冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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25.流行病とオーラリア

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家族たちと合流して一週間がたった。
私が王都をたってからは大体1ヶ月ほどが経とうとしていた。その間にキャサリンたちの宿屋も営業を開始したし、お父様たちの診療所も評判が良く、騎士達や街の人たちが来院してくれている。

今、私の目の前には眉間の皺を今までで一番深くしたグリードマンが座っていた。

「あの、グリードマン…様?えっと…どうされましたか?」

今ではグリードマンの方が身分は上のため、私から話しかけるのは本当はルール違反だが、グッと険しい顔のまま、じっと座りっぱなしのグリードマンが心配でつい声をかけてしまった。

「オーラリア様、何度言わせるんですか?わたくしのことはグリードマンと、変わらずにお呼びください。貴女はこの国の敬われるべき功労者です。」

「それは…無理です…私はただの子爵令嬢ですから。」

「ふぅ。貴女は頑固ですからね。無理だとは思いますが…私は侯爵家のただの息子です。さらには嫡男でもありません。王都を出たと同時に家からも籍を抜かれていることと思いますよ?だから、私は平民ですから。オーラリア様の方が偉いのです。」

「そ…それは…でも…」

確かにそう聞いていたが、本当にそうなっているのかはわかっていない。それに、グリードマンは私の倍近く歳が上で最小まで勤め上げていた立派な人物だ。そう思うと、なかなか躊躇してしまう。

「さみしいのです。急に距離をとられると。私の事はもう、頼ってはくれないのかと。」


「そんな事ないわ!グリードマンがいなかったら、私はあのお城にいられなかった!!」


緑の瞳が珍しく弧を描いた。ほんの少し首を傾げて、まるで駄々をこねる子供を宥めるような穏やかな笑顔だった。


「では、今まで通り。お願いしますね。」

「わかりま…わかったわ。ありがとう」

「では、早速ですが、これはいいお話ではありません。控えめに言って、非常に困った事になりました。」

「控えめではなくすと?」

「…最悪です」

「わかったわ。聞きましょう。」


聞きましょう、と言ったものの、グリードマンは手に持った書類をギュッと握ったまま動かない。おそらく言葉を探しているのだろう。
と言う事は…


「…熱病が再び猛威を払い始めました。」

「やはりそうなのね。」

「隔離病院は今満室です。なんとか、回している状態ですが、次から次へと新しい患者が来ているようです。幸い、オーラリア様が調合した熱冷ましがありましたので死者は出ていない模様ですが、皆苦しんでいるそうです。」

「あの病院は50名は診られるようになってたのに、それほどなの?」

すると、少し眉を吊り上げてほんの少し怒気を孕んだ声色でグリードマンはつげる。

「50名。それはオーラリア様が診られたのです。優秀だったコットン医師、オーラリア様と言う司令官付きの医療軍がいなくなったあの病院には30名の患者で手一杯です。」


「そう。こ…聖女様は何をなさっているのかしら?たくさんやりたいことがあったはずよね?」

「どうやら、あるこーるしょうどく、とか、すいどう、とかアイディアはだすがどうやったら作れるのか、どしたら整備できるのかがわからず手詰まりになっているようです。水道?の工事のために川を掘り返したりしていて私たちが整えた下水もぐちゃぐちゃに混ざってしまったとか?」


「アルコール?それなら、飲料するアルコールの純度やアルコールの強いお酒を使うのはどう?蒸留酒なら代用できると思うわ。私も使っていたもの。」


「…」

「?どうしたの?」

「助けたいと思いますか?」

「当たり前よ。私で役に立つなら…でも、クランが、いえ、王様が許さないでしょう?私には口を出して欲しくないと思うの」

「いいえ…いいえ。きっと…」

グリードマンは続きを口にする事なくそのまままた黙ってしまった。明らかにしょんぼりしている。
背中を丸めて何だか可愛らしいネズミのようだ。

「ところでどこからその情報が来たのかしら?」

「それは…」

何か苦虫を噛み潰したような長い顔をしてグリードマンは口を閉ざした。おや?と思いじっと彼を見つめると、後ろの扉がガチャリと開いた。

「それは俺から説明しよう。オーラリア、待たせてごめんね。」

「ハイド様、そんなに待っておりませんので、心配しないでください」

「俺にも昔みたいに接して欲しいなぁ」

「それは、無理です。絶対に無理」

まぁ、今はいいよ。今はね。

と、笑ってない笑顔で軽くいなされた。ハイドはどさりとたくさんの書類をテーブルに置いて深いため息をついた。
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