすぐったい物に気がつき、ふと目を覚ます。いつも目覚めている見覚えのある部屋の窓ではなく、黒く重厚な鉄の窓枠が目に飛び込んできた。
ぼんやりとした視界をクリアにしたくて目を擦ろうと腕を上げると、ジャラッと冷たい音が響いた。
頬を撫でていた柔らかな物がピタッと動きを止めた。
「起きたんですか」
「だ…れ?これは?」
「おや?ワタシがだれだかわからない?そんなはずありませんよ、ああ、そうか、暗くて見えにくいのかな?ちょっとまっててください」
そう言ってぼんやりと見えていた人物は私の頬から手を離し、椅子から立ち上がって部屋の隅へと向かっていった。
この隙に、起きあがろうと腕を先ほどより強く引っ張ると手首にひんやりとした鉄が当たる。その先には大きめの鉄の鎖が長々と繋がり、ベットの足に止められていた。
その冷たい感触に少し頭が冴えた気がした。
起き上がる事ができずにそのまま横になったまま足を動かして見たが、足も鎖で繋がれているようで体をひねるたびにガチャガチャと冷たい音が響く。
薄暗かった部屋にパッと灯りがついた。窓はすりガラスでさらに外には蔦が下がっているようで今が昼なのか、夕方なのかはわからない。夜ではないことは確かだ。
部屋の明かりがついた事でぼんやりとしていた人物像がはっきり浮かび上がる。
「ローランド…さん?」
「あぁ、やっぱりわかりましたか。さすがです」
頬を少し赤く染めたローランドは嬉しそうに駆け寄り、そっとベットのふちに腰掛け私の顔を覗き込んだ。
「美しい。本当にあなたは美しい」
そう言って私の頬を指先だけで優しく撫でた。その手はひんやりと冷たかった。ゾワっとした感覚が全身を突き抜けたことで恐怖が増した。
「なんで?ここは?どこですか?」
「やっとあなたを迎えにいけると思ったのに、いなくなっているなんてワタシがどれだけ怒り…いえ、心配したか」
優しく頬を撫でていた指が順に下へ降りてきて首筋を撫ではじめた時にグリッと爪を立てられた。
「んっ!」
突然の痛みについ歯を食いしばってしまう。
彼の目は未だ私の目を真っ直ぐと見つめている。うっすら微笑んだその表情は変わらない。
「あぁ、痛かったですか?ワタシの心はもっと痛かった。貴女がいなくなるなんて、なぜ黙っていなくなったのですか?」
「私が…妃に相応しくないと一番初めに言い出したのは貴方では?いなくなって良かったのではないですか?」
「くっくく…相応しくない…そう、相応しくない。貴女は王妃なんて似合わない。あなたは…天使だ。天使は皆に慈しみ、愛され、愛でられる。あんな…あんな薄汚い場所で妃になるなんて、貴女に妃が相応しくない、そういったんですよ。ちょうど醜い女が妃になりたいと言い出したので挿げ替えたまで。」
はははは!!と口元を激しく歪めて声をあげて笑っている。両手首をベットに縫い付けられて身じろぎすらも出来ずに彼の言葉をただ黙って聞いているしかなかった。
恐ろしくなって唯一自由に動かせる首をさっと横に倒して視線を逸らす。
「大丈夫ですよ。貴女が望むものはなんでもワタシが与えます。やっと貴女を手に入れられた。」
ぐいっと顎を持ち上げられ視線を無理やり合わされる。記憶の中にあるローランドはいつも笑っているような細く三日月のような目をしていた。穏やかな表情でチラッと除く鮮やかなオレンジの瞳にホッとした印象があった。
今は、夕焼け色のような仄暗いオレンジの瞳を見開いて私の少しの動きも見逃さないようにつぶさに観察している。
「病棟へ返してください。まだあそこには助けなければいけない人たちが…」
「ほっておけばいいのです。王と王妃の仕事でしょう。貴女の功績全てを無駄にしたあの愚かなもの達。今更あなたに縋ろうとしているんですよ?愚かでしょう?」
「は?」
「?下水も水が止まり汚水の溜まり場になっている。患者も増える一方、王宮は人間関係が悪く常にギスギスしている。王都は暗く落ち込んでいますよ。貴女を失ったから。朝の来ない夜に皆疲弊している。」
「どういう事?ここみは何をしているの?“私ならもっと上手くやれる”ってそう言っていたじゃない。」
そこまで王都がぐちゃぐちゃになっているとは思っていなかった。多少掻き回されても機能はしていると思っていた。
「流行病の犠牲者も増えている。死にかけのもの達を町ハズレの洞窟に放り込んでいるらしいですからね。」
「なんですって!!」
がちゃん!と鎖が激しくベットをうつ。手首に鉄の角が強くあたり赤い筋がくっきりと浮かび上がる。
「怒った顔も美しい。怒りで赤が鮮明になる。」
「お願いよ、ローランド私をそこへ連れていって!助けなきゃ、早く行かなきゃ…」
「いいですよ。その代わり…貴女をワタシにください」
ニコッと笑ったローランドの瞳だけがぼんやりと光って見えた。
ぼんやりとした視界をクリアにしたくて目を擦ろうと腕を上げると、ジャラッと冷たい音が響いた。
頬を撫でていた柔らかな物がピタッと動きを止めた。
「起きたんですか」
「だ…れ?これは?」
「おや?ワタシがだれだかわからない?そんなはずありませんよ、ああ、そうか、暗くて見えにくいのかな?ちょっとまっててください」
そう言ってぼんやりと見えていた人物は私の頬から手を離し、椅子から立ち上がって部屋の隅へと向かっていった。
この隙に、起きあがろうと腕を先ほどより強く引っ張ると手首にひんやりとした鉄が当たる。その先には大きめの鉄の鎖が長々と繋がり、ベットの足に止められていた。
その冷たい感触に少し頭が冴えた気がした。
起き上がる事ができずにそのまま横になったまま足を動かして見たが、足も鎖で繋がれているようで体をひねるたびにガチャガチャと冷たい音が響く。
薄暗かった部屋にパッと灯りがついた。窓はすりガラスでさらに外には蔦が下がっているようで今が昼なのか、夕方なのかはわからない。夜ではないことは確かだ。
部屋の明かりがついた事でぼんやりとしていた人物像がはっきり浮かび上がる。
「ローランド…さん?」
「あぁ、やっぱりわかりましたか。さすがです」
頬を少し赤く染めたローランドは嬉しそうに駆け寄り、そっとベットのふちに腰掛け私の顔を覗き込んだ。
「美しい。本当にあなたは美しい」
そう言って私の頬を指先だけで優しく撫でた。その手はひんやりと冷たかった。ゾワっとした感覚が全身を突き抜けたことで恐怖が増した。
「なんで?ここは?どこですか?」
「やっとあなたを迎えにいけると思ったのに、いなくなっているなんてワタシがどれだけ怒り…いえ、心配したか」
優しく頬を撫でていた指が順に下へ降りてきて首筋を撫ではじめた時にグリッと爪を立てられた。
「んっ!」
突然の痛みについ歯を食いしばってしまう。
彼の目は未だ私の目を真っ直ぐと見つめている。うっすら微笑んだその表情は変わらない。
「あぁ、痛かったですか?ワタシの心はもっと痛かった。貴女がいなくなるなんて、なぜ黙っていなくなったのですか?」
「私が…妃に相応しくないと一番初めに言い出したのは貴方では?いなくなって良かったのではないですか?」
「くっくく…相応しくない…そう、相応しくない。貴女は王妃なんて似合わない。あなたは…天使だ。天使は皆に慈しみ、愛され、愛でられる。あんな…あんな薄汚い場所で妃になるなんて、貴女に妃が相応しくない、そういったんですよ。ちょうど醜い女が妃になりたいと言い出したので挿げ替えたまで。」
はははは!!と口元を激しく歪めて声をあげて笑っている。両手首をベットに縫い付けられて身じろぎすらも出来ずに彼の言葉をただ黙って聞いているしかなかった。
恐ろしくなって唯一自由に動かせる首をさっと横に倒して視線を逸らす。
「大丈夫ですよ。貴女が望むものはなんでもワタシが与えます。やっと貴女を手に入れられた。」
ぐいっと顎を持ち上げられ視線を無理やり合わされる。記憶の中にあるローランドはいつも笑っているような細く三日月のような目をしていた。穏やかな表情でチラッと除く鮮やかなオレンジの瞳にホッとした印象があった。
今は、夕焼け色のような仄暗いオレンジの瞳を見開いて私の少しの動きも見逃さないようにつぶさに観察している。
「病棟へ返してください。まだあそこには助けなければいけない人たちが…」
「ほっておけばいいのです。王と王妃の仕事でしょう。貴女の功績全てを無駄にしたあの愚かなもの達。今更あなたに縋ろうとしているんですよ?愚かでしょう?」
「は?」
「?下水も水が止まり汚水の溜まり場になっている。患者も増える一方、王宮は人間関係が悪く常にギスギスしている。王都は暗く落ち込んでいますよ。貴女を失ったから。朝の来ない夜に皆疲弊している。」
「どういう事?ここみは何をしているの?“私ならもっと上手くやれる”ってそう言っていたじゃない。」
そこまで王都がぐちゃぐちゃになっているとは思っていなかった。多少掻き回されても機能はしていると思っていた。
「流行病の犠牲者も増えている。死にかけのもの達を町ハズレの洞窟に放り込んでいるらしいですからね。」
「なんですって!!」
がちゃん!と鎖が激しくベットをうつ。手首に鉄の角が強くあたり赤い筋がくっきりと浮かび上がる。
「怒った顔も美しい。怒りで赤が鮮明になる。」
「お願いよ、ローランド私をそこへ連れていって!助けなきゃ、早く行かなきゃ…」
「いいですよ。その代わり…貴女をワタシにください」
ニコッと笑ったローランドの瞳だけがぼんやりと光って見えた。
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