冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩

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10.王は自分の過ちに目を向ける

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「婚姻関係を始めるにあたって、オーラリア子爵令嬢は“貴方が私を必要としている間、側にいます”と宣言され、書面にも残されていました。その、オーラリア様が今朝“自分は必要か”と陛下に確認され、“必要ではない”とお答えになられましたよね?」


ペラっと差し出された書類には確かにオーラリアの字でそう記してあった。流れるようなそれでいて、優しいあの字を間違えるはずがない。下には僕の署名もある。

少しずつクリアになっていく視界をこらすと、先程まで気にならなかったが、グリードマンの後ろにはいつの間にかシークやオーラリアの専属メイド達が控えている。
ゾクリと背中を冷たい風が吹いて行った気がした。


「必要ないなんて言ってない。何故そうなるんだ!」

「言いましたよ。今も。変わりはいるから、仕事をしないなら要らないと。」

「いや!そういう意味ではない!」

僕は慌てて否定したが、5人はそんな言葉まるで受け付けないかのようにツンと澄まして礼をとる。

「証人は前王弟、ハイド・ランド・シーク様と、グリードマン侯爵家子息である私、オリバー伯爵夫人である、キャサリン・オリバー、その娘のマリー、サリー、リリーです。あぁ、陛下ご安心ください、同意は必要ありません。あと、不躾ですがわたくし、ダン・グリードマンはじめ、オリバー一家は本日付けで王宮を辞させていただきます。ハイド殿下が統治するシークバレー領へと移動することになりました。さぁ、みなさん、行きましょう」

間髪いれずに一気に喋るとグリードマンは、シークにキャサリンにメイドの3人をつれてあっという間に王座の前を辞した。どういう事だ?確かにいつもはオーラリアも報告に来るのにいない。
今朝のことをねに持っていじけているんだと思っていた。

先程までの会話を思い出してみると、グリードマンはずっと、オーラリア様と呼んでいた。

いつもは王妃殿下と呼ぶのに。


全身の血が凍りついたように冷たい。隣でここみがなにか言っているが今はそんなもの、耳に入らなかった。

必要ないなんて思っていない。

彼女がいないと僕は生きていけない。彼女がいたから立ち直れたんだ。国も、僕も。

柔らかな温かい微笑みを思い出して胸がヅキンと思い切り痛んだ。

変な意地を張ってオーラリアに冷たくし過ぎてしまった?でも、ここみのことは彼女もわかってくれているはずだ。

では、何がいけなかったんだ?


病院を任せっきりにしたことか?

でも、僕が行ってもいつも座っているだけだ。行かなくても変わらないだろう。

オーラリアのここみへの仕打ちを注意したからか?

でも、ここみの意見はいつも、裏どりができた。料理長やメイド達、みんなが口を揃えてここみがかわいそうだと言った。
異世界の知識は確かに新鮮で画期的だった。

じゃあ、なんだ?今朝きつくせめたから?

でも、王宮で冷遇されているオーラリアにアドバイスをしなければさらに悪評がたつ。それに、いじめなんてして欲しくなかった。あの、優しいオーラリアがそんな事をした事に怒りを感じたんだ。


足からどんどん力が抜けていく気がする、僕の世界から彼女が消えようとしている?




婚姻証明書は?あれに署名をしたはずだ、それを破棄するには…



「神殿に規制線をはり、宰相、王妃関係者が現れたら捕獲しろ!それと急いで大神官を呼べ!!もし間に合わず、王都を王妃が出ようとしても通すな!!」


今までにないほど焦って指示を出した。無駄かもしれないが、そのまま、離宮へと駆け出した。





おかしい。離宮がもぬけのからだ。いつから準備をしていたんだ?
今朝は確かにここにオーラリアが暮らしていた。

王宮に、オーラリアが帰ってきてから日課にしていた共にとるディナーや朝食がなくなった。
部屋も、僕の部屋との続き部屋ではなくなった。
政務もほとんど別にした。


文官やメイド達からの報告で、オーラリアがそう望んでいると聞いたから。本当は僕には嫁ぎたくなかったと…
これ以上嫌われないように、離れた。

ここみをいいわけにして…

それに…


「クラン!まって!もう。オーラリア様、やっぱりでてったでしょ?もう放っておいて私があなたを支えます!」


「いやだ。オーラリアがいない王宮なんて我慢できない。ここみ、君は昔の私のようで放っておかなかっただけで、そんな感情を君に抱いたことはないよ。」


「な…なんで?!あんなに思わせぶりな態度をとっておいて?!ご飯も食べていたしベットも一緒にしていたじゃない!!!!」


「君が寝るまでメイド達もいたし、そのあとは自室に戻っていた。僕が愛しているのはオーラリアだ。」


ここみの顔が、今までと比べ物にならないような欲にまみれた女の顔に見える。歪んだ笑顔を見ていると疑問が浮かんだ。


「オーラリアは本当に君をいじめていたの?」

鋭い眼差しをメイドに向けると一瞬たじろいだ。指示を出すために集めた文官達も、僕と目を合わせようとしない。


そこへ、やって来たのは調理場のシェフ、騎士達、オーラリアと共に仕事をしていた文官達だった。

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