冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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11、王妃は感謝する

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「勝手をしてすみません。オーラリア様。」


グリードマンは腰を90度に曲げて勢いよく礼をする。

「先日、貴女さまに離婚をしたいと言われてからこの書類があることを思い出し、夜のうちに探し出していたのです。涙に溺れそうな貴女を見ていたら、あの男から離れた方がいいのではないかと思って…」


なんだか、グリードマンが泣いている気がして肩にポンと手を置くとそっと顔を上げてくれた。いつも深いシワが刻まれている眉間には相変わらず深いシワがある。だけど、眉が寂しそうにハの字を描いている。

「いいのです。私ももう終わらせようと思っていました。グリードマン様、どうか格下の私に頭をお下げになるのはやめてくださいませ。私はもう、王妃ではないのです。」


「そんな…」


「まぁまぁ、そんな話はあとで。やっと合流できたんだから。」


ついに泣きそうになったグリードマンの言葉をシークが遮る。今朝、視察に見せかけて私だけ王都を出た。
山の中腹に数人の騎士と共に潜伏していて、クランに三行半を突きつけて来た、グリードマン、シーク、キャサリン一行と先ほど合流した。

思いの外大人数で、グリードマンの娘やキャサリンの旦那様など、旅の一座位人数がいた。


「お二人とも、ありがとうございます。私の為に、勤めを奪ってしまった。住むところも、本当に…」

私が我慢していれば、この人達にこんなことさせなくてよかったのにと思うとつんと鼻が痛くなった。

「皆、シークバレー領に移住したいと思っていたんですよ。近年人気がありましてね。オーラリア様のご家族もすでに向かっていますよ」


グリードマンがいつものように、淡々と報告をする。
その変わらない声に安心をする。嘘ではないのだと、お世辞ではないのだと。

シークが統治する、辺境シークバレーは名前の通り谷の間にある領土だ。探してでも訪れたい谷間の町。
隣国との境にあり、その名の通り、砦としての役目を果たしている。
自然豊かな場所で、シークのおかげで隣国といい関係を作っていて平和で穏やかなその町は今では王都よりも人気があるそうだ。

流行病の時も、私やグリードマンの助言を受けいち早く対策をしたおかげで、死者を出さず鎮静化させることに成功した。

名物はイチゴとラベンダー。唯一心配なことといえば寒く、4の季節には雪がものすごく降ることだ。


シークは私たちを丸ごと引き受けてくれるという。グリードマンは執事として、キャサリン一家は宿屋を一軒任されるそうだ。
知らずにいたが、オリバー伯爵は城では料理長をしていたそうだ。あの優しそうないつも穏やかな料理長がキャサリンの旦那さんだったとは驚きであった。
そして、私たちコットン一家には診療所兼入院施設を任せてくれる。

リリー、マリー、サリーやグリードマンの娘さん、そのほかの若い者たちもそれぞれに病院で共に働いたり、辺境伯の館で働く予定らしい。

いつから、こんな計画をしていたのかと聞いてみたところ、いつでも助けられるように準備していた。
と優しい眼差し付きで答えられた。

ふと目の前に座るシークと目が合い、熱が顔に集まるのがわかった。

「…オーラリアって呼んでいい?」

「もちろんでございます。前王弟殿下」


「…ハイドと呼んで欲しい。」


「無理です。身分が違いすぎますから。」



「ハイドと呼ばなければ返事しないから」


そういうとニッと白い歯を見せながら笑った。
細められた金の瞳がキラキラと光って綺麗だった。



「ハ…ハイド様…この度は助けていただき、ありがとうございます。このご恩はいつか必ず…」


「うーん…まぁ、今はいいか。これからね。」

シークはなんだか納得のいっていない様子だったが、少し嬉しそうに、うん。と頷いた。

「レーベルの名を捨てたときにね、今の名前にしたんだ。ハイドだけは昔の名前を残したんだ。ハイドアンドシーク。俺は歴史に名を刻まず隠れて過ごしたかったから。その言葉を少し変えて新しい名前にしたんだ。」


ハイド・レーベル王弟だったころ、確かに彼はそう名乗っていた。前王が儚くなってから今の名にかえ、元から過ごしていた辺境の領主となった。

優秀な補佐がいるそうで、グリードマンがその人に合うのを楽しみにしているようだった。

こうして、追ってにおいつかれることなく、5日かけた穏やかな逃避行は幕を閉じ、皆無事にシークバレー領の門を潜った。
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