冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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21.貴女が…

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「みなさん、昨日の傷はどうですか?突然訓練の邪魔をしてしまってごめんなさい」


どことなくソワソワした様子の騎士達に、オーラリアは気さくに声をかけた。
返事を受けて会話をしたかったが、ハイドがぐいっと間に入って来たため、会話は続かなかった。
何人かの騎士達の顔が見えるが、皆嫌そうにはしておらず、ほっと胸を撫で下ろした。

「コットン医師はまだ到着していないよ。診療は明日からになると思うが、お前達、何かあったか?」

ハイドの声はいつもよりずんと重くきついような気がした。軍隊をまとめるには厳しさも必要なのだろうと、一人納得していると、一人の騎士の足元で目が止まった。


「あの、」

目の前に立ち塞がるハイドを押し退けて、一人の若い騎士の足元に跪く。

「足、どこが痛いんですか?」


「あ!あの、僕はいえ…大丈夫です」


若い騎士は申し訳なさそうにしゃがんで、顔を真っ青にしている。どうやら遠慮しているようで、しゃがむ動作もどこかぎこちなかった。

容赦なく革靴を脱がせると、踵の部分からじわじわと血がでていた。すぐそばにあった清潔な布をそっと当てがうと、「うっ」と痛そうに悲鳴をあげた。

「靴ズレですね?いつからですか?ハイド様、この少年には皮のブーツが大きすぎるようです。こういう小さな怪我一つが軍の機動力に関わってくるんです。小さな痛みでも、必ず士気にかかわります。いつも元気で万全、は難しいでしょうが、小さな怪我でも必ず報告をして…と…すみません、私ったら…」


「よけいな…ことでした、すみません。」

『オーラリアは…自信を持っているようだから口を出さずにいたが、聞き入れないだろう?貴女は』

ふと、クランに言われた言葉が頭の中に響いた。
そうだ、私はいつもこの調子で周りの人を困らせていたんだ。他がためにと思ってもそれは自己満足でしかない。
そう思うとどんどん苦しくなって来た。息をしているはずなのに、全然空気が足りない。

喉の奥に何かが詰まっているような、そんな苦しさだった。


「余計なことじゃない。教えてくれてありがとう。」

先程まで靄がかかっていた頭の中が急に晴れた。背中にポン、と暖かい刺激を感じた。
ひゅっと新鮮な空気が口の中に入って来たと思ったら、目の前にハイドの微笑みがあった。

気がつかないうちにポロポロと涙が流れていたようで、目の前にしゃがみ肩を抱くことで騎士達から隠してくれたようだ。

「こういうことは、やはり貴女に聞くのが一番だな」


そう言って目頭を親指で優しく拭ってくれた。
大きな手が小さくなってしまった頬をすっぽりと包んでくれた。


「彼に合ったブーツを用意して。他にも小さな怪我でもいいから、痛みに耐えている者がいたら言うように。オーラリアはどんなに小さな怪我でも治そうとしてくれるよ。さぁ、オーラリア。忙しくなるぞ。」

それから、もちろんコットン医師がきたら、だけどね。といたずらそうに笑った。

あぁ、彼はこうやって私の心の傷を一つづつ癒してくれるのだ。そう思うと、今度は優しい涙が溢れて来てしまった。顔を赤くしてボロボロとなく私をみて、騎士達は戸惑い口々に「オレ達は貴女様の味方ですから!!」とか、「貴女のことはオレたちが守りますから!」と、励ましてくれている。
今まで、こんな風に認めてもらうことは無かった。やって当たり前だと、そう言われるばかりで…

「私は…辛かったんだわ。苦しかった…助けてくれてありがとうシーク….」

ハイドが何とか私を立たせてくれた。ちょうど、彼の耳元に自分の顔がある事に気がつくと、つい、ぽろっと心がもれてしまった。

「もっと早く…手を差し伸べればよかった。あぁ、そうか…俺は」


不意にギュッと抱きしめられる。たくさんの人たちが見ているのに、ハイドは力を緩めることなく首元に顔を埋めてそのまま呟く。


「貴女が好きです。」

そっと首筋に触れる柔らかな唇は、じっとりと熱を帯びている。自分の呼吸音と心臓の音がとても大きく聞こえた。
思い返せば、クランからはそんな感情を向けられたことは無かった。だから、それが何なのかはわからない。でも、今、抱きしめられていても、冷たくもないし、不快でもない。
ただ、暖かくて心地よかった。

「貴女にも、俺を好きになってもらえるように頑張るね」

そう言って診察室にいた騎士達を外へと連れて、行ってしまった。

ユウリと二人で残された私はどうしていいかわからず、抱きしめられた時のポーズのまま、思考が停止してしまっていた。

「オーラリア様、嫌だったら、僕に言ってくれれば蹴散らしますからね。」

とそれはもう、満足そうに微笑みながらユウリが声をかけてくれたのをスイッチにやっと動けるようになり、思わず、自分の両の頬をバチン!!!と平手で挟み、気合いを入れた。

どうしたらいいのかわからず、家族がここに到着するまで一心不乱に温室の手入れをすることとなった。
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