冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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19.オーラリアは怒られる

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一日中砦の方ですごし、ハイカロリーなご飯やおやつを堪能して来たオーラリアだったが、現在、ディナーの時間に慌てて帰宅したハイドにじっと見つめられ小さくなっていた。

「一人で訓練所に行ったって?」


「えぇ…あ、はい。あの…怒ってい…ますか?」


「怒ってる。」


「あの…抱きついたりはしていません。」


ハイドはグッと眉間に皺を寄せて腕を前で組んだ。
いつもニコニコしているハイドがこんなに怒っているのを初めて見たオーラリアは大変なことをしてしまったととても落ち込んだ。
また失敗してしまったのか、やはり自分は何の役にも立たないのかと、気を落としてしまいそうになった。


「砦を守る騎士たちを、大切にしてくれてありがとう。でも、オーラリアが危険な目に遭ってしまったら…俺は立ち直れないんだ。行きたい所には行っていい、やりたい事もやっていい、頼むから、一言声をかけて欲しい。一人にならないで欲しい。」


「騎士の方々がいるから大丈夫かと…ふらふらといなくなってすみませ…」


「よく一人で隔離病院に行っていたよね?“もし、病に倒れて帰って来なくなったら?”と怖かった。どんなに危険な場所でも薬草の為なら突っ走っていってしまうよね?“もし、怪我をしていたら?”と心配だった。俺のいない場所で傷ついたり、消えてしまったりしないで欲しい。本当はずっと離れないでオーラリアのそばにいたいんだ。」


ほとんど、プロポーズのようなその言葉にオーラリアはつい、頬を赤く染める。
勘違いしてはいけない、こんな醜い、何の役にも立たない自分を好きになる人なんていないのだ、あれだけ求められたのにあっさりと捨てられた自分には、誰かに愛される要素などないのだと、色めきだった心に深く言い聞かせる。
何とか火照る頬を落ち着かせて、ふう、と息を吐く。
黙って後ろに控えていたユウリがハイドにこそっと耳打ちをする。
先程までの気むずかし表情が一瞬青くなりすぐに困ったような、照れているような顔になった。

そうかと思うと、慌てて声をかけて来た。

「いや、変なことを言ってごめん。忘れて欲しい…」

そうだ、やはり彼にとっては“変なこと”なのだ。
自分のときめく胸に“やっぱりね”と喝を入れてニコッと笑って見せた。

「では、早速ですが明日は養蜂場を見に行きたいので連れていってくれますか?」

そうお願いすれば、シアとユウリがにっこりと微笑み「わかりました」と納得してくれたようだ。

食事が済むと、ハイドは小さな箱をオーラリアの目の前に置いた。中には蜂蜜色の宝石のピアスが入っていた。
ブルーの金属で花の形に細工された台座がとても珍しく、可愛かった。

「街の視察に行ったらそのピアスがあって…オーラリアに似合うんじゃないかと思ったら買っていた。」

「とても綺麗な色!ハイド様の瞳と髪のようですね。いただいていいのなら、とても嬉しい…」

オーラリアが顔を上げると、ハイドは先ほど食べたイチゴよりも顔を真っ赤にして驚いていた。
つられてオーラリアも顔を赤く染めてしまった。
それから、一言二言言葉を交わしたが両者共に何を話したのかは覚えておらず、大人しく各々の部屋へと退散したのだった。




傷がついても嫌だなと思い、もらったばかりの可愛らしい箱を机の中にしまおうとした所、シアが部屋へやって来て、ピアスをあっという間にオーラリアの耳へと装着させた。

そういえば、装飾品をプレゼントされるなんて、初めてだと。人知れず喜びながら鏡に何度も耳元を映して喜んでしまった。
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