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16・尋問という名の報告
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まだ離れて1日しか経っていない我が家はやはり落ち着く。私が気に入っていた椅子も窓際にまだあるし、食卓にも椅子が置いたままになっている。
いつでも帰ってこられる、と少し安心した。
「さて、ヴィア。例の件だけど酷い目には合っていないかい?」
静かにキレるリアお兄様が冷たい笑顔を窓の外に向けながら聞いてくる。
「怒って…いますか?お兄様。私が不甲斐ないから…」
「怒ってないよ。ヴィアにはね。ヴィクトールとかいう腑抜けには怒ってるんだ。命をかけて治療した人間が誰なのかもわからないなんて『稀代の英雄』?たかが知れたな。」
「ヴィアは何でそんな家に滞在してるの?即帰ってくればよかったじゃない。」
「…お姉様、勅命をやぶったらワンフルール家にどんなお咎めがあるかわかりませんから、何とかヴィクトール卿を説得して結婚を無かったことにしようかと思いまして。その…」
「説得ね。応じそう?」
お兄様とお姉様が美しい微笑みを今度はコチラへ向けてきた。ゾワっと背筋が凍った気がした。
『まぁ、あの平民の女からも嫌な気配がするし、オリヴィアの判断は間違ってないと思うわよ?』
ボコボコと沸騰した紅茶を美味しそうに一口啜ってルビィが言う。
「嫌な気配?」
一人掛けのソファに項垂れていたコンラッドがピクッと反応する。かろうじて聞き取れるくらいの微かな声で呟く。ルビィには十分聴こえていた様だ。
『そ、黒炎竜の調査結果はでたの?』
「出ていない。何故あんなところにほぼアンデットの黒炎竜がいたのか…死体は黒炎に覆われて燃え尽きてしまったし、発生源も未だ不明だ」
『ほぼアンデットね。死者を復活させることは出来ないのよ、私たちでもね。でも、手負の竜を洗脳して強化することはできるわよ。』
「死骸が瘴気に当てられてアンデットになる手前だったとは考えないのか?」
『イフリータの私がただの瘴気に当てられただけのアンデットドラゴンを倒せないとでも思ってんの?心外ねぇ。』
ちょっと癇に障ったのか、ルビィの瞳の瞳孔が開きゴォッと空気が動く。コンラッドも引くことはなく風の魔法を展開させてルビィの威圧を弾き返した。
「まぁ、確かに。俺の剣も効かなかった。」
『へぇ。あんたの剣が効かないとなるといよいよ怪しいわね』
「…まぁ。な。」
「そんなに強い竜だったの?」
緊迫した二人の会話には入れず、そばにいたリアお兄様にこそっと聞いてみると、真剣な顔で頷く。
魔法も剣も全て吸収してしまい効かなかったらしい。
氷漬けにしても平気で動き、氷を破壊したそうだ。切っても切っても再生してきてダメだったらしい。
「じゃあ、どうして倒せたの?」
「ヴィアは覚えてないんだね?あの時ヴィクトール…卿に大量の回復魔法を浴びせたろ?その光が漏れて黒炎竜もその光を浴びることになったんだけど、そこから溶けたんだ。」
溶けたの意味がわからず首をかしげると、コンラッドが赤い顔をしてコチラを見つめていることに気がついた。
「首を傾げるのをやめてくれ、オリヴィア。」
と言いながら顔を手で覆いまた項垂れてしまった。
『オリヴィアの魔法が黒炎竜に効いたのよ、そこから溶けるように燃えてしまったの』
「ヴィクトール卿の大型魔法が効いたとかは?」
「ないね。足止め程度で全く効いてなかったから」
「私の回復魔法、普通のものじゃないからそれが原因かしら?」
そう、私の魔法は通常の物とちがう。幼い頃読んでもらっていた古い物語に出てくる魔法を使っている。“星降る夜の願い事”という世界を救う物語。
幼い頃読み聞かせてもらってから、その物語に出てくるお姫様に憧れて真似して使い始めたのだ。
なんせ使い始めたのが人より早い5歳だったので、現在の魔法の使い方なんて誰も教えてくれていなかった時である。
私が使っている、旧魔法と表現すればいいか、今はそちらを使う者はあまり居ない。
現在の魔法は精霊から力を借りてつかう。
炎を司るサラマンダー
水を司るウンディーネ
風を司るシルフ
土を司るノーム
である。
じゃあイフリータは?と聞かれるとそれが一番厄介で、イフリータは上位精霊にあたる。願いを叶えてくれる精霊で、この4大精霊の上位に位置している。
炎の精霊でもあるが、死の化身とも言われている。
イフリータもいれて、5人の精霊がこの世界の守り神になっている。
私はその力を借りていない。
願いの力を魔力に変えて魔法を使っている。
燃費が悪いので今はあまり使われていない。
力が足りないと魔力痕がつくこともある。私の場合は、自分の魔法の起源である物語の星の跡がつくのが特徴である。
『オリヴィアの魔法は昔を思い出せて心地いいのよ』
いつのまにか背後に来ていたルビィが顔を私の肩の上に乗せて反対側の頬をすーっと指でなぞる。
『あの英雄様が何と言おうと、貴方がいなかったら今頃大変なことになってたわよぉ』
「感謝されたくて助けたわけじゃ無いから…あの人にわかってもらうつもりはないわ」
『オリヴィアがいなかったら私、こっちに出てきてないし!もっと被害が出ていたかもね!』
「ルビィのお陰ってことね、ありがとう」
『もー!ほんと、響かないんだからー!』
みんなでワイワイと騒いでいると突然バン!!とあちらの部屋のドアが開けられた。
「ルビィ、オリヴィア2号の方に来客みたい」
『あら。目を瞑って、意識してみて、多分喋れると思うの』
そのまま、目を閉じると景色が変わり、オリヴィア2号が見ている景色がみえた…
いつでも帰ってこられる、と少し安心した。
「さて、ヴィア。例の件だけど酷い目には合っていないかい?」
静かにキレるリアお兄様が冷たい笑顔を窓の外に向けながら聞いてくる。
「怒って…いますか?お兄様。私が不甲斐ないから…」
「怒ってないよ。ヴィアにはね。ヴィクトールとかいう腑抜けには怒ってるんだ。命をかけて治療した人間が誰なのかもわからないなんて『稀代の英雄』?たかが知れたな。」
「ヴィアは何でそんな家に滞在してるの?即帰ってくればよかったじゃない。」
「…お姉様、勅命をやぶったらワンフルール家にどんなお咎めがあるかわかりませんから、何とかヴィクトール卿を説得して結婚を無かったことにしようかと思いまして。その…」
「説得ね。応じそう?」
お兄様とお姉様が美しい微笑みを今度はコチラへ向けてきた。ゾワっと背筋が凍った気がした。
『まぁ、あの平民の女からも嫌な気配がするし、オリヴィアの判断は間違ってないと思うわよ?』
ボコボコと沸騰した紅茶を美味しそうに一口啜ってルビィが言う。
「嫌な気配?」
一人掛けのソファに項垂れていたコンラッドがピクッと反応する。かろうじて聞き取れるくらいの微かな声で呟く。ルビィには十分聴こえていた様だ。
『そ、黒炎竜の調査結果はでたの?』
「出ていない。何故あんなところにほぼアンデットの黒炎竜がいたのか…死体は黒炎に覆われて燃え尽きてしまったし、発生源も未だ不明だ」
『ほぼアンデットね。死者を復活させることは出来ないのよ、私たちでもね。でも、手負の竜を洗脳して強化することはできるわよ。』
「死骸が瘴気に当てられてアンデットになる手前だったとは考えないのか?」
『イフリータの私がただの瘴気に当てられただけのアンデットドラゴンを倒せないとでも思ってんの?心外ねぇ。』
ちょっと癇に障ったのか、ルビィの瞳の瞳孔が開きゴォッと空気が動く。コンラッドも引くことはなく風の魔法を展開させてルビィの威圧を弾き返した。
「まぁ、確かに。俺の剣も効かなかった。」
『へぇ。あんたの剣が効かないとなるといよいよ怪しいわね』
「…まぁ。な。」
「そんなに強い竜だったの?」
緊迫した二人の会話には入れず、そばにいたリアお兄様にこそっと聞いてみると、真剣な顔で頷く。
魔法も剣も全て吸収してしまい効かなかったらしい。
氷漬けにしても平気で動き、氷を破壊したそうだ。切っても切っても再生してきてダメだったらしい。
「じゃあ、どうして倒せたの?」
「ヴィアは覚えてないんだね?あの時ヴィクトール…卿に大量の回復魔法を浴びせたろ?その光が漏れて黒炎竜もその光を浴びることになったんだけど、そこから溶けたんだ。」
溶けたの意味がわからず首をかしげると、コンラッドが赤い顔をしてコチラを見つめていることに気がついた。
「首を傾げるのをやめてくれ、オリヴィア。」
と言いながら顔を手で覆いまた項垂れてしまった。
『オリヴィアの魔法が黒炎竜に効いたのよ、そこから溶けるように燃えてしまったの』
「ヴィクトール卿の大型魔法が効いたとかは?」
「ないね。足止め程度で全く効いてなかったから」
「私の回復魔法、普通のものじゃないからそれが原因かしら?」
そう、私の魔法は通常の物とちがう。幼い頃読んでもらっていた古い物語に出てくる魔法を使っている。“星降る夜の願い事”という世界を救う物語。
幼い頃読み聞かせてもらってから、その物語に出てくるお姫様に憧れて真似して使い始めたのだ。
なんせ使い始めたのが人より早い5歳だったので、現在の魔法の使い方なんて誰も教えてくれていなかった時である。
私が使っている、旧魔法と表現すればいいか、今はそちらを使う者はあまり居ない。
現在の魔法は精霊から力を借りてつかう。
炎を司るサラマンダー
水を司るウンディーネ
風を司るシルフ
土を司るノーム
である。
じゃあイフリータは?と聞かれるとそれが一番厄介で、イフリータは上位精霊にあたる。願いを叶えてくれる精霊で、この4大精霊の上位に位置している。
炎の精霊でもあるが、死の化身とも言われている。
イフリータもいれて、5人の精霊がこの世界の守り神になっている。
私はその力を借りていない。
願いの力を魔力に変えて魔法を使っている。
燃費が悪いので今はあまり使われていない。
力が足りないと魔力痕がつくこともある。私の場合は、自分の魔法の起源である物語の星の跡がつくのが特徴である。
『オリヴィアの魔法は昔を思い出せて心地いいのよ』
いつのまにか背後に来ていたルビィが顔を私の肩の上に乗せて反対側の頬をすーっと指でなぞる。
『あの英雄様が何と言おうと、貴方がいなかったら今頃大変なことになってたわよぉ』
「感謝されたくて助けたわけじゃ無いから…あの人にわかってもらうつもりはないわ」
『オリヴィアがいなかったら私、こっちに出てきてないし!もっと被害が出ていたかもね!』
「ルビィのお陰ってことね、ありがとう」
『もー!ほんと、響かないんだからー!』
みんなでワイワイと騒いでいると突然バン!!とあちらの部屋のドアが開けられた。
「ルビィ、オリヴィア2号の方に来客みたい」
『あら。目を瞑って、意識してみて、多分喋れると思うの』
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