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「坊ちゃん?どうしましたかな?」
アルフがそっと声をかけると、ヴィクトール卿は驚いた様に振り返る。窓ガラスで反射した太陽の光が大きな瞳を照らしていて、泣いている様に瞳が輝いていた。
「わからないんだ。アリーナだと思って、幸せだったのに急に誰かに会いたくなる時があるんだ。誰かはわからないんだけど…おや?リヴ?ごめん、見えてなかった」
「旦那様、昼食をお待ちしましたよ。召し上がれますか?」
「うん。せっかく作ってもらったんだからね」
「食後に紅茶を淹れますから、元気を出してください」
窓を見ていた背中が寂しそうな子供の様にみえて、つい優しい言葉をかけてしまった。ポーチの中でコンラッドがバタバタと少し暴れる。
「…アルフ、ちょっとお腹が痛くてね、薬を持ってきてくれる?」
俯いたままヴィクトール卿がアルフに指示を出す。流石に断るわけにいかず、「承知しました」と扉からでていく。2人(と一羽)きりになってしまったことに少し緊張するが、平気なフリをして食事をテーブルに並べる。
皿を差し出した手を不意に掴まれ顔を上げると、目を赤くしたヴィクトール卿が真剣な顔をしてこちらを見つめてくる。
ぎゅっとポーチの蓋を握る。
「リヴに会うとなぜか胸がザワザワする。いつもだ。何故?君は…誰?」
「私は私です。」
少し強めに答えて手を振り払う。ヴィクトール卿の手は氷の様に冷たく冷え切っていた。その冷たさに何故か恐怖を覚えてしまったからだ。
この冷たさは、知ってる。血の通っていない冷たさだ。
振り払ったはずの手をもう一度つかまれると、ぐるんと視界が回る。ガシャンと軽い衝撃が背中にあたると同時に空になったワゴンの上にそのまま縫い付けられてしまう。
「リヴがいれば温かいんだ。なぜ?ナゼ?」
ポタッと頬に冷たいものが落ちてくる。金色の輝く瞳から涙がポロポロと流れ落ちていた。
「やめろ!!」
ポーチの中から飛び出したコンラッドがヴィクトール卿の顔面を後ろ足で蹴り付ける。
ワゴンの滑車を利用してそのままヴィクトール卿から距離を取る。コンラッドはヴィクトール卿に耳を掴まれてしまい、壁に投げつけられてしまう。激突する直前にコンラッドの周りにシールドをはり、衝突を防ぐ。
「ねえ、さすが冒険者魔法が上手だね。回復魔法も使える?ねえ、リヴ!!!」
ヴィクトール卿の右目が徐々に黒く染まっていく。
コンラッドが慌てて私の目の前に飛び出して魔法陣の描いてある紙を私の胸へ押し付ける。
「ダメ!!!止めてコンラッドだめ!!!!」
手を前に突き出してコンラッドを離そうとした、しかし、その手が掴んだものは離れにいるはずのルビィの手だった。
『やられたわね!!だからまだ早いって言ったのに』
「コンラッド!!コンラッドは?!」
私はコンラッドに強制転移させられて、離れへと避難させられたのだ。屋敷からはドン!と大きな雷の音が響く。ガラスが割れ、木が崩れる音とメイド達の悲鳴が聞こえた。慌てて飛び出そうとするが、ベティに出口を塞がれ出ることができない。
「ウサギの方はオリヴィア様を守りたかったのです。今出したら…その想いを踏み躙ることになります。」
『そうよ、今は我慢するのよ。あちらから訪ねてくるはずだから。リス!!ワンフルールに連絡!至急!!』
「わかってる!いいか!オリヴィアを守れよな!!」
『誰に言ってんのよ!』
シュバルツはものすごい速さで窓から飛び出すとワンフルール家のある方へと飛んでいく。
先程まで晴れていたのに屋敷の周辺だけ真っ黒な雲が広がり夜の様に暗くなってきた。
太陽の光が届かないからか気温も下がってきた様に感じる。
『体制を整えるの。アイツを抑えるには、力が必要なのよ。うさぎがいなくなったのが痛いわ。』
「あいつ?なんのこと?」
珍しく少し焦り気味のルビィに尋ねると、意を決したような真面目な顔ではぁ、とため息をつきながら話をしてくれた。
『アリーナって女がヴィクトールから標的を変えたのよ。だからヴィクトールは正気を取り戻しつつあった。そこへあなたが現れたから、パニックになったのね。アイツの残留思念が抜け切らないうちに、爆発したから尻尾を掴めたのよ。』
「ひょう…てき?標的って…やだ、それ、やだ!!」
ルビィはなるべく真実をぼやかす様に話しているが、話の端々から嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
アリーナが欲しがっていた物、いくつかあるが今私の手の中にない物…
「ベティ、どいて!コンラッドが!!」
『ダメじゃ。今行けば殺されるぞ。コンラッドに』
窓からノウンが黒いウサギを連れて入ってくる。
先程までとは違う、赤い目のウサギだった。
喋らなくなったウサギをみて、目の前がチカチカと光っている様だった。
アルフがそっと声をかけると、ヴィクトール卿は驚いた様に振り返る。窓ガラスで反射した太陽の光が大きな瞳を照らしていて、泣いている様に瞳が輝いていた。
「わからないんだ。アリーナだと思って、幸せだったのに急に誰かに会いたくなる時があるんだ。誰かはわからないんだけど…おや?リヴ?ごめん、見えてなかった」
「旦那様、昼食をお待ちしましたよ。召し上がれますか?」
「うん。せっかく作ってもらったんだからね」
「食後に紅茶を淹れますから、元気を出してください」
窓を見ていた背中が寂しそうな子供の様にみえて、つい優しい言葉をかけてしまった。ポーチの中でコンラッドがバタバタと少し暴れる。
「…アルフ、ちょっとお腹が痛くてね、薬を持ってきてくれる?」
俯いたままヴィクトール卿がアルフに指示を出す。流石に断るわけにいかず、「承知しました」と扉からでていく。2人(と一羽)きりになってしまったことに少し緊張するが、平気なフリをして食事をテーブルに並べる。
皿を差し出した手を不意に掴まれ顔を上げると、目を赤くしたヴィクトール卿が真剣な顔をしてこちらを見つめてくる。
ぎゅっとポーチの蓋を握る。
「リヴに会うとなぜか胸がザワザワする。いつもだ。何故?君は…誰?」
「私は私です。」
少し強めに答えて手を振り払う。ヴィクトール卿の手は氷の様に冷たく冷え切っていた。その冷たさに何故か恐怖を覚えてしまったからだ。
この冷たさは、知ってる。血の通っていない冷たさだ。
振り払ったはずの手をもう一度つかまれると、ぐるんと視界が回る。ガシャンと軽い衝撃が背中にあたると同時に空になったワゴンの上にそのまま縫い付けられてしまう。
「リヴがいれば温かいんだ。なぜ?ナゼ?」
ポタッと頬に冷たいものが落ちてくる。金色の輝く瞳から涙がポロポロと流れ落ちていた。
「やめろ!!」
ポーチの中から飛び出したコンラッドがヴィクトール卿の顔面を後ろ足で蹴り付ける。
ワゴンの滑車を利用してそのままヴィクトール卿から距離を取る。コンラッドはヴィクトール卿に耳を掴まれてしまい、壁に投げつけられてしまう。激突する直前にコンラッドの周りにシールドをはり、衝突を防ぐ。
「ねえ、さすが冒険者魔法が上手だね。回復魔法も使える?ねえ、リヴ!!!」
ヴィクトール卿の右目が徐々に黒く染まっていく。
コンラッドが慌てて私の目の前に飛び出して魔法陣の描いてある紙を私の胸へ押し付ける。
「ダメ!!!止めてコンラッドだめ!!!!」
手を前に突き出してコンラッドを離そうとした、しかし、その手が掴んだものは離れにいるはずのルビィの手だった。
『やられたわね!!だからまだ早いって言ったのに』
「コンラッド!!コンラッドは?!」
私はコンラッドに強制転移させられて、離れへと避難させられたのだ。屋敷からはドン!と大きな雷の音が響く。ガラスが割れ、木が崩れる音とメイド達の悲鳴が聞こえた。慌てて飛び出そうとするが、ベティに出口を塞がれ出ることができない。
「ウサギの方はオリヴィア様を守りたかったのです。今出したら…その想いを踏み躙ることになります。」
『そうよ、今は我慢するのよ。あちらから訪ねてくるはずだから。リス!!ワンフルールに連絡!至急!!』
「わかってる!いいか!オリヴィアを守れよな!!」
『誰に言ってんのよ!』
シュバルツはものすごい速さで窓から飛び出すとワンフルール家のある方へと飛んでいく。
先程まで晴れていたのに屋敷の周辺だけ真っ黒な雲が広がり夜の様に暗くなってきた。
太陽の光が届かないからか気温も下がってきた様に感じる。
『体制を整えるの。アイツを抑えるには、力が必要なのよ。うさぎがいなくなったのが痛いわ。』
「あいつ?なんのこと?」
珍しく少し焦り気味のルビィに尋ねると、意を決したような真面目な顔ではぁ、とため息をつきながら話をしてくれた。
『アリーナって女がヴィクトールから標的を変えたのよ。だからヴィクトールは正気を取り戻しつつあった。そこへあなたが現れたから、パニックになったのね。アイツの残留思念が抜け切らないうちに、爆発したから尻尾を掴めたのよ。』
「ひょう…てき?標的って…やだ、それ、やだ!!」
ルビィはなるべく真実をぼやかす様に話しているが、話の端々から嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
アリーナが欲しがっていた物、いくつかあるが今私の手の中にない物…
「ベティ、どいて!コンラッドが!!」
『ダメじゃ。今行けば殺されるぞ。コンラッドに』
窓からノウンが黒いウサギを連れて入ってくる。
先程までとは違う、赤い目のウサギだった。
喋らなくなったウサギをみて、目の前がチカチカと光っている様だった。
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