星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

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34・ヴィクトール卿の事情

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「ねぇ、ノウンさんは何故この屋敷にいたの?」

『む、ノウンだけで良い。ワシは幼い頃のヴィクトールと約束したのだ大きくなるまで見守ると。お礼に魔力をもらっておった。もう、大きくなったから良いだろう。』

「それじゃぁ、ノウンには私が魔力をあげればいいの?」

「オリヴィアはルビィにも魔力を流してるだろ?精霊2人に流して魔力が枯渇したらどうするんだ。」

すかさずコンラッドがノウンの頭の上に乗りながら質問する。

『オリヴィアの魔力は高いからの、イフリートとワシに分けても十分余るくらいだ。』

「ヴィクトール卿はどうなってしまうの?」

『うむ。それがの、ちょっと手を貸して欲しいのじゃ。ルビィには話してあるがヴィクトールは誰かに乗っ取られている時間があっての、ワシでは手が出せん。』

「「乗っ取り?!」」

私とコンラッドは同時に驚きの声をあげてしまう。ノウンは驚いたのか目を丸く開いて知らなかったのか?と不思議がっている。

『あの、女が一緒にいる時はヴィクトールの意識は薄まっている様じゃ。記憶もあるし、意思もあるようだがな。ヴィクトールはもともと、弱虫で泣き虫じゃ。優しく穏やかな人間だったのじゃ。』

「思い当たる節はあるけど…」

執務室や森で出会った彼は、穏やかというかちゃんとした人だった。リヴとして会う時は確かに人が変わった様な印象を受けた。

「事情は分かったが、だったら何故オリヴィアを手放さないんだ?さっさと俺に返せばいいだろう。」

『一つは、ヴィクトールがオリヴィアに惹かれていること。もう一つはあの女がオリヴィアに執着していることが原因だろう。「オリヴィアが退場するのはまだ早いのよ!」と言っていたからな。』

「アリーナと、話したの?いつの間に…」

『はっはっは!!そうか、言ってなかったか!!』

愉快そうに笑うとノウンが再び緑色に光る。パチリと瞬きをした瞬間に目の前にいた少年は消え、見慣れた大人の男性が現れた。

「ア!!アルフ!??」

『ワシだって指を咥えて見ていたわけではないぞ何とかあの女がそばにいない時はヴィクトールが正気に戻れる様に手助けをしていたのだ!』

ノウンの口調でアルフが喋るとものすごい違和感があった。それにしても…

「ヴィクトール卿が私に惹かれているって言うのはないと思うんだけど…」

『憎しみもまた愛じゃ。操られておる間に感情が逆転しておるのだろう。全く関わりがないのにあそこまで憎まれるなんておかしいじゃろて。リヴには素直に興味を示しておるからの』

「助けてはやるが、オリヴィアは返してもらう。それで良いか?」

『それはワシが決めることではない。誰と一緒にいたいかは、オリヴィアが決めることじゃろ?』

優しい緑の瞳がゆらりと寂しそうに揺れた。
きっと、幼い頃から見守ってきたヴィクトール卿の事を思っているのだろう。正直彼の事は分からないが、ノウンの力にはなりたいと思った。

「いいよ、助けるの手伝う。でも、コンラッドのところに行きたい気持ちは変わらないの」

『わかった、気持ちが変わったらいつでもいっておくれ。では…いくか…』

ノウンが行くか、と告げた途端周りの木が一斉に揺れ始め、グルグルと景色が変わる。パッと視界が定まったと思ったら、目の前にはちょっと怒った顔をしたルビィが木の椅子に座ってこちらを向いていた。

『乙女の部屋に急に現れるなんて失礼よ』

『一番力が強い者がが何をか弱がっておるのだ。お主、こやつらに説明しておらなかったな?全く。』

『敵がわからないのに説明したって仕方ないじゃない。いっちゃったの?もう。これから調べるところだったのに』

「大丈夫だよ、ルビィちょうど屋敷からシーツとかも持ってきたいし、私探ってくる!!」

「じゃあ、俺様もいくぜ!」

ピョコンとシュバルツが頭の上に乗る。
しかし、シュバルツは姿を見られている、なるべく見られない方がいいと思い、お留守番をお願いした。
ベティのポーチを借りてコンラッドがその中に入り、いざ、屋敷へと潜入することになった。
もちろん、ノウンはアルフとして同行する。

使用人用の入り口から入るとすぐにキッチンがある。お昼前なので慌ただしく皆準備をしている。
ヴィクトール卿のワゴンとアリーナのワゴンは同じ場所に置かれているためわかりやすい。
他にバスケットに入ったサンドイッチがある。私たち用だろう、後でいただこうと思う。

「旦那様のワゴン、出して良いですか?」

忙しそうにしている料理人に声をかけると「ああ、いいよ、今日は執務室で召し上がるそうだ。アリーナ様はお部屋だそうだ」と早口で伝えられた。

いつも一緒なのだと思っていたが、不思議なこともあるもんだと首をひねる。アルフと一緒にヴィクトール卿の執務室へ行くと、少しだけ扉が空いていた。
そっと覗くと窓の外を見つめるヴィクトール卿が目に入った。
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