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43・後悔しても遅いとはまさにこの事
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祝福の拍手や言葉に包まれて、顔を真っ赤にしていると重い扉が開く音と共に、女の叫び声が聞こえる。
「手!!離しなさいよ!!!私のお腹にはあんた達の英雄の子供がいるかもしれないのよ!?」
困惑した兵士たちが恐る恐る引きずってきたのは、アリーナだった。その後ろからヴィクトール卿が険しい顔をしてついてくる。一応兵士が両側に控えている。
「おや、来たね。」
「ちょっと!英雄の妻にこんな扱いするなんて、もう帝国が困っても助けてあげないわよ?!ヴィクトール!なんとか言いなさいよ!」
ツーデン邸で対峙していたアリーナからかけ離れ、質素なワンピースに髪も艶が消え肌も心なしかカサカサしていた。自分の後ろにいるヴィクトール卿に助けを求めた様だが、ヴィクトール卿は冷たい様な、感情のない目で見つめるばかりだった。
「慎まれよ!」
みかねた兵士の1人がアリーナの肩を抑え、皇帝の方へとアリーナを向かせる。必然的に私達が目に入った様で、ポロポロと涙を流しながらコンラッドやルビィに向けて助けを求めてきた。
「ねぇ!もう時期が来てるはずよ!?その女に虐められたのよ!わたし。助けてよ!!あなた達もその女から嫌がらせされてるんでしょ?!わたし、あなた達の悩みとか知ってるのよ!ほら、コンラッドはさ、家族に捨てられて寂しかったんでしょ?わたしが家族になってあげる!!ね??イフリートもよ!捨てられて傷ついて、魔力を使うのが怖いのよね?!わたしがずっと一緒にいてあげる!治してあげる!!」
誰の返事も聞かずに必死に話すアリーナを可哀想とは思わなかった。私の事は悪で自分が正義と思い込んで、ありもしない罪を押し付けてくる、彼女の頭の中では、別の物語が進んでいるかの様だった。
悩みを知ってる、と言ったアリーナの話は確かに起こった事柄だったが、それぞれが自分で乗り越えている事柄でもあった。
コンラッドは冒険者として努力して自分の居場所を作ったし、ルビィも力をつけて強力なドラゴンを1人で抑えられるほどの力を持っていた。
一息で話し終えたアリーナは「なんで誰も助けてくれないの?」と肩で息をしながら何度も皆んなの顔を見渡していた。
「陛下、発言の許可を」
ふと、ヴィクトール卿の優しい声が響く。一瞬目が合った気がしたがすぐに晒されてしまった。
「いいよ、好きに話しなよ」
陛下が許可を出すと、深々と礼をしたヴィクトール卿と今度こそ目が合った。コンラッドが手をぎゅっと握ってくれる。
「オリヴィア・ワンフルール嬢、命をかけて治癒してくれたのに愚かな行いをしてしまい、申し訳なかった。黒いモヤに操られ、何も考えられなかった。許してくれとは言わない。傷つけてしまって…すまなかった。」
初めて彼を見た時、堂々と光り輝くまさに英雄だった。でも、今の彼はとても小さく幼い、ただの青年だ。
彼に邪険にされ、辛かったがほんの少しの期間だ。
「個人的には許すとは…言えませんが、あなたが抱えていた寂しさを、共に抱えようとしている人たちの為に、あなたがこれから幸せになれる様にと祈ります。」
「それは、ノウンやベティ、アルフレッドのこと?僕は沢山の人を失ってしまった。鍛えななおして、またみんなに英雄と呼ばれることができる様に頑張りたい。」
ノウンの話では、彼は愛されることのない寂しい幼少期を過ごしていたらしい。その隙間を狙われた様だ。
反省して、また次の成長をすれば良い、そう伝えると俯いたままボソッと何かを呟いた。それは私達の所には聞こえる事はなかった。
「なによ!!悪役令嬢はグールに飲み込まれて死ぬはずなのよ!ヴィクトールに執着もしなければ虐めてもこない!!どうすればあんたを殺せるの?!」
半狂乱になったアリーナは何を言っているのかすらわからなかった。
「アリーナ、操っていたとしても…僕を愛してくれてありがとう。」
前を向いたままのヴィクトール卿がアリーナに話しかけると、泣き声がぴたりとやんだ。
「ヴィクトール、君は…鍛え直しだ。オリヴィア嬢が英雄を失うわけにはいかぬと、そう言ってくれた。魔のものに魅入られぬよう心を鍛えよ。そこの女は反省しておらんな?グールを復活させ、アンデットの集団を生み出し、英雄を騙して操った。その上、反省もせずオリヴィア嬢を殺すという。」
皇帝の穏やかな声だけが謁見の間に響く。
ヴィクトール卿は片膝をついた状態で「かしこまりました」とだけ返事をする。アリーナは、力が入らなくなったのか、がっくりと項垂れたまま、荒く息をするばかりだった。
「一生幽閉、または処刑。それが妥当だろう」
「…やよ…」
アリーナが小さく呟く。
「死にたくない。わたしは、ゲームしてただけなのに、急に…連れてこられてどうしたら良いかわかんなくて…ゲームの通りにすれば良いんじゃないの?お母さんにあいたいよぉ」
グズグズとなくアリーナが急に小さな子どものように見えた。
「陛下、アリーナは…わたくしが預かってはダメでしょうか?もちろん、牢に入れて外には出られないようにします。一生オリヴィア嬢に近づけません。わたくしもです」
ヴィクトール卿がアリーナの肩を抱きしめ、そのまま2人で額を地面に擦り付ける。
「僕も一緒に謝る。アリーナが…申し訳ありませんでしたオリヴィア・ワンフルール嬢」
その後2人は大人しく退室していった。沙汰は追って決めるようだ。ノウンは結局一言もヴィクトール卿に話さなかったが、何か思うところがあったのか、スッキリとした顔をしていた。
「手!!離しなさいよ!!!私のお腹にはあんた達の英雄の子供がいるかもしれないのよ!?」
困惑した兵士たちが恐る恐る引きずってきたのは、アリーナだった。その後ろからヴィクトール卿が険しい顔をしてついてくる。一応兵士が両側に控えている。
「おや、来たね。」
「ちょっと!英雄の妻にこんな扱いするなんて、もう帝国が困っても助けてあげないわよ?!ヴィクトール!なんとか言いなさいよ!」
ツーデン邸で対峙していたアリーナからかけ離れ、質素なワンピースに髪も艶が消え肌も心なしかカサカサしていた。自分の後ろにいるヴィクトール卿に助けを求めた様だが、ヴィクトール卿は冷たい様な、感情のない目で見つめるばかりだった。
「慎まれよ!」
みかねた兵士の1人がアリーナの肩を抑え、皇帝の方へとアリーナを向かせる。必然的に私達が目に入った様で、ポロポロと涙を流しながらコンラッドやルビィに向けて助けを求めてきた。
「ねぇ!もう時期が来てるはずよ!?その女に虐められたのよ!わたし。助けてよ!!あなた達もその女から嫌がらせされてるんでしょ?!わたし、あなた達の悩みとか知ってるのよ!ほら、コンラッドはさ、家族に捨てられて寂しかったんでしょ?わたしが家族になってあげる!!ね??イフリートもよ!捨てられて傷ついて、魔力を使うのが怖いのよね?!わたしがずっと一緒にいてあげる!治してあげる!!」
誰の返事も聞かずに必死に話すアリーナを可哀想とは思わなかった。私の事は悪で自分が正義と思い込んで、ありもしない罪を押し付けてくる、彼女の頭の中では、別の物語が進んでいるかの様だった。
悩みを知ってる、と言ったアリーナの話は確かに起こった事柄だったが、それぞれが自分で乗り越えている事柄でもあった。
コンラッドは冒険者として努力して自分の居場所を作ったし、ルビィも力をつけて強力なドラゴンを1人で抑えられるほどの力を持っていた。
一息で話し終えたアリーナは「なんで誰も助けてくれないの?」と肩で息をしながら何度も皆んなの顔を見渡していた。
「陛下、発言の許可を」
ふと、ヴィクトール卿の優しい声が響く。一瞬目が合った気がしたがすぐに晒されてしまった。
「いいよ、好きに話しなよ」
陛下が許可を出すと、深々と礼をしたヴィクトール卿と今度こそ目が合った。コンラッドが手をぎゅっと握ってくれる。
「オリヴィア・ワンフルール嬢、命をかけて治癒してくれたのに愚かな行いをしてしまい、申し訳なかった。黒いモヤに操られ、何も考えられなかった。許してくれとは言わない。傷つけてしまって…すまなかった。」
初めて彼を見た時、堂々と光り輝くまさに英雄だった。でも、今の彼はとても小さく幼い、ただの青年だ。
彼に邪険にされ、辛かったがほんの少しの期間だ。
「個人的には許すとは…言えませんが、あなたが抱えていた寂しさを、共に抱えようとしている人たちの為に、あなたがこれから幸せになれる様にと祈ります。」
「それは、ノウンやベティ、アルフレッドのこと?僕は沢山の人を失ってしまった。鍛えななおして、またみんなに英雄と呼ばれることができる様に頑張りたい。」
ノウンの話では、彼は愛されることのない寂しい幼少期を過ごしていたらしい。その隙間を狙われた様だ。
反省して、また次の成長をすれば良い、そう伝えると俯いたままボソッと何かを呟いた。それは私達の所には聞こえる事はなかった。
「なによ!!悪役令嬢はグールに飲み込まれて死ぬはずなのよ!ヴィクトールに執着もしなければ虐めてもこない!!どうすればあんたを殺せるの?!」
半狂乱になったアリーナは何を言っているのかすらわからなかった。
「アリーナ、操っていたとしても…僕を愛してくれてありがとう。」
前を向いたままのヴィクトール卿がアリーナに話しかけると、泣き声がぴたりとやんだ。
「ヴィクトール、君は…鍛え直しだ。オリヴィア嬢が英雄を失うわけにはいかぬと、そう言ってくれた。魔のものに魅入られぬよう心を鍛えよ。そこの女は反省しておらんな?グールを復活させ、アンデットの集団を生み出し、英雄を騙して操った。その上、反省もせずオリヴィア嬢を殺すという。」
皇帝の穏やかな声だけが謁見の間に響く。
ヴィクトール卿は片膝をついた状態で「かしこまりました」とだけ返事をする。アリーナは、力が入らなくなったのか、がっくりと項垂れたまま、荒く息をするばかりだった。
「一生幽閉、または処刑。それが妥当だろう」
「…やよ…」
アリーナが小さく呟く。
「死にたくない。わたしは、ゲームしてただけなのに、急に…連れてこられてどうしたら良いかわかんなくて…ゲームの通りにすれば良いんじゃないの?お母さんにあいたいよぉ」
グズグズとなくアリーナが急に小さな子どものように見えた。
「陛下、アリーナは…わたくしが預かってはダメでしょうか?もちろん、牢に入れて外には出られないようにします。一生オリヴィア嬢に近づけません。わたくしもです」
ヴィクトール卿がアリーナの肩を抱きしめ、そのまま2人で額を地面に擦り付ける。
「僕も一緒に謝る。アリーナが…申し訳ありませんでしたオリヴィア・ワンフルール嬢」
その後2人は大人しく退室していった。沙汰は追って決めるようだ。ノウンは結局一言もヴィクトール卿に話さなかったが、何か思うところがあったのか、スッキリとした顔をしていた。
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