悪役令嬢?そんなの知りませんが迷惑です

空橋彩

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番外編

婚約者は犠牲にする(ブラッドリーから見た世界)

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「は…え?」

あまりの現実味のない呟きには?と悪態をつきそうになる。魅了魔法なんて御伽話の中の魔法だろう?

「あの子は…あの子は魅了魔法が使えるのです。珍しい治癒の使い手でもあります。まだ魔力が安定していないので、魅了の魔力が漏れ出ているんでしょう」

「ちょっと待ってくれ、クレア。何故そんなことを知っているんだ?」

生徒会長がクレアに慌てて質問をする。名前を呼び捨てにするほど仲がいいのか…いっそのこと…なんて思ってしまった。

「わたくしは…予言の力を持っているのですが…彼女が、互い稀なる魔法の才能を持っていることを知っています。そしてこの国にとって、かけがえのない存在になることも…だから、助けてあげたかったのです。」

「彼女を守りたいって言うの?婚約者を奪われそうになっているのに?」

淑やかに口の前で手の指をギュッと絡ませて祈りのポーズをするクレアの瞳から、涙が流れた。生徒会長はそんなクレアに優しく、諭すように声をかける。

「はい。彼女がブラッドリー様といることが幸せなら見守ってあげたかった。でも…他の男性にも手を出しているなら…わたくしの大好きなブラッドリー様を返して欲しいって思ってしまったのは確かです。ごめんなさい」

「なんと、他の男性にもか。確かに可愛らしいお嬢さんだったが…君の方が美しいだろ?なぁ、ブラッドリー」

「え…えぇ、それはもう。でも、僕が…その…魅了魔法にかてなかった?せいで君を傷つけてしまったんだね。これからは、彼女に近づかないようにする。本当にすまなかったよ」

クレアの心を繋ぎ止めるために、僕は魅了魔法にかかったふりをすることにした。
アマリリスさんには申し訳ないと思いつつ、僕の結婚にかかっている領民の命を優先しなければならないからだ。

僕が認めたことで、他の犠牲者にも話てあるとクレアは言い出した。
アマリリスさんに魅了されるものが高位の貴族男子ばかりであったため、今後の安定をはかり、彼女を隣国へ留学させることになった。
彼女を縁もゆかりもない厳しい国外へ行かせる事で、謹慎処分をさせるという事にした。
彼女に会わなければ、魔法の力は弱まる、とクレアは言った。


彼女にこの話をするのは、魔法テストの時だ。今後このような事がないよう、また、他にも被害者がいたら気づけるよう生徒たちの前で断罪する事にした。

いよいよその時。クレアにベタベタくっついていた従者は、この件について納得いってないようで今日は僕だけがクレアをエスコートした。

つらつらとありもしない彼女の罪をクレアがはなす。
可哀想なアマリリス…瞳が赤く、潤んでいる。

隣国に留学したら、僕がこっそり会いに行ってあげよう。そして、許すと伝えて弱った心を癒してあげるんだ…そう、一人で今後の行動を思い描いていたら、あいつが現れた。


いつも、もっさりとして全人間を恨んでいるような。教鞭以外で喋ったところはあまり見ないし、いつも不潔なような…どんよりしたやつ。
見るからに怒り、気が立っているのがわかる。魔法のオーラがジリジリと蜃気楼のように彼を包んでいた。

アマリリスが恐怖で倒れ込んでいる。隣にいた同じ学年だかの男が支えている。あそこに僕がいられたら…なんて考えてしまった。

「もしかして…ヴォルフレット先生もわたくしの為に怒ってくださってるの?わたくし、先日先生にもアマリリスさんの魔力について相談に行ったのです。ブラッドリー様とのことも、ごめんなさい、少しだけとご相談したの。」

クレアはそう言って僕の袖口をギュッと摘んだ。スッと後ろに隠れて何かをぼそっと呟いた。

「これって…よくある立場逆転エンド?」

その意味は分からないが、現れたあいつが口にした言葉でこの会場にいる全ての人がアマリリスの冤罪に気がつく事になる。

「では、校長。これを持ってアマリリスさんはこの学園の生徒ではないと。そういう事でいいですね?」

クレアがハッとして顔を赤く染める。「そんな、やっぱり…」とか言いながらモジモジしている。あいつの丸いメガネの奥の瞳がいつもよりしっかり光を放っている。
その瞳が僕をチラッと確認するとニヤッと口角を上げて笑った気がした。


「んー…そういう事じゃのう。悔しいが」

あいつのすぐ後ろではぁ、と大きくため息をついていた校長が残念そうに答えた。


「ああ、よかった。じゃあ彼女は俺がもらって行くね」

「でも!わたくしにはブラッドリー様が!」

とクレアが何故か発言する。あいつはチラッとこちらに視線をやっただけで魔法の炎で自らを包む。
チラチラと綺麗な炎が治っていくと、よく鍛えられた筋肉質な体の美丈夫が姿を現した。

あれは…王弟だ。一度だけ絵姿を見た事がある。隣国の王弟だ。

「俺は隣国の王弟、ヴォルフレット・ディ・サクラ。アマリリス嬢、俺の妻として、隣国へ渡ってくれないか?」

いいや、彼女が拒否すればいいんだ、そんなの望んでないと。だって、彼女は僕を好ましく思っていたんだろ?だからきっと…

クレア「は?」と令嬢にあるまじき失言を繰り返していた。わたくしのことを~なんて言っていたんだから、てっきり自分の味方だとでも思っていたんだろう。

何故そう思ったんだろうか?
アマリリスさんから光が溢れ出した。その光が触れた場所は暖かくて心地が良かった。
そして、光だけを残して、彼女は消えてしまった。

残された僕たちは、ただ茫然とするしかなかった。
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