星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

文字の大きさ
上 下
31 / 45

30・黒いウサギとコンラッド

しおりを挟む
「何故すぐに呼ばなかったんだ!!」

目の前で、背中に薄いピンクの布を小包の様にして背負って、短めの耳をぴょこんと立てた艶のある真っ黒な毛に深い海の様な濃い青の瞳の小さなウサギが一羽、プンスカと怒っている。

足元には手のひらくらいの魔法陣が敷かれており、毛で覆われたまんまるな足をトントンと動かして忙しなく動き続ける。
隣にはミルクティー色になってしまったシュバルツが、不思議そうにウサギの顔を覗き込む。

「おい!お前はあの黒いにいちゃんか?」

「あぁ、そうだ。魔法陣では小さなものしか移動できないからな。少し窮屈だがこの姿を借りている。」

「コンラッド、とっても…とっても可愛いわ!荒んだ心があらわれるようだわ!!」

ガバッと抱き込んでむぎゅーッと抱きしめると、ウサギさんの口からぐえええっと何かが潰れそうな音がする。

「オリヴィア、うれ、しいが、だめだ。後にしてくれ」

「ごめんなさい、ちょっと心がザワザワしてて…」

「全く、準備なんてしてないでついて行けばよかった。怪我はしていないか?ルビィが守ってくれてよかった。」

『あら、あなたとの約束よぉ。ちゃんと守ったでしょ?だからあなたも私との約束守るのヨォ?』

「わかってる。さてオリヴィア、今はどういう状況だ?」

ウサギが…いえ、コンラッド…ウサギか…短い手を頭の上に目一杯のばして、クルクルと耳と顔を擦っている。正直可愛すぎて話が入ってこない。
どうやら、ヴィクトール卿と一悶着あったことにご立腹らしく、目が若干吊り上がっている。
ベティは気を利かせて、この離れの掃除をしてくれている。もう夜も遅いのに申し訳ない…

「ヴィクトール卿はいよいよ私が必要なくなったみたいなの。屋敷には近づかない様言われたの」

「そうか!それは好都合だ!!」

家を追い出されたというのに、コンラッドは心なしか…いいえ、あからさまに喜んだ。
まだ、魅了の事やアリーナの事で調べたいことがあったが、そう簡単にはいかない様ですこしため息が出る。

「あの男のそばにオリヴィアがいると考えただけで気が狂いそうだった。いま、皇帝の謁見許可を得ているところだからもう少し待ってほしい。」

「えぇ?!そんなものどこからとったの??」

「ちょっとな。っと、誤魔化されないぞ。荒らされたのは部屋だけか?怪我は?」

「大丈夫!まさか室内であんなに大型の魔法を展開するとは思わなかったわ。ヴィクトール卿は本当にどうしちゃったのかしら?」

『ちょっとこれを見て。』

「それは、アリーナからもらっていたネックレス…」

『これ、強力な魅了魔法がかかってるのよ』

「このオレンジの宝石、ヴィクトール卿の机の上に置いてあったわ…」

『アクセサリーと、あのお嬢さん自体が魅了魔法をかけているのかもしれないわ。まえ、オリヴィアが言ってたことが気になってね、念のためもらっておいたのよぉ』

コンラッドがぴょこんとルビィの肩に乗っかって覗き込む。なんだか胸がざわりとしてルビィの手をぎゅっと握らせ、ペンダントを隠す。

『魅了魔法の上にシールドを貼ってあるから大丈夫よ?だいたい、この黒いウサギちゃんにこの魔法は効かないわよ』

「そ、そうなの?」

「オリヴィアがいるのに魅了魔法になんかかかるわけないだろ?安心しろ」

つぶらな瞳のもふもふ可愛いはずの黒兎が、とてもかっこよく見えた。寂しい離れに追い出されたはずが、何だか自分の家に帰ってきた時の様な、ホッとした気持ちになった。

「さぁ、皆さん、準備が出来ました。今日は寝ましょう」

ちょうど掃除を終えたベティが呼びに来てくれた。
湯浴みを終えてベティとシュバルツと一緒にベットにはいる。初めは恐縮していたベティだが、万が一のヴィクトール卿の夜這いに備えて、とコンラッド(ウサギ)がお願いすると快く頷いていた。

今日は討伐に、アリーナのとヴィクトール卿とのトラブルにとたくさんの出来事があった。
布団に入るとあっという間に眠りについてしまった。
次の日、扉に何かをぶつけられる音で目を覚ますまであっという間であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

処理中です...