傷者乙女と軍人さん

空橋彩

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おかえり編

いち

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「おねぇーさまぁー!もうお昼ですわよ!はやく!早く!!」


いつもは穏やかな診療所にハイカラな可愛らしい声が響く。赤いリボンを輝く黒髪につけた可愛らしい女の子が門の外からこちら側に激しく手を振っている。
午前の診療が伸びてしまい、いつもより門を出るのが遅くなってしまったため、すとーかー…待ち侘びた十六原蘭様が私を呼び寄せている。



「もう!早くしないとあの人が帰ってきてしまうわ」


「そんな事いうなら、先に行っていれば良かったのよ。貴女の婚約者だって、貴女が遅れてきたら悲しむでしょ?」


私は急いで準備をしたせいで少し息を切らしながら彼女を攻める。私だって久しぶりに右京と会うんだから、おしゃれをしたかったのに…
服はいつも町に出かけるような簡素なワンピース。
靴はボロボロのブーツのままだし髪もボサボサだ。

はぁ、とため息をつくと目の前に馬車が停まった。


「さぁ!我が家へいきますわよ!お姉様に似合いそうなワンピースをもちろん堂ヶ島隊長ツケで購入してありますの。選んだのはもちろん、ワタクシです。お姉様の体のことは私が一番よーく知っておりますから。肌の色、バスト、ウエストのサイズ。足の長さに手の長さ、まさか、堂ヶ島隊長になんて選ばせられません。えぇ、お姉様なんですから」


蘭様は聞き取りキレないほどの情報をばーーーっと喋ってさっさと馬車に私を積み込んでしまった。
そのまま何故か十六原邸へ連れ込まれ、お湯につけられたかと思ったら、化粧を施され、薄い藤色のワンピースをきせられてしまった。


「あの、何だかピッタリとくっついていてその…」


いつもの服よりも上半身がキツくピッタリと肌にくっついている。ウエスト部分からはたっぷりの布でスカートが伸びているが、これでは…


「あぁ、お姉様でないと着こなせない…豊満なバスト、くびれた腰!!!なんて美しいの!!!」


詰襟になっているため胸は見えないが袖が一切ないデザインのため、気をつけなければ横から胸が見えてしまいそうだ。


恥ずかしくてもじもじしていると、


「絶対見えないから大丈夫ですよ!さあ!!行きましょう!!」


とまた馬車に乗せられて運ばれることになった。
蘭様はピンクの可愛らしいレースのワンピースを着ている。私もああいうのが良かった…
ともらしたら『これはお子ちゃまが着るものですわ。お姉様には似合わないのです』と何故か自信満々にいわれましたわ。


蘭様はずっと隣に座り、手を握りながら最近の出来事を話してくれました。
十六原将軍に聞いた話では、右京は早く帰りたいがために、討伐予定のゴロツキを徹底的に潰して回っていたらしい。
そのせいで少しやつれたとか…

そんなに無理をしないで欲しいと思い、窓の外を眺めていると、何故か蘭様が顔を赤らめてため息をついていたわ。婚約者の方にお会いするのが楽しみなのね…




しばらく走ると馬車はとまり、詰所に到着した。
ざわざわと門のあたりが騒がしく遠征部隊がすでに帰ってきているようだった。


ドキンと胸が高鳴り、手が少し震えた。やっと会えるのね…手紙のやり取りも出来なかった、せっかく思い会えたのに一切あえなくなってしまったのでとても寂しかったのだ。

胸を高ならせながら馬車を降りようと扉を開けた途端に腕を引かれて硬くて暖かい何かに思い切り飛び込んだ。


「桜子…会いたかった。」

耳元で低い心地の良い声で囁かれ鳥肌が立つ。
少し背中が空いたデザインのワンピースのせいでゴタゴタとした手で背中を撫でられ思わず背を逸らしてしまう。



「う…右京…おかえり…なさい」



「ただいま」


たった8日、されど8日。付き合い始めたばかりの二人にとっては長い長い8日だった。
周りに人がいなかったら、私は右京の胸に縋って泣いていたかもしれない。

無事に帰ってくる保証もないのだから、怪我もなく健康にまた会えたことが嬉しかった。


「堂ヶ島、まだ報告が終わっていないんだ、さっさと仕事をしろ」


再会を喜んでいたがどうやらまだ職務が残っていたらしい、私はつい嬉しくてお邪魔をしてしまったんだと慌てて体を話して声がした方へ振り返り頭を下げる。


「すみません、一般人がお邪魔をいたしました」


「…先生?」


その言葉に顔を上げると、右京より少し身長が高い細身の男性が驚いた顔で立っていた。
パッチリと大きな目は薄茶色に輝いている。髪も黒よりは茶色、光に当たると少し赤く見えるくらいだった。


「あ…はい。いつもお世話になっています。」


「…堂ヶ島の…婚約者って先生?」


「え?」


婚約までは…と訂正しなければと思って声を出した途端に右京が腰をぐいっと自分へよせ、抱きしめてくれた。


「妻だ。」


そう、強く言い放った。
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