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31・意地悪な使用人達
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「ちょっと!あなた達!!何してるのよ!」
「ベティさんはもうここの使用人じゃなくなったって聞きました。だから、私たちあなたに指図される筋合いないですから。」
女同士の言い争いと、ガタンと扉に何かが当たる音で目を覚ます。2部屋しかないこの離れは、私が寝ている部屋がリビング兼、玄関兼寝室の様になっている。
ガタガタと入り口のドアが揺れている。
気になったので、そばにあったベールをかぶり扉の近くへと様子を見に行く。すると、金切り声とパチンと肉を叩く様な弾けた音がした。
「ほら!朝ごはんよ!ありがたく食べなさいよね。まぁ、食べられればだけど。早く出ていきなさいよね」
ガチャリとドアを開けた瞬間、足元に中身がぐちゃぐちゃになったバスケットが投げつけられた。あたりには割れた卵や踏み潰されたりんごが転がっている。
それを拾おうとしたのか、地面にペタリと座り込んでいるベティが頬を赤くしていた。
「何を…しているの?ベティ、どうしたの?」
「オリヴィア様、大丈夫ですから中でお待ちください。」
「唇が切れているじゃない!ほら、立って」
手を差し出すと、汚れているのが気になるのかなかなか手を差し出さない。無理やり手を取り立ち上がらせると手のひらにも切り傷があった。
「…どういうこと?あなた達なにをしたの?」
「あら、ほら吹き様!おはようございます。旦那様から追い出されたんですってね。捨てられた貴族令嬢なんてみっともない」
「何をしたのかって聞いているのよ」
低く、脅す様な声で聞くと2人の使用人がビクッと怯える。貴族令嬢であると同時に私は冒険者である。殺気を出すことくらいはできる。
「なによ!私たちは貴族なのよ!嫁入り前のお勤めでこちらにいるの!貴族を脅すなんて、牢に入れられるわよ」
「そう。でもね、私は今はまだ公爵夫人よ。どちらの方が身分が高いか、わからないほど愚かでは無いですよね?」
「あはは!みっともない。旦那様に認められていないんだから、そんなのなんの盾にもならないわよ。とにかく、早く出ていってくださいね。奥様だとは認めませんから」
言い返そうと、キッと睨みつけた瞬間に、室内からものすごい風が吹いてきた。その風にとばされてメイドたちは後退りし、私とベティは逆に室内へと吸い込まれる。
「オリヴィア、不用意に顔を出してはダメだ。もし、怪我でもしたらどうするんだ?」
バタンと勢いよく閉められた扉の横には黒兎がちょこんと立っていた。
「コンラッド!ベティが酷いことをされたのよ!それに食べ物だって粗末にされて…」
「オリヴィアは?怪我はないか?すまない、ルビィと一緒に朝食の用意をしていたら気がつくのに遅くなってしまった」
目線を合わせようとしゃがむと、膝の上にぴょこんと乗っかり怪我がないかチェックしてくれている様だ。
「コンラッドさん?すみませんオリヴィア様を守れず…」
「いいや、最初に盾になってくれてありがとう。怪我はどの程度だ?」
「頬を打たれた時に口の中を…あと、バスケットを取ろうとした時に手のひらを切ってしまいまして…」
「このくらいなら…ラ・クーペロ」
指先をベティの手のひらに向けて呪文を唱えるとキラキラと細かい星が傷口へ飛び込んで行く。
チカチカと光った後、スパッと切れていた傷が綺麗に治っていた。
「オリヴィア、朝食が届かないことは想定内だ。ルビィと一緒に食料を買い込んできたから安心して。」
「ありがとう、コンラッド。あの…私ぐっすり眠っちゃってて…」
「いいんだよ。ほら、ルビィがお腹が空いたと騒ぎ出す前にベティさんに朝食を作ってもらおう。俺はこの通り、料理には不向きな体でね。」
「お任せください!美味しい食事を作りますからね!」
ベティは張り切って腕枕をしながら隣の台所へと向かっていく。その隣にある、コンラッドとルビィが寝ているはずの部屋から男の人の姿になったルビィが顔を出す。
『まったく、人間って醜い者が多いわね!ウサギちゃんが追い払わなかったら私が炭にしてやるところだったわよ。』
「人間をやたらめったら炭にしちゃだめだ。それにここでそんなことしたら、オリヴィアが罰を受けることになるだろ?」
『やぁねぇ。跡形もなくやるわよ』
手のひらに青い炎を出してニタリと笑うルビィは、
その美しい顔も相まって相当恐ろしかった。
その炎に串に刺したどんぐりを突っ込み焼きドングリを作り始めたシュバルツのおかげで少し場が和むが、あの使用人達の様子では、今後冷遇が続くことが予想されて気持ちが滅入ってしまった。
あんな人、助けなきゃよかった。
人の命を救うのに見返りを求めているわけではないが、傷つけられると“せっかく助けたのに…”とがっかりした気持ちになってしまう。
嘘つきだと思うならさっさと追い返してくれればいいのに。こんな離れへと追いやって何がしたいのだろう。
はぁ、とため息をつくと、コンラッドが新鮮なニンジンを差し出してくれる。慌てて隠していたが、なぜだか嬉しかった。
「こっちを渡したかったんだ。」としおれた四葉のクローバーを手に握らせてくれた。
「どこかの国ではこれを人からもらうと幸せになれるんだと聞いた。そばにいられなくてごめん。でも、守るから安心してほしい」
ウサギのはずなのに、あのスッとした透き通った瞳が確かに弧を描いて、恥ずかしそうに笑う顔が思い浮かんだ。
「ベティさんはもうここの使用人じゃなくなったって聞きました。だから、私たちあなたに指図される筋合いないですから。」
女同士の言い争いと、ガタンと扉に何かが当たる音で目を覚ます。2部屋しかないこの離れは、私が寝ている部屋がリビング兼、玄関兼寝室の様になっている。
ガタガタと入り口のドアが揺れている。
気になったので、そばにあったベールをかぶり扉の近くへと様子を見に行く。すると、金切り声とパチンと肉を叩く様な弾けた音がした。
「ほら!朝ごはんよ!ありがたく食べなさいよね。まぁ、食べられればだけど。早く出ていきなさいよね」
ガチャリとドアを開けた瞬間、足元に中身がぐちゃぐちゃになったバスケットが投げつけられた。あたりには割れた卵や踏み潰されたりんごが転がっている。
それを拾おうとしたのか、地面にペタリと座り込んでいるベティが頬を赤くしていた。
「何を…しているの?ベティ、どうしたの?」
「オリヴィア様、大丈夫ですから中でお待ちください。」
「唇が切れているじゃない!ほら、立って」
手を差し出すと、汚れているのが気になるのかなかなか手を差し出さない。無理やり手を取り立ち上がらせると手のひらにも切り傷があった。
「…どういうこと?あなた達なにをしたの?」
「あら、ほら吹き様!おはようございます。旦那様から追い出されたんですってね。捨てられた貴族令嬢なんてみっともない」
「何をしたのかって聞いているのよ」
低く、脅す様な声で聞くと2人の使用人がビクッと怯える。貴族令嬢であると同時に私は冒険者である。殺気を出すことくらいはできる。
「なによ!私たちは貴族なのよ!嫁入り前のお勤めでこちらにいるの!貴族を脅すなんて、牢に入れられるわよ」
「そう。でもね、私は今はまだ公爵夫人よ。どちらの方が身分が高いか、わからないほど愚かでは無いですよね?」
「あはは!みっともない。旦那様に認められていないんだから、そんなのなんの盾にもならないわよ。とにかく、早く出ていってくださいね。奥様だとは認めませんから」
言い返そうと、キッと睨みつけた瞬間に、室内からものすごい風が吹いてきた。その風にとばされてメイドたちは後退りし、私とベティは逆に室内へと吸い込まれる。
「オリヴィア、不用意に顔を出してはダメだ。もし、怪我でもしたらどうするんだ?」
バタンと勢いよく閉められた扉の横には黒兎がちょこんと立っていた。
「コンラッド!ベティが酷いことをされたのよ!それに食べ物だって粗末にされて…」
「オリヴィアは?怪我はないか?すまない、ルビィと一緒に朝食の用意をしていたら気がつくのに遅くなってしまった」
目線を合わせようとしゃがむと、膝の上にぴょこんと乗っかり怪我がないかチェックしてくれている様だ。
「コンラッドさん?すみませんオリヴィア様を守れず…」
「いいや、最初に盾になってくれてありがとう。怪我はどの程度だ?」
「頬を打たれた時に口の中を…あと、バスケットを取ろうとした時に手のひらを切ってしまいまして…」
「このくらいなら…ラ・クーペロ」
指先をベティの手のひらに向けて呪文を唱えるとキラキラと細かい星が傷口へ飛び込んで行く。
チカチカと光った後、スパッと切れていた傷が綺麗に治っていた。
「オリヴィア、朝食が届かないことは想定内だ。ルビィと一緒に食料を買い込んできたから安心して。」
「ありがとう、コンラッド。あの…私ぐっすり眠っちゃってて…」
「いいんだよ。ほら、ルビィがお腹が空いたと騒ぎ出す前にベティさんに朝食を作ってもらおう。俺はこの通り、料理には不向きな体でね。」
「お任せください!美味しい食事を作りますからね!」
ベティは張り切って腕枕をしながら隣の台所へと向かっていく。その隣にある、コンラッドとルビィが寝ているはずの部屋から男の人の姿になったルビィが顔を出す。
『まったく、人間って醜い者が多いわね!ウサギちゃんが追い払わなかったら私が炭にしてやるところだったわよ。』
「人間をやたらめったら炭にしちゃだめだ。それにここでそんなことしたら、オリヴィアが罰を受けることになるだろ?」
『やぁねぇ。跡形もなくやるわよ』
手のひらに青い炎を出してニタリと笑うルビィは、
その美しい顔も相まって相当恐ろしかった。
その炎に串に刺したどんぐりを突っ込み焼きドングリを作り始めたシュバルツのおかげで少し場が和むが、あの使用人達の様子では、今後冷遇が続くことが予想されて気持ちが滅入ってしまった。
あんな人、助けなきゃよかった。
人の命を救うのに見返りを求めているわけではないが、傷つけられると“せっかく助けたのに…”とがっかりした気持ちになってしまう。
嘘つきだと思うならさっさと追い返してくれればいいのに。こんな離れへと追いやって何がしたいのだろう。
はぁ、とため息をつくと、コンラッドが新鮮なニンジンを差し出してくれる。慌てて隠していたが、なぜだか嬉しかった。
「こっちを渡したかったんだ。」としおれた四葉のクローバーを手に握らせてくれた。
「どこかの国ではこれを人からもらうと幸せになれるんだと聞いた。そばにいられなくてごめん。でも、守るから安心してほしい」
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