41 / 45
40・コンラッドの事
しおりを挟む
アリーナを拘束して連行した者以外の兵士たちがコンラッドの前に集まる。
お姉様、お兄様は何事もなかったような顔をして隊長の様な人に説明をしている。知っていたのかしら、と聞いてみたいが今は話しかけられそうにない。ひとり置き去りにされたようなそんな気持ちになった。
「コンラッド・ディ・セノピア?」
兵士たちに指示を出しているコンラッドの背中に向けて小さな声で呟いてみる。誰にも聞こえないだろう小さな声だったのだが、当の本人には聞こえていたようで凄い勢いで振り返った彼の顔は不安でいっぱいの様な、何とも言えない表情であった。
「ちゃんと説明しようと思っていたんだ。でも、オリヴィアはこんな事で俺から離れて行かないよね?信じてるから。」
コンラッドがフワッと微笑むと何故か周りの兵士たちがポッと頬を赤らめる。
現セノピア皇帝であるリカルド・アレキサンドロ・ディ・セノピアには若い弟がいるが、病弱のため皇室を出て辺境に引き篭っていると聞いていた。
帝国の儀式や行事があると顔を出していたが、いつも国民の前に現れる時には銀色の仮面をつけて顔を隠していた。
継承権も放棄して、臣下に降っていると噂があったが、臣下どころか冒険者になっていたなんて…それでも、ただの子爵家の娘である私とは棲む世界が違いすぎる。
あれほど願った彼の隣に立つのは難しいかもしれない。
柔らかい大好きな笑顔に「私からは…ね」と曖昧な返事を残して家族の元へと向かう。
ふと肩に重みを感じると、シュバルツが降りてきていた。ルビィとノウンは国賓として…皇帝陛下の元へと行ったらしい。おそらく、グールや魅了魔法のことを説明しに行ったのだろう。
「俺様がオリヴィアの護衛だ!」
と張り切ってくれている小さな友達を見ると、安心する。
「私は、本当に何もできないのね。今回だって役に立たないし。ヴィクトール卿だって助けてあげられなかった」
そう、ヴィクトール卿は強い魅了魔法にかかりすぎていたのか意識不明のまま倒れてしまい国立の治療院に運び込まれ魔術師や魔法使い、錬金術師たちがあらゆる手を使って治療するらしい。
「俺様はオリヴィアがいてくれると嬉しくなるぞ。怪我をしても心配してくれる。魔獣の俺様もかっこいいと言ってくれる。当たり前にできそうでできないことをしてもらえるっていうのは嬉しいもんだ」
「ありがとう。シュバルツも、優しいから大好きよ」
「俺様はいつだって、優しいからな!」
「ふふ、そうね。」
こうして、ツーデン邸で過ごす日々は終わりを告げた。
屋敷から助け出した使用人達は私が魔法を使うところを実際に見ていたようで口々に疑いをかけたことへの謝罪を述べた。
しかし、あの二人だけは姿を現さず仕舞いであった。
後から聞いた話では“軽く謝罪する機会など与えない。正式に謝罪をせよ”とお兄様とお姉様が圧力をかけ近づかないようにしたとか。
男爵家に抗議の文も出してくれたようで、ワンフルール家に両親ごと謝罪に来るのはもう少し後のお話である。
私の短い結婚生活は、愛する人たちのおかげで無事、幕を閉じた。
それから、2週間後のことである。ヴィクトール卿が回復したということで結婚の取り消し手続きのため、皇帝陛下に呼び出され、皇宮に向かうことになる。
お姉様、お兄様は何事もなかったような顔をして隊長の様な人に説明をしている。知っていたのかしら、と聞いてみたいが今は話しかけられそうにない。ひとり置き去りにされたようなそんな気持ちになった。
「コンラッド・ディ・セノピア?」
兵士たちに指示を出しているコンラッドの背中に向けて小さな声で呟いてみる。誰にも聞こえないだろう小さな声だったのだが、当の本人には聞こえていたようで凄い勢いで振り返った彼の顔は不安でいっぱいの様な、何とも言えない表情であった。
「ちゃんと説明しようと思っていたんだ。でも、オリヴィアはこんな事で俺から離れて行かないよね?信じてるから。」
コンラッドがフワッと微笑むと何故か周りの兵士たちがポッと頬を赤らめる。
現セノピア皇帝であるリカルド・アレキサンドロ・ディ・セノピアには若い弟がいるが、病弱のため皇室を出て辺境に引き篭っていると聞いていた。
帝国の儀式や行事があると顔を出していたが、いつも国民の前に現れる時には銀色の仮面をつけて顔を隠していた。
継承権も放棄して、臣下に降っていると噂があったが、臣下どころか冒険者になっていたなんて…それでも、ただの子爵家の娘である私とは棲む世界が違いすぎる。
あれほど願った彼の隣に立つのは難しいかもしれない。
柔らかい大好きな笑顔に「私からは…ね」と曖昧な返事を残して家族の元へと向かう。
ふと肩に重みを感じると、シュバルツが降りてきていた。ルビィとノウンは国賓として…皇帝陛下の元へと行ったらしい。おそらく、グールや魅了魔法のことを説明しに行ったのだろう。
「俺様がオリヴィアの護衛だ!」
と張り切ってくれている小さな友達を見ると、安心する。
「私は、本当に何もできないのね。今回だって役に立たないし。ヴィクトール卿だって助けてあげられなかった」
そう、ヴィクトール卿は強い魅了魔法にかかりすぎていたのか意識不明のまま倒れてしまい国立の治療院に運び込まれ魔術師や魔法使い、錬金術師たちがあらゆる手を使って治療するらしい。
「俺様はオリヴィアがいてくれると嬉しくなるぞ。怪我をしても心配してくれる。魔獣の俺様もかっこいいと言ってくれる。当たり前にできそうでできないことをしてもらえるっていうのは嬉しいもんだ」
「ありがとう。シュバルツも、優しいから大好きよ」
「俺様はいつだって、優しいからな!」
「ふふ、そうね。」
こうして、ツーデン邸で過ごす日々は終わりを告げた。
屋敷から助け出した使用人達は私が魔法を使うところを実際に見ていたようで口々に疑いをかけたことへの謝罪を述べた。
しかし、あの二人だけは姿を現さず仕舞いであった。
後から聞いた話では“軽く謝罪する機会など与えない。正式に謝罪をせよ”とお兄様とお姉様が圧力をかけ近づかないようにしたとか。
男爵家に抗議の文も出してくれたようで、ワンフルール家に両親ごと謝罪に来るのはもう少し後のお話である。
私の短い結婚生活は、愛する人たちのおかげで無事、幕を閉じた。
それから、2週間後のことである。ヴィクトール卿が回復したということで結婚の取り消し手続きのため、皇帝陛下に呼び出され、皇宮に向かうことになる。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる