冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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27.オーラリアは再び旅に出る

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慌ただしく準備をしていた3日間が遠い昔のように、何もせずただ座っている時間が続く。
ガタガタと馬車が揺れるたびに頭の中からたくさんの思い出が溢れてくる。

あの二人がやって来ると聞いて、一気にまたあの頃に戻ってしまうのでは無いかと血の気がひいた。

「おかしかったのよ、『そばに居るのは君がいい』なんて」

窓に肘をついて外を眺めていたら、ついぽろっと独り言が飛び出した。
正面に座っていたグリードマンの眉がピクッと動く。
ハイドは護衛も兼ねて馬を走らせて並走してくれている。

「オーラリア様の昔話はあまり直接お聞きしたことがなかったので、驚いて。すみません。」

「いいえ、ごめんなさい。つい」


しばらくの沈黙の後に気まずそうにグリードマンが口を開く。


「王が、確かに貴女を望んでいたと、一臣下であった私にまで噂が回ってきていました。オーラリア様は必要とされてが結婚されたのですよ。」

「ありがとう。ただ、甘やかして欲しかっただけなのかも。私がクランの心を癒してあげたい、なんて思っちゃったから。」


「国母は甘い考えでは務まりません。貴女は本当に立派です。自信を持ってください」


「皆んなが大切だと、言ってくれた自分を大切にします。だからもう、大丈夫です」

グリードマンは何故か、胸をホッと撫で下ろすような、そんな顔をしていた。


シークバレーを出発してから2日目である今日はあちらの二人と鉢合わせにならないように山の中腹を進んでいる。おかげで自然豊かな道で心が浄化されるような気持ちである。


窓の外に目を向けるとちょうど馬車が止まり、ハイドが心配そうに中を覗き込んでくれた、思っていた以上に近くに顔があってびっくりして内側のカーテンを思わずしめてしまった。


オーラリアはハイドを見ると時々心臓がバクバクと強く脈打つ事がある。
クランの事もそれなりに好きだったと思っているが、こんなに緊張した事がなく、まるで初めて恋を知ったような、そんな気持ちになっている。

その姿を見て密かにグリードマンは自分の初恋を思い出し、亡くなった妻を、思い出していた。

急にカーテンが閉められて心配したハイドはコンコンと扉を叩き声をかけてきた。


「オーラリア?何か困った事があったの?」

「わ!無いで…す!!ごめんなさい!」


慌てて扉を開けると、すぐそばに居たハイドにガン!と扉がぶつかる。

「わあ!ごめんなさい!!」

「いいよ、気にしていないから」


おでこを軽く手で押さえながらハイドはケラケラわらう…

「そんな事より、オーラリアも馬に乗ってみない?一緒に」


馬上から大きい手が差し出される。


「おもくない…ですか?2人も乗ったら…」


「大丈夫。オーラリアだったら、エースも喜ぶよ。」


そう言われておずおずと手を差し出す。馬車のステップから直接馬の背中へ乗り込むとフワッとサワラかな香りがした。
ハイドの香りにドキッとしていると、すかさず温かな柔らかい体に後ろから包まれる。


「オーラリアは馬に乗れるよね?そしたら前でいいと思うけど、やだ?」



やだ?のあたりで溢れる笑顔が“やだ”の答えが来ないことを確信しているような気がして突然恥ずかしくなり、ボン!と音を立てそうなほど顔を赤く染める。



「や…やだじゃ…ない…」

よかった、と手綱を握らせてくれるハイドとさらに体が密着する。心臓がさらに強く稼働する。

もっとくっ付きたいと思ってしまったのは心の奥深くに封印して、今を乗り切ることだけを考えることにした。


馬車よりも速いスピードで駆け抜けると目の前がキラキラと光って見えた。景色がどんどん通り過ぎていって頭の中がスッキリする気がした。

いつのまにか開けた野原に到着していて、馬が物欲しそうに止まり、新鮮な草をチラチラとみている…気がした。


「ちょっと休憩にしようか。エースもお腹がすいたみたいだ」



「はい、そうですね」


フッと温もりが離れたことに寂しさを感じてしまい、慌てて返事をする。木陰に腰をかけて馬車が追いつくのを待つ。

ただ隣に座っているだけなのにとても緊張してしまう自分に驚きを隠せなかった。

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