悪役令嬢?そんなの知りませんが迷惑です

空橋彩

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本編2

ヒロインはヒロインらしく仕事をします

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突然目の前に現れたクレア様は、イルーラを見て顔色を変えた。きっと、知ってたんだ。イルーラが何故視力を落としてしまったのか。そもそも、誘拐されていると。

「クレア様、イルーラは私の弟でした。ある日突然孤児院から誘拐されたのです。そして、魔力による怪我で視力のほとんどを失っていました。」


「そ…そう。でもわたくしは…イルを従者として大切にしたわ!!わたくしは誘拐なんかしていないし、怨まれる筋合いはなくてよ?」


「はちゃめちゃに炎で焼いておいてそれはないよ。ご飯だってろくに出さなかったそうじゃない」

ヴォルフのお兄さん、この国の王様がそう助言してくださる。ヴォルフが人の記憶を読める事は有名な話で、彼らはイルーラの過去を見ている、と普通なら気がつくだろう。

「それは、謝って…許してもらったのです!ヴォルフレット先生!早くわたくしを助けてください!」


「何故俺が助ける?」


「これ以上傷つかないよう守ってやらねばの様だなっておっしゃったじゃないですか!アマリリスさんをあの時わたくしから遠ざけてくださったでしょ?嬉しかったです。婚約も吐きしていますし、ドレイク様からはまだ正式に婚約の打診を受けてない今、わたくしがヴォルフレット先生を癒して差し上げます!!もう、我慢しなくて良いんですよ!」


「俺はアマリリスと結婚する。何故お前に求婚するんだ?守ってやると言ったのは、アマリリスの事だ。お前は勝手に被害者になってアマリリスを傷つけていた。その噂とやらも、自分で言っていただけじゃないか。アマリリスや他の生徒からお前の噂なんか聞いた事ないぞ。何故みんながお前の話をしていると思うんだ?」


「は?そんな…」


ヴォルフレット先生は学園にいた頃のような、冷たい眼差しをしている。初めの頃のキツイ先生を思い出してブルッと少し震えた。
その震えに気がついて王妃様がぎゅっと手を握ってくれた。暖かな魔力が流れてきて心が落ち着いた。

クレア様はどうしてか、ヴォルフレット先生やドレイク様、ランプール様その他有力貴族の方々に愛されていると思っているみたい。
そして、私も、彼らに愛されたいと思っていると…


クレア様のお顔からジワジワと黒いモヤが漏れ出る。
あれは…イルーラが慌てて私の前に出る。

「怨みの念だ。お姉ちゃんは下がって。ついでに王様たちも」

「僕たちがついでなんて、なかなか良い護衛を雇っているな、リリス!」


「護衛ではなく、家族です。弟なのです。」


「へぇー!!王家で雇おうかなぁー」

「呑気に喋ってないでください。ほら!もっと隅っこに寄ってくださいよ!!」



「わたくしは…逆ハー愛されルートじゃなかったの?あんなに人に尽くしてきたのに?悩みだって聞いてあげたじゃない!!!」

「頼んでない。」


「何でよ!!大体悪役令嬢がザマァ回避するために努力したらうっかり愛されちゃうって決まってるでしょ?!あんた!!ヒロインが本当はヤバいやつって決まってるの!!早く本性出しなさいよ!!!」


クレア様はよくわからないことを叫びながら、黒い炎に巻かれる。流石に慌てて護衛の騎士がドレイク様や王様、お妃様を非難させる。

私はイルーラとヴォルフレット先生、カイン様たちと臨戦体制をとる。


「ヴォルフレットさまぁ!ほら、わたくしはベタベタした女じゃないですよ?サバサバして、理解もある男っぽいって言われちゃうんですよ、よく。」

サバサバって何かしら?雨の音?でも、クレア様は自分の理想の姿と本当の姿がかけ離れているみたいで言っていることがチグハグだ。ゴォっと音を立てて炎が飛んでくる。カイン様とヴォルフレット先生がシールドをはって塞ぐ。

「あちち!やば!」

とカイン様が手をひらひらさせる。

「恨みが強いのか?」

ヴォルフレット先生も少し顔を歪めている。イルーラがすかさず前に出て加勢する。

「これは…妬みですね。どちらかというと闇魔法に近いと思います。」


闇魔法…
イルーラの言葉を聞いて、私は周りに水の膜をはる。ジュワッと音を立ててクレア様の炎を消していく。
回復魔法、癒しの効果があるということは、多少は癒し属性があるという事で…闇魔法には効果は抜群だと思ったのだ。闇は当たって、勢いのあった炎はチラチラと弱まっていった。


「ほら!!男はべらせてドヤ顔?!ちょっと可愛いからって、両親にキミ悪がられて捨てられた孤児じゃない!しかも平民よ?どこが良いのよ!貴族で、美しくて、優しくて、みんなから人気のある私の方がずっと良いじゃないの!!!!」

クレア様の瞳がどんどん赤く染まっていく。顔つきもキツくなっていく。その時、頭の中に小さな小さな声がした。


「やめて…やめてよ。もうやめて。だれか、たすけて」
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