冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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23.聖女は怒る

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「・・・へ!?」


夏美さんの言葉に私が驚き、またありえない位置で茎を落としてしまった。


「いいんじゃない?向こうはハルちゃんのこと好きなんだしさ、ハルちゃんも嫌じゃないでしょ?」

「嫌ってわけではないですけど・・・」

「じゃあもうちょっと都築さまのこと知ってみたら?それでだめだったら断ればいいと思うよ?どう?」

「う・・・。」


夏美さんの考え方に、私は何も言えなかった。

都築さまに言われた『断る理由がなければチャンスを』という言葉にもちゃんと応えれるものだ。


「そう・・ですね、何も知らないのにお断りなんて・・しちゃいけないですよね。」


夏美さんに話したことで私の考えがとりあえずはまとまった。


「じゃあ決めたこと、今、都築さまに伝えようか!」

「・・・へ?」


夏美さんの言葉に、私はしゃがんでいた身体を起こした。

そして夏美さんを見ると、その後ろ・・お店の入り口に都築さまの姿が見えたのだ。


「!?」

「さっき来店されてたんだよー。ちょうどよかったねっ。」


そう言って夏美さんは店の奥に行ってしまった。

残された私はゆっくり都築さまを見た。

彼は少し困ったように笑ってる。


「・・・すみません。」

「大丈夫、気にしないで。俺としてはいい話だったしね。」


都築さまはポケットからスマホを取り出した。


「秋篠さん、予定が無い日ってある?この前言ってたご飯・・・行こう?」


そう言われ、私は自分の予定を思い返した。

ここ1カ月くらいは何もなかったハズだ。


「土日なら仕事休みなので空いてますー・・・。」

「なら今度の日曜日でもいい?秋篠さんの気分が変わらないうちに行きたいし?」


笑いながら言う都築さまに、私は自分の顔を両手で隠すほかなかった。


「変わらないですよー・・・。」

「ははっ。・・・じゃあ11時くらいにマンションの下まで迎えにいくね?」

「わかりました、よろしくお願いします。」


こうして私は都築さまとご飯を食べに行くことが決定した。

でもまさか・・その当日に私のメインの仕事が知られてしまうなんて・・・

思いもしなかった。




ーーーーー




ご飯当日。


朝11時になる少し前に、私はマンションの外にいた。

人を待たせることがあまり好きじゃない私は待ち合わせ時間より早くに行動することが多い。


「今日はご飯だから・・・スカートでもいいよね・・?」


今になって突然自分の服装が正解なのかどうか疑問を持ってしまった私。

今更どうすることもできないから考えるだけ無駄だけど、気になってしまう。


「えー・・パンツのほうがよかったのかも・・?」


そんなことを考えてると、私の前に一台の車が止まった。

運転席に乗ってるのは・・・都築さまだ。


「秋篠さん、おはよ。隣、乗ってくれる?」


車の窓を開けてそう言った都築さま。

私は言われた通り、助手席に乗り込んだ。


「おはようございます。都築さま。」


シートベルトを締めると、都築さまは車を走らせ始めた。


「秋篠さんって食べれないものとか嫌いなものある?」


慣れた手つきでハンドルを握る都築さまを見ながら私は答えた。


「ないですー。・・・都築さまは苦手な食べ物あるんですか?」


そう聞くと都築さまは少し不服そうに話し始めた。


「ないよ?ないけど・・・」

「『けど』?」

「その・・『さま』ってつけるのやめない?なんか仕事してるみたいで・・・。」


そう言われ、私は言い方を変えることにした。


「えーと・・・都築さん・・・?」

「うん。ありがとう。」


都築さまの呼び方が変わったところで、私は今日の行き先を聞いてみた。


「あの・・ご飯はどちらに・・?」


何も聞いてなかった私は、ひとくくりに言われた『ご飯』がどこのお店なのか分からなかったのだ。


「あぁ、和食にしようかと思って・・・車で40分くらいのところにある『花鳥風月』っていう旅館にあるご飯屋さん。中庭が見えるんだけど花とかきれいだから好きかなと思って。」

「中庭があるんですか!?すごい・・・。」


珍しい造りのご飯屋さんだと知って、私はそのご飯屋さんが楽しみで仕方なかった。

中庭が気になって仕方がない。


「気に入ってくれたらいいけど。・・・そういえばこの前の乾燥剤のやつはできたの?」

「あ、今、乾燥剤に入れてますー。この前、茎を落としてしまったお花たちを買い取ったので作業に入りました。」

「どれくらいでできるの?」

「えーと・・・」



私はこの前説明したドライフラワーを詳しく話した。

一番ポピュラーな作り方と違って、茎は外さないといけないこととかを。


「へぇー、じゃあ花だけになるってことか。」

「そうですね。だから束ねたりすることが難しいですねー・・・。」


そんな話をしてるうちに車はスピードを落とし、木に囲まれたところに入っていった。

瓦屋根が特徴的な平屋の建物が目に入る。


「わ・・すごい・・・。」

「中はもっと驚くと思うよ?」


車は建物の正面玄関前に止められ、私と都築さんは車から下りた。

旅館の支配人のような人が出迎えてくれ、都築さんは車のキーを預けた。


「都築社長、ようこそお越しくださいました。お食事のご用意できております。」


支配人さんのその言葉に、思わず私は都築さんを見た。


「・・・『社長』!?」


驚く私を見て、困ったように笑いながら都築さんは言った。


「あー・・うん、うちの会社が手掛けてる事業の・・一つかな?」


都築さんの言葉に、私の頭の中は若干パニックだ。

事業の一つってことは、他にも何かしてるってことになる。


(都築さんってもしかして・・とんでもない大企業の社長さんなんじゃ・・・)


そんなことを考えてると、都築さんは私の背中をそっと手で押した。


「ほら、そんなことより中に入ろうよ。」

「は・・はい・・・。」


言われるままに建物の中に入ると、エントランスはものすごく広い空間が広がっていた。

玄関口は一段上がっていて、奥に滝のようなものが見える。

左手に旅館の受付場所のようなカウンターがあり、着物姿の人が何人かいたのだ。


「すごい・・『和』だ・・・。」


建物から従業員、そして装飾の一つ一つに統一感があって、別世界に入ったみたいに感じた。


「気に入ってくれた?ここ、結構力入れて作ったとこなんだよ。」

「そうなんですか!すごいです・・・!」


見惚れるようにして全体を見渡してる時、ふと視線に入ったものがあった。

それはエントランスの奥で『今』設置されようとしてる『お花』だ。

大きい花器にカラフルな花が所狭しと詰められてる。


(あれ・・・?)


活け方や彩なんかはきにならなかったものの、私は『人』に疑問を持った。

大きい花器を一人で抱え、ふらふらとふらついてるのだ。


「!!・・・危ない・・っ!!」


そう叫ぶのと同時に、その人は花器を床に落としてしまった。




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