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3.王妃は手袋をする
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「キャサリン、この手にハーブビネガーをかけて?」
出発した馬車の中で正面に座るキャサリンにいの一番にお願いをする。
隣に座るシークがイタズラな笑顔で
「熱湯かけたほうがいいんじゃない?」
と揶揄ってくる。
王宮では、仰々しく接してくるが、気のおけないもの達だけになると素のシークがでてくる。
その隣にいつの間にか乗り込んでいたグリードマンが難しい顔をして座っていた。
「王がなぜあの娘をあんなに優先するのか、わかりませんね。なぜ王妃殿下は王を諌めないのです?」
「…ねぇ、グリードマン、王族は離縁ってできるの?」
私の急な発言に、同乗していた3人はビクッと肩を揺らす。
「私はね、諌めてまで私を見てもらいたいと思ってないの。そばに居て、支えて欲しいって言われたからそばにいるだけ。それは愛ではなく情なのよ。私なんかいらないと言われればいつだって消えます。」
そう。情はある。家族…さしずめ、弟のような。そんな情。だから、彼に他に愛する人が出来ればいつだって身を引ける。そう自分の心に言い聞かせている。
それに、いくら強くても粗末に扱われれば私だって傷つく。
ガタン、と車輪が音を立てて小石に乗り上げる。
その衝撃で我に帰ったグリードマンはおホン、と咳払いをして答える。
「離縁は…どうでしょうか…どうしてもというなら、下賜を狙ってみてはいかがですか?」
「それは、不可能よ。私みたいな女を妻に望むものはいないわ。辛うじて乙女だけど、みんなはそうは思わないでしょう。」
「私が男で、爵位があれば、私が手をあげましたのに。」
キャサリンが悔しそうに呟きながら、私の手を拭う。
目の前に座っているシークはポカンと口を開けたまま動かないでいる。
グリードマンにドン、と脇腹を肘でつつかれて、「あ!ああ、あの、え?」と挙動不審になっている。
その様子を見て、はぁ。と深いため息をついたグリードマンは思いもよらない告白をする。
「わたくしは、妃殿下を好ましく思っています。人間として…ですが、年も離れていますし、何より、死別した妻を永遠に愛すると決めています。それでも、逃げたくなってどうしようもなくなりましたら、私があなたの逃げ場所になりましょう。娘も、亡き妻を必死に助けようとしてくれた貴女なら許してくれるでしょう。」
そう、グリードマン伯爵は1年前に奥さんを流行病で亡くしている。何とか助けたくて治療したが、助けられなかった。1年前はまだ隔離病院に寝泊まりして、患者さん達の治療に走り回っていた。
そりゃ、夫婦生活なんてしている場合ではない。
というか物理的にできない。
キャサリンの心遣いとグリードマンの『恩返し』に少し勇気をもらえた気がした。先程までの暗い気持ちを押し込める。
「二人ともありがとう、お世辞でも嬉しい。」
わかってない気がする、と二人が呟いた。
しばらく走ると、病院が見えてきた。私はポケットに忍ばせておいた手袋をする。
部屋を出た時点でしておけばよかった。
そうすれば、こんなに胸が痛まなかったかも知れない。
先程はあんなふうに言ったが、クランに愛を囁かれれば胸は踊るし、手を取られれば頬は赤くなる。
少しずつ、少しずつ、好きになっていたのだ。
だから、これ以上触れないで欲しい。
私を選ばないのなら、もう自由にして欲しい。
諌めたところで、嫌われるくらいなら嫌われる前に目の前から姿を消したい。そう思ってしまう。
「オーラリア!!オーラリアはどの馬車にいるんだい?!」
馬車がとまり、外から久しぶりの父の声がする。
パチン!!と両手で頬を軽く叩いて笑顔を作る。
目の前に座っているシークが切なそうに笑顔を返してくれた気がした。
「お父様、お久しぶり!」
「ああ!久しぶり、2年ぶりか?会いたかったよ。」
「私の可愛いオーラ!」
「オーラリア!痩せた?やつれた?」
父と母。それから、心配症な兄。
私だって家族から引き離されている。それは他でもない、クラン、貴方の為に。
でも私は会えるから、ここみの辛さとは比べ物にならないそうだ。
まだ、ここみがこちらにきてまもないころ家族に会いたいと泣いていたので、「私も家族に会いたいさみしさはほんの少しわかるわ」とここみに共感しようと発言した、「私はもう会えないのに!!オーラリアさんはいつでも会えるんだから、この気持ちわかるなんて言わないで!」ともっと泣かれてしまった。
確かに、私が考えなしだったと反省したが、クランまでもが、「オーラリアはもう少し人の気持ちを考えたほうがいい」と言った。
医師として忙しく働いているコットン子爵家とは、スムーズに連絡が取れず、私自身も動き回っている為中々会いにいけない。
もっとも、前王を救えなかった私の父のことは恨んではいないが、落ち着くまでは会いたくない、オーラリアも我慢して欲しい。と言ったのは誰だったのか。
クランの言いなりになっているのも馬鹿らしいと思い、それから隔離病院の慰問に訪問医としてコットン一家を呼ぶことにきめた。
クランには報告書を出しているが、どうせ見ていないだろう。斜めに押された承認印をみて、そう思った。
出発した馬車の中で正面に座るキャサリンにいの一番にお願いをする。
隣に座るシークがイタズラな笑顔で
「熱湯かけたほうがいいんじゃない?」
と揶揄ってくる。
王宮では、仰々しく接してくるが、気のおけないもの達だけになると素のシークがでてくる。
その隣にいつの間にか乗り込んでいたグリードマンが難しい顔をして座っていた。
「王がなぜあの娘をあんなに優先するのか、わかりませんね。なぜ王妃殿下は王を諌めないのです?」
「…ねぇ、グリードマン、王族は離縁ってできるの?」
私の急な発言に、同乗していた3人はビクッと肩を揺らす。
「私はね、諌めてまで私を見てもらいたいと思ってないの。そばに居て、支えて欲しいって言われたからそばにいるだけ。それは愛ではなく情なのよ。私なんかいらないと言われればいつだって消えます。」
そう。情はある。家族…さしずめ、弟のような。そんな情。だから、彼に他に愛する人が出来ればいつだって身を引ける。そう自分の心に言い聞かせている。
それに、いくら強くても粗末に扱われれば私だって傷つく。
ガタン、と車輪が音を立てて小石に乗り上げる。
その衝撃で我に帰ったグリードマンはおホン、と咳払いをして答える。
「離縁は…どうでしょうか…どうしてもというなら、下賜を狙ってみてはいかがですか?」
「それは、不可能よ。私みたいな女を妻に望むものはいないわ。辛うじて乙女だけど、みんなはそうは思わないでしょう。」
「私が男で、爵位があれば、私が手をあげましたのに。」
キャサリンが悔しそうに呟きながら、私の手を拭う。
目の前に座っているシークはポカンと口を開けたまま動かないでいる。
グリードマンにドン、と脇腹を肘でつつかれて、「あ!ああ、あの、え?」と挙動不審になっている。
その様子を見て、はぁ。と深いため息をついたグリードマンは思いもよらない告白をする。
「わたくしは、妃殿下を好ましく思っています。人間として…ですが、年も離れていますし、何より、死別した妻を永遠に愛すると決めています。それでも、逃げたくなってどうしようもなくなりましたら、私があなたの逃げ場所になりましょう。娘も、亡き妻を必死に助けようとしてくれた貴女なら許してくれるでしょう。」
そう、グリードマン伯爵は1年前に奥さんを流行病で亡くしている。何とか助けたくて治療したが、助けられなかった。1年前はまだ隔離病院に寝泊まりして、患者さん達の治療に走り回っていた。
そりゃ、夫婦生活なんてしている場合ではない。
というか物理的にできない。
キャサリンの心遣いとグリードマンの『恩返し』に少し勇気をもらえた気がした。先程までの暗い気持ちを押し込める。
「二人ともありがとう、お世辞でも嬉しい。」
わかってない気がする、と二人が呟いた。
しばらく走ると、病院が見えてきた。私はポケットに忍ばせておいた手袋をする。
部屋を出た時点でしておけばよかった。
そうすれば、こんなに胸が痛まなかったかも知れない。
先程はあんなふうに言ったが、クランに愛を囁かれれば胸は踊るし、手を取られれば頬は赤くなる。
少しずつ、少しずつ、好きになっていたのだ。
だから、これ以上触れないで欲しい。
私を選ばないのなら、もう自由にして欲しい。
諌めたところで、嫌われるくらいなら嫌われる前に目の前から姿を消したい。そう思ってしまう。
「オーラリア!!オーラリアはどの馬車にいるんだい?!」
馬車がとまり、外から久しぶりの父の声がする。
パチン!!と両手で頬を軽く叩いて笑顔を作る。
目の前に座っているシークが切なそうに笑顔を返してくれた気がした。
「お父様、お久しぶり!」
「ああ!久しぶり、2年ぶりか?会いたかったよ。」
「私の可愛いオーラ!」
「オーラリア!痩せた?やつれた?」
父と母。それから、心配症な兄。
私だって家族から引き離されている。それは他でもない、クラン、貴方の為に。
でも私は会えるから、ここみの辛さとは比べ物にならないそうだ。
まだ、ここみがこちらにきてまもないころ家族に会いたいと泣いていたので、「私も家族に会いたいさみしさはほんの少しわかるわ」とここみに共感しようと発言した、「私はもう会えないのに!!オーラリアさんはいつでも会えるんだから、この気持ちわかるなんて言わないで!」ともっと泣かれてしまった。
確かに、私が考えなしだったと反省したが、クランまでもが、「オーラリアはもう少し人の気持ちを考えたほうがいい」と言った。
医師として忙しく働いているコットン子爵家とは、スムーズに連絡が取れず、私自身も動き回っている為中々会いにいけない。
もっとも、前王を救えなかった私の父のことは恨んではいないが、落ち着くまでは会いたくない、オーラリアも我慢して欲しい。と言ったのは誰だったのか。
クランの言いなりになっているのも馬鹿らしいと思い、それから隔離病院の慰問に訪問医としてコットン一家を呼ぶことにきめた。
クランには報告書を出しているが、どうせ見ていないだろう。斜めに押された承認印をみて、そう思った。
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