星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

文字の大きさ
上 下
21 / 45

21・アンデット討伐部隊に参加しよう!

しおりを挟む
「オリヴィア様、起きておいでですか?」

「アルフ?入って?どうしたの?」

あまりの扉のたたき様に驚いて、すぐにベットサイドに置いてあったベールを被り、扉を開けると転がり込む様にアルフレッドが部屋へ入ってきた。手には封筒を握りしめていた。

「森の外れにある洞窟近くの遺跡にアンデットの集団が現れたそうです。旦那様とオリヴィア様に討伐せよと…皇帝から緊急の勅命が届きました!!」

「なんてこと、急いで準備をしなくては…」

「その必要はない」

まだ寝巻きのままだった私は慌てて支度をしようとルビィをベルで呼ぶ。冒険者として討伐に行く時の服をクローゼットから出そうと取手に手をかけた瞬間に、アルフを押し除けてすでに金色の鎧を着たヴィクトール卿が部屋へと入ってきた。

「力のないものが討伐に出れば必ず命を落とす。お前が来る必要はない」

「いいえ。いいえ、ヴィクトール卿、私も行きます」

「お前の心配をしてるんじゃない。お前を守るために何人死ぬかな?戦いはお遊びじゃないんだ。邪魔なんだよ。癒しの力もないくせに、何ができる?幸いお前はベールを被ったままだ。アリーナがベールを被って代わりについてきてくれるそうだ。」

ルビィが一歩前にでるが、片手で大丈夫、と合図を出し制する。

「…アリーナさんは本当に癒しの力を持っているの?もし持ってなかったら?助かる人も助からないわ!私を連れて行って!!」

パン!!

一瞬何が起こったのか理解できなかったが、じわじわと頬が熱くなり、次第に痛みを感じる。ベールがあったため、衝撃が和らぎ強い痛みはないが、顔を打たれると言う初めての経験に心が揺れる。

『何してんだ!!!』

ルビィが怒りを露わにして私を背中に隠す。殺気が漏れ出ているのか、蜃気楼の様なモヤが足元から轟々と溢れ出ている。

『てめぇ、何したかわかってんのか!!オリヴィアに手を出してタダで済むと思うな!』

「なんだと?俺に逆らい公爵夫人であるアリーナを侮辱したそちらが悪いんだろう。ふん。子爵家のメイドか、さすが、下品だな。」

『燃やしてやる。何も残らないほどに燃えろ。地獄の炎インフェルノ

ルビィの足元に強烈な赤い光の魔法陣が発動する。
ブワッと熱い蒸気が天井まで一気にあがりる。

「だめよ!ルビィ、やめて!!わかった。私は行かないからはやく。ヴィクトール卿、早く出て行って!!」

「チッ」

と舌打ちをすると、踵を返してヴィクトール卿は部屋から出て行った。アルフレッドは深々とお辞儀をしてヴィクトール卿を追いかけていく。
瞳孔が開き切ったルビィは、なおも鎮まらない怒りの炎を燻らせていた。


「お願い、手を出さないで。貴方の手を汚すほどのことじゃ無いわ。」

『オリヴィア、残念ながらそのお願いは聞けない。私の一番に手を出したんだからあの男には罰を下すわ。それが命で償うのか、運命で償うのかは追って決めさせてもらうわ。絶対に許さないわ』

ギチギチと拳から骨が軋む音が響く。赤黒い液体がポタポタと絨毯に流れ落ちる様をみて、咄嗟にルビィの拳を手を包み魔力を流し込むとフッと握っていた力が弱まる。

『やぁね。泣かないで。大丈夫よ怖かったの?』

「争いが起こるのは怖いの。誰かが怒っていると、怖くて仕方ない。弱くてごめんね」

『オリヴィア、多分ギルドもこの討伐に出てると思うわ、一回我が家に帰りましょ。ね。大丈夫よ、もう怒ってないから』

「ありがとう。そうね。メソメソしている場合じゃ無いわ。早く帰ろう。」

クローゼットから服を取り出し、急いで着替える。ベールを床に捨て、バルコニーに出ると後ろから、「オリヴィア様!!」と呼び止められる。

「ベティ、アルフ、ごめんね。私が行けば何人もの人を助けられるの。指を咥えて待っているのはごめんだわ。うまく誤魔化しておいて」

目の前で竜に変わるルビィをみて、息を呑んだ二人は覚悟を決めた様に頷く。

「いってらっしゃいませ。必ず、無事に帰ってきてくださいね」

「待っています。オリヴィア様」

「ありがとう」

暖かく送り出してくれた二人に微笑みを返し、、ルビィにまたがるといつもより低めにバルコニーから飛び立つ。ちょうどツーデンの正門から部隊が出発しているところだった。10騎程の馬が先導し、中程に白いクーペが一台見える、そこにアリーナが乗っているのだろう。
護衛だろうか、3騎の馬が周りを囲んでいる。

力のないものを守るために力のあるものが死ぬ。先程のヴィクトール卿の言葉を思い出し唇を噛み締める。彼らは、生きて帰れるだろうかと、心の中で心配になった。

その時、わざとルビィが咆哮を上げる。
軍隊の者たちが一斉に空を見上げる。赤い竜が目の前をものすごい速さで通り過ぎるのを呆気に取られて見ていた。一番先頭にいたヴィクトール卿と目が合った気がした。あの美しい、金色の目を見開いてこちらを見ていた…そんな気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...